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ご近所から頼まれた内職のこと

作者: ゆっか

仕事にありつけない私。内職を試みるがほぼ続かない現状。

見かねたご老人が自作小説のリライトを頼んできました。


なんだか、体力気力とも乏しくて、仕事にありつけない状態が十年以上続いている。

外に出て立ち働くことはほぼ不可能なので、インターネット上の在宅ワークを試してみた。

これも、難しい。

仕事を取るのも難航するし、取れた仕事がクライアントの意に適うものであっても、その次の仕事が矢継ぎ早に入ってひどく消耗する。

結局続かなかった。

二か月頑張って五千円だったろうか。

それでも続けていくうちに慣れるのかもしれないが、寝込むようになってはやはり無理だったのだと思う。

仕事の内容も良いものだとは思えなかった。

欲を言える状態ではないが、クライアントの質がもっと良かったらなあと思った。


そんなこんなでまた親のすねかじりをしている。

でも、最近近所のお年寄りに当たる人が私に個人的な仕事を回してきた。

昔、お世話になった人だ。

短篇の物語を自分でいくつも書いたので、文学部出身と聞くから、読んで、文章を整えてくれないかというのだ。


私は本当に素人なのですが構わないのですか、と聞いた。

物語は自分が死んだあと家族に残したいものだから、プロの手を借りるまでのことはないんですよ、とのことだった。


ちょっとためらったが、報酬はさほど負担になるものでもなかったので、請け負ってみた。


物語は二十篇以上もある。

それぞれ個人的な体験談なのだが、俳句が添えられていたり、美しい情景描写があったりして、相当に文学の好きな人だと思った。

何より、私小説のようなあまり口には出さないであろう秘密のことも書いてあり、顔を良く存じ上げているだけに、ちょっとドギマギすることもあった。

若いころの不遇だったことも知り、また世界の広い人で長く外国で仕事をしていたことも知った。

そういったことが生き生きと楽しそうに書いてある。


豊かな人生だなあと思った。

家族に恵まれ、良い仕事に恵まれ、たくさんの人々との交流がある。

仕事を回してきたのも、ぼうっと暮らしている私を少し刺激してやろうという意図もあったかな。


一篇リライトを仕上げて持っていったら、申し分ない出来です、と嬉しそうだった。

わたしも勇んでこのありがたい仕事を続けた。


だけど何篇か手を入れているうちに、次がまだあるということにひどく疲れるようになった。

仕事が進まない。

私は人の下仕事をしたいのだったっけ。

ほんとうは自分のことを文章に書いてみたいのではなかったか。

たとえそれがみすぼらしい物であっても、自分の中から出てくるものを織り上げていきたいのではなかったか。


もしかするとこの世に生まれてきて最高の贅沢は自分のことを表現することかもしれないと思う。

文章はその中でも、ダイレクトに言葉で、感覚的にも、論理的にも自分の姿を伝えることが出来る。

読んでくれる人の存在も大事に思う必要があるが、なによりも普段、誰からも忘れられてしまうような私の在り方ではあるけれど、それでも生きてきた形を残すことは私自身にとって大きな財産になるような気がする。

後で自分で見直すことが出来るから。



とはいえ、仕事は仕事。

ちょっと手に負えなくなってきたものの、ヒガンバナの写真など遠くまで撮りに行って、気分転換をした。

そうしたら、元通りマイペースを取り戻すことが出来た。


何事も経験だなと思う。

特にささやかなものでも無理のない仕事であれば様々な知恵がつく。

出来ないと判断した仕事は断ろう。

出来ると思った仕事には精一杯を尽くそう。


また仕事にありつければの話だが。

今からでもたっぷり文章の練習をしたい思いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の方の小説のリライトというのは、それはそれで文章の練習になりそうだなと思いました。 また、ベースになる小説の内容が面白そうで気になります。 他の人が書いた私小説なんて特に、自分では書けない…
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