雨合羽を着た男
晴れましたね。
雨が降ってるかもしれませんが晴れを祈ってこう書いておきます。
※予約投稿(8/30)
ということで晴れにまつわるお話をひとつ、お伝えしましょう。
雨の日に傘を差している人、これはそう珍しくは無いでしょう。
あるいは、雨の日に合羽を着ている人。これも傘と比べれば少ないですが、決して珍しいと言う程ではないです。
晴れの日に傘を差している人。珍しいといえないこともないですが、ここ最近じゃあ日傘を持っている人も増えてきました。夏真っ盛りです、珍しいと言うほどじゃあ無いでしょう。
晴れの日に、雨合羽を着ている男。これは珍しいと言って良いのでは無いでしょうか。そうそう見かけることは無いのですから。
ましてやこの季節です。わざわざ蒸し暑い雨合羽を着るなど。
しかし私は見かけました。今日、昨日、一昨日。
黒と黄色のまだら模様の雨合羽を着た男を、ここ一週間ほど毎日見かけています。
服装というのは個人の自由ではありますが、こうも毎日雨合羽を着ているというのは、なんだか不思議で、私はどうしても好奇心を抑えられずに居ました。
だから彼に会った時、晴天の元、お天道様の目下目前で聞いてみたのです。
「すみません」
「どうして晴れているのに雨合羽を着ているんですか?」
そう、訊ねました。
その男は、黙ったまま被っているフードを持ち上げてみせてくれました。
隠れていた顔があらわになります。
ずたずたの口元。ぼろぼろの鼻。
けれど彼が見せたいのはそれでは無く。
男は横を向いて、見せたいものを指さしました。
その先にあったのは、というか、"なかった"のは、耳です。何か黒ずんだ跡の様なものだけがそこに残って、普段想像する耳というものがそこにはありませんでした。
それから男は紙とペンを取り出して、サラサラとこう書いたのです。
"わたしは耳がきこえません"
"ヒツダンはできますか?"
私はスマートフォンを取り出して、こう打ち込んでから彼に見せました。
"すみません"
"なぜ、いつもカッパを着ているのですか?"
彼はまたサラサラと紙に書き込んで、私に教えてくれました。
"とられないためです"
どうにもよくわからない。それが率直な感想でした。
そんな私を見て、彼は、紙へとこう書き加えてくれました。
"耳と口を取られました"
"もう取られないように かくしています"
その内容のブキミさに、何か背中にぞっと走るのを感じました。
その内容はそれほど真に迫っていたのです。
目の前の男の口元。耳。見せられた跡が、私の反論を握りつぶしていきました。
その口元に。耳に。注目していたから気付かなかったのです。
彼の目が、私ではなく、その後方にそそがれていた事に。
私が気付いたのは、彼がバッと深く合羽を着込んだ事と、その彼の目が、深く深く見開かれていた事だけでした。
私は、本当は、皆さんに、直接このお話を話したいのです。
でも、もう口が無いので、こうして文章でお伝えしています。
ーー雨合羽を着た男




