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chapter3:お互いに思うところは同じ

 俺と姫野さんは、電車の中にいる。周りが静かだからか、ガタン、ガタンと電車のレールがつなぎ目を通過すると共に、車内に音が響く。


「ねぇ、何処へ行くの??」


「お? 気になるか??」


「えぇ、気になるわ。」


「ふふん!、ショッピングだ!」


 言葉通り、俺達は隣街にある大型のモールへと向かうことにした。

 日曜日だからだろうか、10時頃でも満員だった。


 電車の中はぎゅうぎゅう詰めの為か一際、彼女を感じる。

 なんだろうか、一昨日学校で見た時は、そこまで思うことは無かったのだが、こうして至近距離で見ると薄く化粧をしているからか、余計に可愛く見えて少し意識してしまう。

 一昨日は全く意識すらしていなかったが、彼女もしっかりと女性なんだなって思う。

 はっきり言って、モデルさんか女優といわれても申し分ないほどの雰囲気だ。


 少し目線を落とすと彼女と目が合った。

 こういう狭い空間の人混みに慣れていないのだろうか、少し震えていた。


(無理もないか。)


 基本的に乗ったりすることがない環境で育ってきているのは、あの家の中を見ればわかる。


(こういう時はどうすれば良いかわからんな。)


 俺は咄嗟に彼女の腰に手を回し、そっと引き寄せた。


「あっ。」


 彼女の声が漏れる。


 まぁ、後でセクハラだの、エッチなど言われてもいい。

 これが最善だと思おう。


 ――――…


 電車、そんなもの今後一切乗ることがないと思っていた。


 基本、今は学校は歩いて行ける距離にあるし、小・中は誰かが迎えに来てくれていた。最悪、誰か来なくてもタクシーで移動していた。

 しかし、こんなにも人が多いとは思いもしなかった。


 …――少し怖い。


 逃げ出したいと思えるほどに。

 少し上を見上げると彼と目が合った。

 私はどんな表情をしているだろうか。

 顔を引きつっていないだろうか。

 すると彼の手が腰に当てられ、そっと引き寄せられた。

 少し震えが止まった気がした。

 暖かい安心感が包み込んだ。


 後で、ちゃんとお礼を言おう。


 電車に乗って20分程で目的地に着いた。


「はぁー、すげー長く感じたな。」


「えぇ、そうね。」

「こんなにも多いと思わなかったわ。」

「あ、その、さっきはありがとうね。」

「電車での、、」


「あ、ああー!、気にすんな。」

「そ、そんなことより早く行こうぜ!」


 そう言って彼は先に歩き出した。


「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

「ったく、もう。」


 私も、それに続いて後を追った。


 それから俺たちは色々見て回った。

 意外にも姫野さんは甘いもの好きだったみたいで、スイーツ系統の店を見かけると目を輝かせていた。はしゃぐ子供のようでとても可愛らしかった。


 あらかた買い物を済ませると、昼頃になっていた。


 ふと視線を広場の中央に目を向けた。そこには遠目で人が集まっていて、モデルさん?だろうか。撮影をしていた。


「へぇ~、こんなところでも撮ったりするんだな。」


 前は頻繁にここへは足を運んでいたが、初めて見る光景だった。


 そこを通りかかったとき、モデルさんのマネージャーだろうか。

 目が合ってしまった。

 すると、見るや否やこちらへ駆け寄ってくる。


「おいおい、テンプレパターンじゃないだろうな。」


「ん?テンプレ??」


「あ、いや、なんでも。」


「すいませーん!!」


 あ、やっぱり。


「お二人って、カップルさんですか!!」

「申し訳ないんですけど、彼氏さんを借りますね!!」


「あ、いや、俺らはカップルじゃ...」

と、静止も聞かずに引っ張られて連行された。


「いや~、ごめんね、!」

「せっかくのデートなのに無理させちゃって。」

手を合わせて申し訳なさを表していた。


「はぁ、」


 すると連行した事情を話してくれた。


「その、今日一緒に撮るはずだった、男の子のモデルさんが、バックレちゃったみたいで。」

「代わりの人を探してたんだよ。」


「でも、俺代わりになれますかね。」


 全然自信がない。

 正直、俊哉や叶夢の方が絶対に向いている。

 ふと左を見た。今日の主役といったところか。

 綺麗な顔立ちをしていて、人に好かれそうな感じのタイプだ。明らかに俺と並ぶべきじゃない。


「ん?マネちゃん、この人は??」


「今、そこで見つけてきたの。」

「素材はいいから、少しおめかしすれば、ばっちりよ!」


「ふーん、私は藤波 鏡花(ふじなみ きょうか)。」

「なんかごめんね、マネちゃんこういうとこあるから。」


「あぁ、うん、俺なんかでよければ。」


「名前、聞いてもいい??」


「あ、名前、黒田 優」


「優、うん!」

「ゆうくんって呼んでもいい??」


「あ、あぁ、構わないけど。」


 なんか距離近いな。

 あと、すげー眩しいよ、この子。


