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はい、ワカバです。
エルフの国、精霊樹の街、リゼ・グラッティアに到着しました。
仲良くなったエルフの軍人、クレイと精霊樹の前に来ています。
「ワカバ、精霊樹に触って、精霊様にお願いするんだ。私のレベルはいくつですかって」
わかったと返事をして、おずおずと精霊樹に触れてみる。
精霊樹は幻想的な木だ。
遠くから見たときは緑色のコケが生えたのような時代の厚みを感じさせるような老樹であった。
しかし、近くに来れば緑だった表皮の色は変わっていて、高貴で淡い青色に近い色になっている。まるで空を映したような青には、揺らいで見える木の向こう側や一抱えしても一周できない幹の太さを、美しいという一言に収束させているようだ。葉も緑から青のように変わり、あたかも歓迎しているように、その幻想的な美しさを見せている。
『やあ、こんにちは』
という声が聞こえたかと思うと、目の前から精霊樹が消えた。
『見惚れるのもいいけど、僕は話がしたいんだ』
少し高めの声だ。周りを見渡しても、広大な大自然が広がるのみで、少なくとも元居た場所ではない。
『おっと、ごめん。忘れていたよ』
一人で喋らせているのも忍びなくなったほどで、姿が見えてくる。
女の子だ。幼女ではなく少女である。元気っ娘といった感じの見た目で、ショートにした髪は精霊樹と同じような空の淡い青だ。
「……だれ?」
『僕は精霊樹。君に少しお願いがあるんだ』
「精霊樹? 君は木じゃないの?」
『ううん、僕は精霊樹で、精霊だよ?』
「精霊にいたずらされるってのはこういうことか」
クレイからは、極稀にだが精霊様に悪戯をされる人がいるということを聞いていた。
悪戯の内容は知られていないが、悪いことをすれば精霊様の怒りを買うと子供に教えているという風習があるそうだ。悪戯とはどんなないようなのか。
『僕は悪戯なんてしないよ! たまに声をかけたり、失礼な奴を叱ったりしているだけさ』
これは失礼。
『そもそも、精霊樹ってのは選ばれた人以外には緑色のもの。選ばれた人には別の色が見えているのさ。選ばれた人には声をかけることしかしてないんだから』
あとから聞いたことだが、精霊樹が青くなるのが精霊様の悪戯と言われているらしく、僕もそうだったと伝えるとクレイ君も笑っていた。
「それでお願いって?」
それよりも、ここはどこなのだろうか。
『ここはね、僕が所有する空間。お願いってのはね、君のスキルを使って、僕の落ち葉を拾ってほしいんだ』
上目遣いで頼まれたら断れない。