chapter2:まだ彼を知らない
朝 6:00 土曜日
「ねぇ、起きて。」
体を揺さぶられている。
俺は朝にめっぽう弱い。
今でも、早起きな妹に起こされてるぐらいだ。
「ん、しずく?」
「まだ、朝早いよ。」
あ、こいつダメだ。
叩き起こそう。
「起きなさい!」
俺は頬っぺたが少し赤く腫れている。
まぁ俺が悪い。
泊めてもらっていることを、完全に忘れていた。
「はぁ、ねぇ。」
「はっ、はいっ!!」
「何でしょうか!!」
「そんなにかしこまらなくていいわよ。」
「別に怒ってないから。」
え、いや、すごい不機嫌そうな顔してますけど?
ものすごい声量も力もないですけどっ!!
「日曜日。」
そのあとの言葉がなかった。
「へ?、え?」
「日曜日!」
「は、はい!!」
「私と出かけなさい。。」
うん、意味が分からない。
なぜ、そうなった。
「あの~、なんで俺なんだ??」
「男の俺じゃなくて、ほら、同じクラスの女の子といるじゃん。」
「なら聞くわよ。」
「私が、他の子と話しているの見たことあるかしら?」
「ん~、」
思い返してみる。
(俺の席は窓際の、後ろから二番目。)
(姫野さんは確か7列の4列目の前から3番目の席だったような。)
ん?待てよ。
俺は頭をフル回転させ彼女の行動を思い返してみる。
(彼女、授業終わりの休憩時間は伏せて寝てたような。)
(昼も教室で見かけたことないな。)
ん?
んん?
「あ、もしかしてぼっti!!」
間髪入れずに腹にミドルキックが飛んできた。
地雷を踏んだ。
てか踏ませただろ!!
わざとだろ!!
「え、ほんとにぼっti!!」
またミドルキックが腹に入る。
あ、痛い。
もう言うのやめよ。
すごく痛い。
「はぁ、わかった??」
うん、体を張って正解だってことが分かったよ。
「で、マジで行くの?」
「マジよ、マジのマジ。」
「今日のお礼として思ってもらえればいいわ///」
(まぁ、特段やることないからいいけど。)
(でも二人なのか??)
(それって、もうデートじゃね??)
「とりあえず、俺は流石に帰んねぇーと。」
「妹がうるさいからな。」
「そうね、」
「あ、そうだ。」
俺は玄関前で振り返り彼女に言った。
「昨日は、ほんとにありがとな。」
「また日曜日に。」
彼は、とても清々しいほどの笑顔で玄関を開け出て行った。
とても有意義な時間だった。
何年ぶりだろうか、異性とこうして長く話して、笑ったのは。
こうして感傷に浸っていると嫌なことばかり思い出す。
幼いころから容姿だけはよかった。
それは周りから見ても、私自身も自信があった。
初めはこんなに卑屈で冷たく接していなかった。
しかし、ある時から周りの態度が一変した。
あれは小学生の頃か。
「あ、あの!!」
「付き合ってくださいっ!!」
私はどうしていいかわからなかった。
その子の事は。ただの友達としてしか認識していなかった。ましてや小学生だ。
そんな気の利いた断り方もできなかった。
「あ、ご、ごめんなさい。」
「その、君のこと好きじゃないから。」
「ごめんなさい。」
それから周りの状況が一変した。恐らくは行為を抱いていた彼が原因だろう。
良くしていた友達だった子たちが、たちまち口を聞いてくれなくなり、私は孤独になった。
それを知った母は私を私立の中学校へと進学させ、環境を変えてくれた。
中学に入っても友達というものに、変にトラウマになっていたのだろう。擦り切れた心と精神までは変わることはなかった。それから今に至る。
「また、お話したいな。」
「あ、」
彼の連絡先を聞いておくのを忘れていた。
このような事は滅多にないことだから、連絡先というものに頭が回っていなかった。
――――…そして日曜日。
私は一応早くから準備をしていた。
まぁ、浮かれているのは目に見えている。
しかし一つ問題がある。
あの時、何も決めていなかったのだ。待ち合わせ場所も時間も。
ほんとに彼が私となんかと、と考えていた時。インターホンが鳴った。
すると彼、黒田君が居た。
「おーい、起きてるかー。」
「ええ、起きてるわ。」
私は驚いた。
まさか、ちゃんと家まで来てくれるとは思っていなかった。ましてやあんな約束なんてあって無いようなものだと思っていた。私はとことん人を信じられなくなっていたのだと。
私は彼を待たせないために急いで準備し、玄関を出た。
「おっ、」
少し、彼は驚いた顔をしていた。
「な、なによ。」
少し恥ずかしかった。
長らく異性と出かける事なんてなかった。
私服が変だとか思われていないだろうか。
「ふっ、すげー似合ってるよ。」
「ふ、ふーん。そう///」
面と向かって言われると恥ずかしいものだ。
「うん、姫野さんって分かってなかったら、気づかないくらいには。」
彼女の身なりは、学校と違って、少しお嬢様の風格が出ていた。
髪の毛の括り方が違うこともあるだろうが。
「そ、そんなこと言ってないで行くわよ。」
「あ、ちょ、待てよ。」
そして、私の自己満足なデートが始まった。
「なぁ、行き場所決めてんのか??」
ギクッとした。
昨日の夜、一応考えたけど何も思い浮かばなかった。
彼が喜ぶ場所が何もわからないからだ。
昨日の段階で少しは聞いておくべきだと思った。
「はぁ~。」
「まぁ、そうだと思ったよ。」
「安心しろ、ある程度考えてるから。」
そして最寄りの駅へと足を進めた。
彼の背中は凄く大きく感じてしまう。
私は、まだ彼という人を、よく知らない。