「よし!」

 藤波さんのマネージャーさんが何かを紙に書き上げ声を上げた。


「まずは黒田さんの服を買いに行こうか。」


 そして俺は、藤波さんに手を引っ張られる形で準備が始まった。


「ふう、」


 無理やり連れだされてから一時間と少し。

 少しメイクもさせられ、服も撮影用に新調してくれた。


「その、俺どうしていいのか全く分からないんですけど。」


「大丈夫よ、私がフォローするから。」

 藤波さんはこっちをみてニコッとしていた。

 楽しんでいるようだった。


「じゃあ、少しくっついて、黒田君少し表情硬いよー。」


 彼女が近い。

 それと、とてもいい匂いがする。


 それから30分ほどだろうか、撮影を終えた。


「黒田君、ほんっとにありがとうね!」

「服とかはそのまま持って帰っていいから。」


 マネージャーさんは深々と頭を下げた。

 まぁ、急だったけどすごくいい体験になった。

 今後一切ないかもしれない体験だ。


「あの、ゆうくん。」

「その、連絡先とかって聞いても大丈夫かな。」


「え!、あぁー。」


 広場のベンチで座っている姫野さんに目をやる。

 じーっと飲み物を飲みながら、暇と言わんばかりの顔をしていた。


「後日、お礼とかもしたいかなって思って。」

「ダメ、かな?。」


 とても断れない雰囲気になってしまった。


「はぁ、いいですよ。」

「でも大丈夫なんですか??」

「一般人の自分なんかと連絡先交換しちゃっても。」


「うーん、、多分ダメかな、ははっ。」


 いや、ダメじゃねぇーかよ!

 何が「お礼とかもしたい///」だ。

 もう女は何考えてるかわからん。


 とりあえず俺は彼女と連絡先を交換して別れた。

 別れ際に、マネージャーさんから、ぜひ事務所へ、との勧誘があった。

 もちろん断った。

 そりゃそうだ、まず俺には向いていない。


「あ、!」

「黒田さん!」

「これ、彼女さんに。」


 耳元で言われ、何やら食べ物が入っている袋に入っている箱を渡された。


 彼女じゃねーよ。



 それから彼女、姫野さんの機嫌がすこぶる悪いのが分かる。

 何を言っても「そう。」「だから。」「へぇー。」と凄く冷たい。

 怒っているのだろうか。やはり先ほどの撮影が原因なのかもしれない。


 その後、姫野さんの機嫌取りもかねて一緒に映画を見た。


「姫野さん、まだ時間大丈夫そ??」


 もう気が付けば17時を回っていて夕暮れ時、黄昏時の時刻だった。


「えぇ、心配する人なんて家にいないから大丈夫よ。」

「何処かへ行くの?」


「うん、少し案内したいところがあってさ。」


 彼女に少し見せたいところがあった。

 電車で来た道を戻り、20分ほどのところに街を一望できる所がある。

 幼いころ、父だった人と買い物帰りに、そこへよく連れてきてもらっていた。


 ―――…その道中。


 二人は静かだった。

 俺は一周回って気まずくなっていた。

 機嫌は直っているだろうが、男子と2人きりなんて尚更、話すことなんて無いだろう


 結局20分ほど無言のまま目的の場所へ着いた。


 到着した頃ぐらいには日が落ちかけていて、茜色に空が変わっていた。

 俺と姫野さんは胸ぐらいまである鉄のフェンスから街を眺めていた。


「ここ、好きなんだ。」

「よく連れてきてもらっていた。」

「それから何かあるたびに、ここへ来て頭を整理していた。」

「この時間ぐらいになると、幻想的な2面の顔が見えるから余計に良いんだ。」

「まぁ、今思えば、子供ながらにそんなに深く考えていなかったろうけど、今は違う。」

「ここに来れば、悩んでること、抱えてる不安、苛立ち、全部受け止めてくれる気がするんだ。」


「素敵な所ね。」

「こうやって、あなたと会って、出掛けてなければ来ることはなかったわ。」


 色々思い出す。

 辛かったこと、悩んでいたこと。

 助けてほしかった。

 手を差し伸べてほしかった。

 寄り添ってほしかった。

 でも、私が周りに上手く伝えられなかった。


 ――――…


 俺は横にいる彼女に目をやった。

 彼女の目から涙が流れていた。

 俺はそれを綺麗だと思ってしまった。


 それから数十分程して家路に着くことにした。


「私こっちだから。」


「送っていくよ。」

「距離、そんなに離れてないから。」


「いいわよ、来なくて。」


 彼女は前を向いて歩き出した。

 すると少し歩いてこちらを振り向いた。


「ねぇ、黒田君、また明日。」


「お、おう。」


 振り向いた姫野さんを見たとき、幼い頃、入院していた時に来てくれていた彼女と少し重なった。

 名前は知らない。

 だけど、よく話をしていた。


 それから静かに家路に着いた。

 ドアを開けるとき思い出した。


「あ、連絡先聞くの忘れた。」

「まぁ次でいいか。」


「連絡先聞くのまた忘れたわ。」

「まぁ今度でいいわね。」


 お互いに思うところは同じだった。

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