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chapter6:知らない家族の温もり

「あ、あの姫野さん??」

「そろそろ離してもらえませんか??」


「嫌だ。」


 俺は彼女を抱きしめていた。泣き止むまで、ずっと。

 それから10分程だろうか、落ち着いてきたみたいだ。

 しかし、彼女は俺を離してくれない。


 あー、こりゃダメそうだ。


 しばらくして、やっと離れてくれた。

 顔を見ると、目元が赤くなっていた。


(すんごい可愛いんですけど、!!)


 そしてお互いに立ち上がり、そのまま彼女を家に送ろうとした所で袖を引っ張られた。


「ねぇ…黒田君の家にお願い。」

「――今日、家で一人は嫌だ。」


 ――は?

 え??…え?

 頭の中が???だった。

 思考フリーズする。


「何言ってんだよ。明日も学校あるし、着替えとかどうすんの。」


「嫌だ。」


 ただ嫌だの一点張りで、いい歳の女の子が駄々をこねる子供の用だった。


 もうこうなれば俺の話など聞くはずもないと思い、何も言わず自宅、黒田家へ足を進めた。

 道中はずっと俺の腰の裾を、姫野さんが掴んでいた。


「ただいまー。」


 玄関まで妹の(しずく)が来ていた。


「あ、おかえりー、おにいちゃ、、、」

「ぎゃーー!!」

「お兄ちゃんが女の人連れ帰ってるー!!!」


 とある絵画のように両手を頬につけて悲鳴を上げていた。


「事情は後で話すから、タオル持って来てくんないか。」

「兄ちゃん風呂の準備するから。」


「うん、分かった。」


 そう言って、彼とその妹さんは素早く動いた。


「あ、姫野さんはまだそこに居てね。」

「妹がタオル持ってくるから。」


 私はそう言われて、ただ立っていた。

 黒田君家の玄関辺りを見渡す。ごく普通の玄関だ。

 でも私の家と決定的に違うものを感じた。

 目には見えない、家族の暖かさを。


 そうこうしていると、黒田君の妹さんがタオルを持ってきてくれて、頭を拭いてくれていた。


 (あれ、、?)


 私は髪や体を拭いてもらっていた。

 頭を、濡れた体を拭いてもらって、ある程度は水気が取れるはずだ。

 でも、視界がぼやける。


「え、えぇ!!」


(いきなりお姉さん泣き出したんだけどー!!)

(え、どうしたらいいの!おにぃ~!!)


「ゔぅ゙゛、、うぅ、」


 涙が止まらない。

 泣きたくないのに、涙があふれてしまう。


「お兄ちゃーん!!」


 妹さんは、私にタオルを頭に被せたまま、黒田君を呼びに行ってしまった。


 俺は急いで風呂の準備をしていた。

 流石に今日は昼が暑かったとはいえ、雨が降るとかなり冷える。

 特に女性は体が冷えやすく、一度体温が下がると上がりにくいと姉が言っていた。

 すると、廊下をバタバタと言わせて、雫が俺を呼びに来た。


「お兄ちゃん!!」

「お姉ちゃんが、、!」


「え。」


 号泣していると聞いて慌てて玄関へ駆け寄った。

 姫野さんは目の下を真っ赤にして、大粒の涙を流していた。

 俺は咄嗟に姫野を抱きしめた。


 俺も濡れてしまう??

 そんなことはどうでもいい。

 暖房やお風呂、こたつでもいい、人を温められる方法は幾らでもあるだろう。

 でも、今彼女を温めるのはそういうものじゃできない。‘’人の温もり‘’

