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二人きりのお茶会

アイザックとカインは夕日が沈む頃に戻ってきた。

今日メイナの元を訪れたので、お二人の仕事はまだお済みではない。

そのため夕食はこちらで取る事になった。

「夕食時には後ろ側からどなたかいらっしゃいますので、そちらの補助を頼みます。お願いしますね、ファルノ」

そろそろエルザの勤務時間の終了だ。

今日の私は夕食の手伝いが終わってから勤務終了だ。

ちなみに〝後ろ側〟とは、王族のプライベートを過ごすエリアのことで、アイザックは本来ならそちらで夕食を取ることになっていたので夕食のために使用人がやってくるのだ。

夕食は昼食のような簡単なものではないので、執務室とは別の部屋で食べる。

今日は時間がないらしく、執務室の近くにある会議も行われる部屋を夕食を食べれるように整えることになる。

テーブルクロスなどのセッティングはエルザが出していたので、私は夕食が運ばれて来るのを待つだけだ。

後ろの使用人は誰が来るのだろう。

そもそも青の宮の使用人はベテランばかりだ。

私のような新人はほとんど配属されない。

アイザックと同年代の侍女は、王子の結婚したいとか、お手付きになりたいという下心を持っている人が多いからである。

私の場合は、父親が王家所有の領地を任されており、兄は後宮全体の財務官だ。

そのため、私がアイザックに二心有りと判断されれば一家郎党職を失うことになる。

要するに、私が何かしでかせば家族が危ういということだ。


「ファルノ、お茶は私の執務室に…」

アイザックと共に夕食をとったカインだがよほど忙しいのだろう、まだアイザックが食べ終わる前に食事を済ませて立ち上がる。

これはいつものことなのでアイザックは気にしておらず、優雅に食事を続けている。

ここは後ろ側から来た侍女と執事に任せる。

この方達はアイザック専属の使用人であるから私がいても問題ない。

私はお茶の用意をカインに当てられた執務室へと運んでいく。


「失礼します」

「お茶は二つ淹れて。君も一緒に…」

「わ、わかりました」

一緒にお茶をなんて言われたのは初めてです。

動揺が出てしまいました。

やはり、今日の贈り物の件でしょうか。

私自身には不手際が無いと思いますが、カインの一声で首になる身分です。

かなりドキドキします。

応接セットのテーブルにお茶を淹れたカップを2つ置く。

「ハルエス様、お茶のご用意が整いました」

「今行く」

カインが書類を見ていた手を止め、立ち上がる。

「そんなに畏まらなくていい。俺のことはカインでいいぞ」

私の緊張が伝わってしまって、カインにクスリと哂われてしまう。

「わかりました。そのように呼ばせていただきます」

「もうちょっと砕けてもらってもいいのだが…」

ボソリとカインが零すが、そんなことは無理です。

「そういえば、こうやって話すのは初めてだったか……」

昨日からカインが近くて、梶谷春斗ボイスを浴びすぎているような気がします。

「メイナ嬢への贈り物、選んでくれて助かったよ。彼女も喜んでいくれてアイザックもご満悦だった」

最後なマクセルが来なければ、アイザックもっと喜んでいたことだろう。

「俺は女性への贈り物とかほんとわからないし、アイザックはアレだし…」

「殿下は装飾品をすぐに贈りそうでいらっしゃいますものね…」

目録を見ていたアイザックを思い出して遠い目になる。

「これからも頼りにすることがあるだろう。その時はよろしく」

「お役に立てるように努めさせていただきます」

普段仕事をバリバリとこなすカインやアイザックは、女性に関わることは苦手らしい。

恋人も婚約者もいない男性なら仕方ないことかもしれない。


「もうちょっと俺が女性に対してアドバイスできていたら、結果は違ったのだろうか……」

ポツリとカインがこぼす。

アイザックの想いを知りながら、カインはメイナとマクセルが恋を育んで行くのを見てるしかなかった。

アイザックの友人として、心苦しかったのだろう。

「私、学園の頃に偶然聞いたことがあるんです」

学園でたまたまメイナを見かけた私は、ゲームのワンシーンでも覗き見れるかとメイナに近づいた。

その時にこっそり聞いてしまった。

「彼女は騎士のような体格がしっかりした方が好みだと、そうご友人達と話していました」

「つまり、アイザックはメイナ嬢の好みではなかった?」

「おそらくそうだと思います。広い背中がカッコいいのだと…」

メイナはどうやら筋肉好きらしかった。

マクセルは上背も高く、騎士らしく筋肉隆々だ。

一方のアイザックは、それなりに鍛えてはいますが、必要最低限の筋肉のみ。

筋肉好きにしたら物足りないないだろう。

まさかゲームのヒロインがマッチョ好きとか、どこのプレーヤーさんの趣味なんですか!?と当時は叫んだ。

「やっぱり女性は筋肉がある方が良いのか?」

細身のカインは後も兼ねるため鍛えてはいるけれど、どちらかといえば魔法寄りの戦い方をする。

だからあまり筋肉がついているわけではない。

もしかしたら気にしているのだろうか。

「逞しい方が良いという女性もいますが、それがすべての女性の好みなわけてはこざいません」

