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エルフの人たちに案内されて大きな家に入った。
聞くところによると、ここは領主の館らしい。ここに集めることで力の誇示と新しい君主を知らしめるためだという。
しかし、ここに連れてきてもらった人たちは、暴力とはかけ離れたような人たちばかりだ。
老人多数に小さい子供、二人の赤ちゃんとその両親。
その誰もが反抗の意思を見せず、どこか安心したような表情だ。
そして、僕は見慣れないものを見る目で見られている。
時間がたつと、フィンおじいさんがやってきて、僕のことを紹介してくれた。
「やぁ、みんな。この子は旅人での。つい昨日ここに連れて来られたんじゃ。悪い馬車に乗せられたんだそうじゃよ」
「初めまして」
名前は思い出せません。
どうしたものか。……まあ、スキルが【落ち葉拾い】だから、オチバでいいか。
それもどうかと思うんで、ワカバにしよう。
「ワカバです。運悪く騙されてしまって、ここに連れて来られました」
歓迎とまではいかなくとも、拒否するような雰囲気は感じられない。これが魔導士フィン様の力か。
「大隊長! この街の住人はここにいるのが全員です。総勢23名。うち、老人が七人、乳幼児が二人、その両親で四人、子供が六人、女性が二人、男性が一人。そして、旅人の彼。以上です」
この街の住人認定に喜んでおこう。わーい。
「わかった。それでは、次の任務に移れ」
気合の入った返事をして隊員は去っていった。
大隊長と呼ばれた人はこっちを見ている。
「まずは自己紹介といこう。私はエルフのサルカ。この作戦の総指揮を勤めるものだ。まずは、こっちで検査を受けてもらう」
指示した方には、五人組やサルカさんのよりもほっそりとした、学者的なエルフがいた。
「健康診断から始める」
さあ、始まりました。
敗戦都市における健康診断。
まずは病気や体調不良がないかの確認から始まり、何かしらの病気を持っている人には処方箋が渡されていた。
次に、健康であると診断された人たちに向けた、体力テストだ。
お爺さんやお婆さんは、簡単な機能検査のようなもの。僕たち大人や子供は少し運動をして、最低限といわれた体力測定を行った。
「体力テストで、スコアに満たなかった者、そして老人たちはこっちに来てもらおう」
また別のエルフが出てきた。
さっきのが医者的な学者エルフなら、こっちは技術的な学者エルフと言おうか。さっきの一団に比べ、フィールドワークをしていそうだ。あくまで推定だけど。
「こっちの魔法陣に乗って下さーい。はーい。ありがとうございますー。一列に並んでくださーい。はーい」
一人のおじいさんが魔法陣に乗ると、魔法陣が光っておじいさんが消えた。
「これはエルフの転送魔法陣だ。体に害はないが、送ることのできる人数に限りがある。全員は送れない。だから、健康な者は行軍についてきてもらうことになる」
老人一行、赤ちゃんとその母親の11人は先に転送された。
「転送先はエルフ外縁の都市、ここに最も近い都市だ。心配するな。向こうでも受け入れの準備が整っている」
それに加えてこう言った。
「魔導士フィン様がおられるのだから、誰も下手なことはしない。こう言えば安心するだろう?」
確かに効果はあったようで、転送されなかった男親は安堵の表情を見せた。
「早速だが明日からあっちに向かう。三日かけて歩いていく。食料は十分にあるから、ゆっくりと休養してくれ」