chapter13:林間学校2 海の景色
俺らは到着と同時に、この5日間泊まる場所へ来ていた。
「よぉーし!」
「ここがお前らの泊まる場所だ。」
着いた場所は、あまりにバカデカいホテルだった。
ちなみに、この5日間のお金などは、すべて学園が持ってくれているようで、さすがの財力だ。
もうこの規模は修学旅行と言っても過言ではない。
中へ入ると、男女で泊まる階層を分けられているようで、女子は下の階層、男子は高層階だった。
現地へは2時間程度で、到着したのは10時を回ったところだった。
初日の内容は、昼の12時から海岸の清掃(ゴミ拾い)となっており、各エリアを掃除した後は自由時間となっている。
「まだ、少し時間あるから、どうしよっか。」
「ん~、そうだね、今からできる事って無いよね。」
今からトランプを取りに行ってもいいが、俺の部屋にあるため、まぁ時間がかかってしまう。
「あ、そういえば、叶夢。」
「お前、家の方、大丈夫なのか?」
「あ、あぁ、今はしばらく姉の2人が居るから問題ないよ。」
なんの話かというと、叶夢の実家は旅館を経営している。
それも、名の高い、結構お高めの旅館だ。
「へぇー、お姉さんたち帰って来てんのか。」
「うん、俺が入学してから、すぐぐらいに帰って来て、家業を手伝ってる。」
「お前や優にも、会いたがってたぞ。」
「今でも裏口から入ってくれば、おかんか姉が来るから、心配せず来ていい。」
「そっか、じゃあ今度、機会があったら行ってみるか。」
俊哉は俺の方を向きながら言った。
「そうだな、夏休み辺りにでも行ってみるか。」
昔からよく、俺ら4人は俺の家か、叶夢の家で遊んでいた。
叶夢の家は旅館と繋がっていて、表が旅館、裏の少し離れたところに自宅がある形になっている。
まぁ、中へ入らない限りは離れにある自宅と言えど、旅館なのか分からない程大きい。
「へぇ~、あんた達3人ってほんとに仲がいいのね。」
「なんか羨ましいわぁ。」
「はぁ~」とため息をつきながら頬杖しながら話を聞いていた。
てか、ここの女性3人は何かと問題を抱えてしまっている人が多い。
姫野にしては、理由は分からないが、昔に何かあったに違いない。
白崎さんにしても、柏木さんが話してくれたような状況だし。
柏木さんは、こうやってよく話して、笑ってくれたりもしているが、内心、白崎さんの心配で仕方が無いような顔をしていることがある。俺的な私感だから一概にそうだと言えないが、大体あっているとは思う。それ以外にも、掘っていけばかなり何かしらはありそうな感じではあるが。
「でも、音無くんは家業が旅館ってことは卒業後、そのまま家を継ぐの??」
「そうね、私も今それを気になっていたわ。」
「恐らく、音無という苗字は母方の方なのでしょう??」
そう言われると叶夢は「うっ……」という顔をしていた。
柏木さんは「あ、まずい、聞いちゃいけないことだった??」という顔をして、俺に訴えかけていた。
「いいよ、俺から事情話すから。」
「コイツの家業は全員、継ぐのは女性なんだ。いわゆる女系だね。」
「だから、代を継ぐってなると必ず誰かを見つけてこないといけなくて、それが親が決めるらしいんだ。」
「今のところは、お姉さん2人のどちらかが継ぐ予定らしいから心配はいらないらしいんだが、その2人が放棄すれば、おのずと叶夢に矢が立つことになる。だからこうやって、嫌がってるんだよ。」
「へぇー、でもなんでそんなに嫌なの??」
「奥さんを探さなくていいじゃない?」
すると、叶夢が重たい口を開けた。
「そうなんだが、そう単純な事じゃないみたいなんだ。」
「相手は必ずと言っていい程のお金持ちグループにになるから、籍を入れれば必ず相手側の両親とその周りの関係も絶対に必要になる。しかも、こちらから嫁ぐ形になるから、上下の関係が少なからずできるんだ。」
