身の上話
私、ファルノ・エイシル。現在、18歳。
王宮勤めの侍女である。ちなみに未婚で婚約者なし。
というのが現在の肩書だ。
しかし、私には前世がある。
声優 和田宏樹様を激推し、稼いだ給料の大半は推しに注ぎ込む28歳社畜だった。
私の推しもとい神様は売れっ子声優だったので、とにかく関連商品やアプリにお金を使う日々だった。
そして食品まで削って神様に貢いだ結果、貧血で倒れて打ちどころが悪く亡くなるという失態をしてしまう。
まだあのアプリの新装のボイスを聞いてません、アニメ続編決定発表あったばかりなんですが、神様ぁぁぁ!!!
と叫んだら、何か別の神様に出会えてこの世界に転生する羽目になった。
せめて、元の世界に転生させてくれ。
と、嘆きながら記憶を取り戻りたのは、10歳の時だった。
そして私はこの転生した世界が、前世でハマって全キャラ攻略してスチルコンプリートまでした乙女ゲーム『緑陰の羽ばたき、黒き息吹』略して『りょくいぶ』というゲームの世界だということに気付く。
ありがとう、神様!!
ありがとう推しボイスがある世界!!!
私は去年まで学園に通っていたのだけれど、そこではちょうどゲームのストーリーが進行していて、目の前でゲームの登場人物がいるものだから、目も耳も幸せすぎて昇天しそうだった。
登場人物は、ゲームの主人公、メイナ・ヒルデン。
聖なる力に目覚め、邪竜を仲間と鎮めるために頑張る聖女だ。
そして、主人公の相手役となり、邪竜封印のための聖石を持つ男性が6人。
我が国、キッシェリア王国の第二王子アイザック・キッシェリア。
王国最強の魔法騎士マクセル・シェリアス。
メイナの幼馴染のイザード・ボルテン。
賢者、ヒルメス・エンメント。
最年少魔法使い、セドリック・デゼル。
聖石を守る一族、レン・カタルギ。
マクセルは私の推し声優である和田宏樹がキャラクターボイスをしている。
つまり、マクセルが私の推しである。
たまに見かけて、そのお声を拝聴するだけで昇天しそうになる。
あとの登場人物のキャラクターボイスは追々お教えします。
そして、1年目の学園パート、2年目の王宮・邪竜封印パートを経て、今ココという感じである。
ちなみに私は、ゲーム進行にもまったく関係ないモブ令嬢である。
学園ではゲームキャラを見守り、たまに聴こえてくるCVに身悶えて過ごしました。
士官過程を無事卒業し、王宮で侍女勤めをしております。
ゲームでの2年目は王宮パートなので、不意に見かけるキャラ達を心の中で尊びながら日々働いております。
「アイザック様、いい加減お仕事の時間ですよ」
執務室のソファで寝そべっているアイザックを側近のカインが窘めている。
カインは『りょくいぶ』の攻略対象ではないが、王子の側近として度々ストーリーに絡んでくるので、人気のあったキャラだ。
声優も爽やかイケボで有名な梶谷春斗で、なんで攻略対象じゃないのかと言われていた。
とある腐った界隈では主従コンビとして人気を博していた。
ここではハルエス侯爵の次男かつ第二王子の側近として女性から人気が高い。
そんなカインは、今も仕事をしない主人を一生懸命起こしている。
私は何をしているかというと、先輩侍女エリザと共に壁と一体化して気配を消している。
私達は第二王子の住まう青の宮付の上級侍女だ。
テーブルに出ているティーセットの用が無くなるまでここで待機しておくのが今の仕事だ。
王宮には上級侍女と下級侍女、そして下女という官職がある。
上級侍女は家が伯爵家以上の女性がつく仕事だ。
王宮では高貴な人の近くには伯爵家以上の人間しか侍ることができない場面が多くある。
第二王子の執務室のように機密性の高い部屋なんかもそうだ。
普段は掃除は下女がするが、こういった入室が限られる特定の場所は上級侍女が掃除からお茶出しなど全てを行う。
私は侍女2年目のペーペーなので、先輩について仕事をしている。
アイザックがカインに促されて渋々執務机へと戻る。
私はエリザと共に素早くテーブルの上を片付け、ワゴンを押して静かに部屋を出た。
その後は、この執務室フロアで細々と仕事をしたりする。
来客があったり呼ばれたりしたら、すぐにティーセットを用意するので、呼び出しには注意しなければならないのだ。
まだ慣れないけれど、私はここでも前世の社畜スキルを用いながらも、日々を過ごしています。