 幼い頃から、抱きしめられることで得る、母の愛情としての無意識に感じる温かさ。

 彼女には、恐らくそういうものが必要だ。


「――姫野…」


 玄関の段差で少し抱きしめずらかった。

 掛けれる言葉を持ち合わせていない。

 目の前にいる女の子一人、慰めれる言葉を知らない。


 しばらくして落ち着いついたのか、少し震えていた体が止まった。


「離して、はな、して。」


 覇気のない声量だった。

 俺から離れようと胸に手をやって押しているが、力がまるで入っていなかった。

 そのまま、体から力が抜けたのか膝から崩れ落ちる。


「おっと、、」

「大丈夫か??」

「立てないなら、抱っこしてでも運ぶけど。」


 彼女の目に力がなかった。

 もう何でもいいという瞳をしていた。


 とりあえず、びしょ濡れのままではいけないので、洗面所まで運んで後は任せた。


「はぁ。」


 とても疲れた。

 人は心の底から折れると、ああなるんだな。


 それから鞄を乾かしたり、服を洗って乾かしたりしていた。

 何とは言わないが、黒だった。


――――…


 私は彼の家で風呂に入っている。

 彼の匂いが充満していた。

 ボディソープの匂いだろうか、とてもやさしい匂いだ。

 しかし、みっともない姿を見せてしまった。

 キモい女だと思われただろうか。

 実は泣き虫で感情的になるメンヘラだとでも思われただろうか。


「あぁ、死にたい。」


 でも抱きしめられたとき、とても温かいと感じた。

 体はとうに冷え切っているはずなのに、とても温かった。


「後でちゃんとお礼言わないと。」


 私は少し時間をかけてお風呂を出た。

 体を温めるのはもちろんだが、一番は気持ちの整理だ。

 あと、彼と顔を合わせるのが恥ずかしい。

 子供みたいに喚いてたから。


 お風呂から上がると、大きめの長袖Tシャツと長ズボンのジャージが置いてあった。

 しかし、大事なものが見当たらない。


 ―――下着だ。


 ふと、へ??っとなった。


(黒田君が、もしかして、、、///)

(噓でしょ、いやいや、まさか妹さんが洗ったに違いないわ。)


 でも、これを用意してくれたのは多分、黒田君だ。


「ん゙ん゙ん゙ーーー///」


 急に恥ずかしくなってきた。

 ただ下着を見られたなら分かるが、脱いだのを手に取られて、洗われた。

 思うだけでも体が火照ってしまう。

 抱きしめられるといい、無様な所を見られるといい、散々すぎる。


 とりあえず置いてあったものを着た。

 これはジャージという奴だろうか、少し大きく生肌の上から着たが案外シャツや下着なしでも大丈夫かもしれない。ちょっと股がスースーするが、気持ち悪さはない。


「まぁ、我慢しよう。」


 引き戸を開けて、黒田君のいるリビングへと足を進めた。


――――…


「雫、卵取ってくんない??」


 俺はあれから料理を作っていた。

 今日はハンバーグと餃子、そして卵スープとご飯だ。

 食材を二日分買っておいてよかった。

 そうでなければ姫野さんの分がないところだった。


 妹の雫も今日は積極的に手伝ってくれている。


「ねぇ、おにぃ。」

「あの人って、何なの。」


「ん?、姫野さんの事か??」


「うん。」

「友達っていう感じでもなさそうな感じしたからさ。」


「うーん。」


 反応に困った。

 そこまで仲がいいのか分からない。ここ最近は彼女に避けられていたから、凄く仲のいい友達と言えるか分からない。

 いや、俺は思っているが彼女がそう思っていないかもしれない。


「俺は友達、だと思ってるけどな。」


「そう、ならいいや。」


 雫は少し悟ったように軽く流した。


 ある時から雫は、人の顔色や、言葉から相手を意味を汲み取る癖を付けてしまった。

 昔は無邪気に甘えたり、はしゃいだりしていた。

 しかし、母さんと父さんが離婚する時から変わってしまった。

 誰かに迷惑をかけまいと顔色を窺って見て話したり、相談したりしていた。

 これでも数年前よりは、無邪気に話しかけてきてくれることが、多くなったことが嬉しい。

 そうでもないと【いもうと】と話している感じがしていなかったから。


「しずく、ありがとうな。」


「え、え///」

「別にいいわよ、これぐらい。」

「お兄ちゃん、いっつも文句も言わずにやってくれてるから///」


「ふっ、そうか。」


 丁度、調理も終わり、盛り付けて運んでいるところで姫野さんがリビングへ来た。


「いただきまーす。」

「いただきます。」

「いただきますっ!」


 一度、黒田君の手料理を食べていたから特段、そこまで感想はなかった。

 しかし、またこうやって誰かと食卓を囲んで食べていると、また涙腺が決壊しそうになる。


「え、姫野??」


「え、あ、いえ、、違うの。。」

「今度はそういうのじゃない、から。」


 ボロボロと目から涙が流れていた。

 さっきのように喚いたりせず、淡々と。

 傍らで食べていた雫は俺の顔を見ながら静かに食べていた。


 それから姫野は片づけを手伝ってくれていた。


「ソファに座っててもらっていいのに。」


「いいえ、ダメよ。」

「前に、あなたが私の家でしてくれてたもの。」


 こうなると、やるなと言っても話は聞いてくれなそうだ。


 夜22時を回ったところで、姫野を寝かせる場所を決めていた。

 俺がリビングで、俺の部屋を使ってもいいよと言ったが頑なに嫌がった。

 どうも前回、姫野の家に泊めてもらった時に、俺が床で寝たから私もそうすると言い出した。


 結局、姫野はリビングで寝ることになった。

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