「実際に、俺の親父は母さんや叔母さん達に逆らえないからね。」
みんなそれを聞いて、「あはは.....」という顔をしていた。
現代でもそういう、習わしや決まり事はあるみたいだ。
俺はふとスマホを見ると、もう11時40分を記していた。
12時には、このホテルの裏側、砂浜に全員集合しなければならない。
「みんな、そろそろ時間だ。」
俺らは慌てて、ロビーから出て砂浜へと向かった。
「あ、あぁ....よし、お前ら聞こえるか!」
俺らは砂浜へと集合していた。
中央に壇上が用意されていて、メガホン越しに声を発する姉が壇上に居た。
うるさかった周りの声も、キーンという音を立てた途端に静まり返る。
「今から、男女に分かれてホテル側、反対にある灯台の2つに分かれて清掃をしてもらう。」
「このビニールにいっぱい詰め込めた奴は先に上がって、ホテルへ戻っていいとする。」
「以上!! 行ってこいお前ら!!」
俺ら男子は、灯台方面を担当することになった。
海が目の前にあるためか、作業をしていても海風が体をつき向けるように、今やっている作業を苦ともさせないように優しく吹いていた。
しかしながら、太陽という名の自然の摂理には到底対抗できず、首元が真っ赤になるのではないかと思う程、とても暑い。
「こんな真昼間にやるもんか??」
「そうだな、朝方とか、夕暮れ前とかでもいいと思うけどな。」
「同感だ、やけに暑く感じる。」
俺らは思い思いに、愚痴を言いながら回収をしていた。
解散した場所から、かなり遠くの場所で俺らは回収をしていた。
なんせ、みんな手前の方で集めている為、ゴミが、まぁ早くに無くなる事だ。
そのため、少し時間をかけて確実に回収できるように、灯台の近くまで来ていた。
「てか、遠くからだったから小さく見えたけど、これ意外と大きいもんだな。」
「そうだな、正直、圧巻だな。」
灯台は、岩の崖の上にあった。
崖自体も遠くからだと、そんなにないように見えたが、10mはあるだろうか、そこら辺の一軒家よりは確実に高い。
「なぁ、行ってみね??」
「ふん!、賛成だ。」
その言葉を待ってました、と言わんばかりに俊哉が同意してくれた。
「叶夢はどうする??」
「俺にも言わせんな、決まってるだろ?」
2人の了承を得たところで、崖の側面にある階段を渡って、灯台を目指した。
「この階段、長いな。」
「あぁ、やたら長い。」
俺らは、息を切らせながら階段を渡っていた。
見た目以上に長く、果てしなく感じてしまう。しかも海の潮風があるとはいえ、直射日光はその暑さを上回っている。
「あ゙ぁ゙ー、やっと着いた!!」
恐らく、10分以上は階段を上っていたのではないかと、思えるほどの長さだった。
灯台の中へ入ると、螺旋状の階段があり、ひんやりとしていて、外とは違い少し寒いぐらいだった。
屋上まで上ると、それはまるで別の世界の風景を見ているかのような気分だった。海を照らす太陽、乱反射した光は見渡す海をさらに際立たせ、波が宝石のようにキラキラと光っていた。地上では目に映る青い風景など、これっぽっちにしか映らないが、ここからの煌めく海は、視界に一面に広がり、水平線がそれをさらに果てしないものへと認識させる。
「綺麗だなぁー!!」
「あぁ! 来たかいがあったってもんだ!」
「そうだな、今を投げ出したくなるほどだ。」
俺らは帰り際に、屋上で記念に3人で記念写真を撮った。
恐らく自由時間になれば、ここへ来るときには、かなりの生徒が来るだろう。今より騒がしくなるのは間違いない。
少し時間を潰しそのまま階段を下りて砂浜へと戻った。
「え...??」
辺りを見ると、ほとんど生徒が居なくなっていた。
「おい、お前ら。」
メガホンを肩に乗せ、夢月姉が歩いてきた。
「ほとんどの奴ら、もうホテルに戻ったぞ。」
「って、まだそこまでしか集めてないのか!!」
そのまま、こっぴどく怒られ、夕食後にまたゴミ集めとなった。