私の兄なんてヒョロヒョロだ。

それでも仲睦まじい婚約者がいる。

「じゃあファルノは?」

「へ?」

「ファルノはマクセル殿のような男が良いのか?」 

予想外の質問に、変な声が出ました。

「君、マクセル殿が訪ねて来た時嬉しそうにしてるだろう?今日だって、マクセル殿に声をかけられて動揺していた」

「そ、それは……」

冷や汗が大量に流れる。

たしかにマクセルがアイザックを訪ねてこの宮に来た際、エリザにお願いして私がお茶出しをかって出ていた。

それに、今日マクセルに声をかけられて感動していた私に気付かれていたらしい。

さすが有能な側近である。

「君もアイザックがメイナを好きなようにマクセル殿のことが……」

「ち、違います!!!」

私がマクセルに恋愛感情があるとカインは勘違いしているらしい。

「シュリアス様のことは…憧れというか推しというか……。殿下のようにお慕いしているわけではありません!」

「そうなのか?では、好きではないと?」

カインに疑いの目を向けられる。

「好き…ではあるんですが、その、恋愛感情はなくてですね…ただそのお姿を見るだけで良くて……」

パニックになってまともに言葉が紡げない。

私はマクセルがタイプなわけでもなく、ただその声に萌えてるだけなんてどう説明すればいいんだ。

「ほら、練兵場でご令嬢達がキャーキャー言ってるアレに近くて…」

なんとかカインは納得してくれないだろうか。

「あそこにいる令嬢達は結婚相手を探しに来ているんじゃないのか?」

例えがやぶ蛇だった。

「私は今は侍女の仕事を頑張りたいので、恋愛とか結婚とか、そういうのはちょっと……」

言葉で伝えられないなら、目で訴えるしかない。

私は必死にカインを見つめる。

私の気持ちが伝わったのか、カインはため息を付いて自身の体を背もたれへと預ける。

和らいだカインの雰囲気に、私はホッとする。

二人、目の前のお茶を飲んで一時休戦だ。


「ファルノは婚約者はいないとのことだが、恋人もいないのだろう?」

カインに問われ、私らコクコクと頷く。

「もしマクセル殿の相手に…と言ったらどうする?」

「恐れ多くて無理です」

マクセルのことはゲームキャラとしか見れないし、ゲームの登場人物にガチ恋もしないし夢も見ません。

それに私はマクセルと主人公のカップル推しだ。

マクセルとメイナが幸せであるならそれがいい。

「じゃあ、アイザックならどうだ?」

「アイザック殿下ですか?」

なんでカインはこんなことを聞くのだろう。

アイザックに恋愛感情なんか持ったらクビからの一家が路頭に迷うまで一直線だ。

そんなことカインは重々承知のはず。

私は侍女として試されているのだろうか。

「殿下は仕えべき主であり、そのようなことは考えたこともございません」

私は絶対に誤解されたくなくて首を激しく横に振る。

この青の宮には若い侍女は私しかいない。

アイザックの婚約者の座やお手付きを狙う女性達が多くて、今残ってる侍女以外は全員青の宮から外されたのだ。

「大丈夫、そこはわかってるから」

私の必死さが可笑しかったらしい。

カインが口元を押さえて笑っている。

「ところで、今度の舞踏会は出るのかい?」

今度の舞踏会とは、春迎の会のことだろう。

上位貴族はほとんど参加しない気軽な催しだ。

「エルザさんが夫婦で参加されるそうですので、私は当日は当番だと思います」

エルザが今年出世して分隊長になった夫と出席するでしょうから、私はおそらく第二王子の控室番をしなければいけない。

「なんだ、仕事なのか…」

残念だとカインがため息をつく。

「カイン様…」

私がジトッと睨むとカインは誤魔化すように立ち上がった。

舞踏会に私がドレスで出席していたら、カインは私をダンスにでも誘うつもりだったのかもしれない。

カインは当日はアイザックの側に付いているだろうが、令嬢達の誘いがあれば一度くらいはダンスをしなければならない。

後腐れなくダンスを踊る相手として私をターゲットにしていた可能性が高い。

カインとダンスなんてしたら、妬み嫉みに嫌がらせと私の平穏な侍女ライフが脅かされるに違いない。

ちょっとカインのことは警戒しておかなければ。


カインが執務机の方に戻ったので、私も飲み終わった2人分のティーセットを持って片付けを始める。

「ファルノ」

あまりにも近くで呼ばれて、慌てて振り返る。

目と鼻の先にカインが立っていて、危うくぶつかりそうになる。

気配も足音も殺して背後に立つのはやめていただきたい。

「これ、食べないからあげる」

カインの手には瓶に入ったクッキーだ。

「ありがとうございます」

差し出された瓶を素直に受け取る。

「それじゃ、おつかれさん」

ポンポンと私の肩を叩いて、カインは満足そうに執務机日戻っていった。

私は手の中にある瓶を確認する。


これ、賄賂じゃないよね。

というか、これは食べて大丈夫なんだろうか。

そんな不安はあるが、せっかくだからとありがたくもらっておくことにする。

すでに仕事を始めたカインを邪魔しないように、私は部屋を退室した。



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