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お出かけ

カインと街へ出かける日が来た。

午前中の仕事を終え、私は持って来ていた私服に着替える。

カインと二人でのお出かけになるので、侍女のお仕着せを着ていきたい。

そうすれば仕事だとわかるから、変な噂も立たない。

しかし、王宮の制服だと街中で目立つからということで街歩きできる私服を指定されてしまった。

控室にいた侍女や下女達に、街におつかいに行ってくる旨を告げる。

こう言っておけば、カインとデートだという噂は立たないはず。

「これでどう?」

手の空いていた侍女仲間が、私の髪を結ってくれる。

他の侍女もメイクをしてくれて、可愛く仕上がった。

「ありがとう!助かったわ」

さすが王宮勤めの侍女にやってもらうと出来上がりが違う。

やっぱり自分でやるよりは断然よく出来た。

「カイン様に見劣りしたら困るものね!」

そんなからかいの言葉をかけられながら、送り出された。


私は近くの通用門の馬車停めへと向かう。

すでにカインは来ていて、慌てて駆け寄る。

「お待たせして申し訳ございません」

「気にしないで。俺の仕事が少し早く片付いただけだから…」

カインも私服というよりは街中でも目立たないようにシンプルな装いをしている。

この服なら貴族には見えないだろうけど、端正な顔立ちはどうやっても隠せないだろう。

護衛もいるようだし、どうにかなるだろう。

さっそく馬車に乗り込んで、お店が立ち並ぶエリアへと向かう。

「まずは庶民から貴族まで人気の砂糖菓子のお店『ティンクル』に向かいます」

行き先はリスト化して事前に渡してある。

この『ティンクル』という店は以前の目録にもあったコアン商会の経営の店だ。

ここで選べば間違いない。

「いやぁ、こういう店はほんとに縁がなくて。エイシルがいなくちゃ一人でも入れないわ」

『ティンクル』の店は御婦人や若い女の子がいっぱいいる。

「お菓子に施された意匠がそれぞれ違うのてま、店頭で実際に見て選ぶ方が多いんです」 

ここで売ってる砂糖菓子は、ケーキの上に乗ってるマジパンよりは和菓子の落雁に近い。

口の中に入れればホロッと溶ける。

上質な砂糖を使っているので、上品な甘さなので紅茶にもよく合う。

また色も形も多様で、花から動物など多種ある。

選ぶのも楽しいし、お土産とするなら持っていく相手に合わせたチョイスができる。

「いっぱいありすぎるな…」

店頭のショーケースに展示されている見本だけでも数百ある。

それを見て、カインは途方に暮れていた。

そんな困り顔のカインを、お店にいる女性達が見惚れている。

ついでに、隣にいる私を見ては「なんであんなのが」とか言われてしまっている。

デートで恋人に強請っているように見えないよう、私は努めて事務的な口調を心がける。

「無難なところであればお花のシリーズでしょうか。どの花がお好きとかありますか?」

そういえば私はゲームはやりこんだけど主人公のパーソナルデータはさっぱりだ。

今日までにメイナの好みを調査しておくべきだった。

こういうところは、一流の侍女としてまだ修行が足りない。

「う~ん…俺もよく知らないんだよな」

「では、ピンクと薄紫、それと黄色と白の花のセットにしましょうか。その中から選んでもらうということで」

「それがいいな!」

大量に買う必要があるのは、毒見したりとか問題がないかチェックする必要があるからだ。

花のセットを数セット、それに追加でバラでいくつか買ってお店を出る。

買った商品はカインの従者が馬車まで運んでくれるらしい。

さすが侯爵家の令息だ。


お店を出て、通りを並んで歩く。

このエリアは貴族と庶民、両方が買いに来れるお店が並んでいる。

ゲーム中でも主人公がこのエリアよく買いに来ていた。

「エイシルはよくこの辺に来るのか?」

「たまにですが…」

学生時代はお小遣いを貯めて、よく街に繰り出していた。

ゲームと同じ景色やゲームで登場した食べ物が実際にあるのだ。

どこを歩いても聖地巡礼だ。

モブ店員さえもゲームに実際に出てきた人だったりすると、もう感動でその場に崩れ落ちそうになる。

前世では非業の死を遂げましたが、このゲームやり込んでてほんと良かった。


「あ、このお店です」

先程の店から歩いて数分、今度は焼き菓子の店だ。

この『プレッツェ』もコアン商会のお店だ。

こちらの店は見本が置いてあって、店頭で注文したら包んでくれる。

先程の『ティンクル』とは少し格式が上だ。

「予約していたのですが…」

私は使用人のフリをして、店員に声をかける。

店員がこちらを見たので、カインがよく見えるように体をずらす。

「お待ちしておりました」

ひと目みて高位貴族だとわかるカインを認識し、店員が恭しく礼をする。

店員の案内で店の奥へと案内してくれる。

貴族には個室に案内されて、品物を選ぶ。

貴族の注文は大量だったり、店頭で買える商品よりも質が良く値段の高いものだったりするからだ。 

私もこちらの個室に案内されたのは、母親と共に一度あるくらい。

店員が見本となる焼き菓子を銀のトレーに載せて持ってくる。

横には紅茶も淹れてくれて、実際に味見をしながら選ぶのだ。

「どれか気になるものはございますか?」

タルト生地の上に木の実やドライフルーツが乗ったものからクッキーまで、食べやすい一口サイズの焼き菓子だ。

これは貴族が摘みやすく食べやすくされたサイズだ。

「贈り物でしたら、先程店頭で並べてあった大きさのものでもいいかもしれません」

「たしかにな。これはどのくらい日持ちする?」

「こちらにある焼き菓子は食べ時は2、3日くらいとなっております。本日ご注文いただき、入り用になった際にお届けするという形を取っております」

説明を聞き、私とカインは顔を合わせる。

今日わざわざ二人で買いに来たのは、買ったものを自分達で持ち帰るつもりだからだ。

後日注文して届けてもらうと、届け先が第二王子宛になるので、その焼き菓子の行き先を詮索されてしまう。

「保存に向いている物はここでは取り扱ってないのかしら?」

今日購入して、明日明後日に贈り物をメイナに届けられるとは限らない。

それに賞味期限ギリギリのものを王子が贈って、そこでお腹を壊したなんてなればさらに大きな問題になる。

「大変申し訳ございません。日持ちするものはこちらの店舗では扱っておらず…」

「そうですか……」

私のリサーチ不足だ。

ゲームでは主人公はこの『プレッチェ』のお菓子をよく食べていた気がしたから、メイナもきっと喜ぶと思ったのに。

私達は出された紅茶だけを飲み干して、この店をあとにした。




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