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ダンス



「そろそろ戻ったほうがよさそうだね。」


「ええ、アルハイザー公爵もきっと心配しているわ。」


イサイアスが貸してくれた手をとって立ち上がると二人は会場の方へ戻っていった。会場ではすでにダンスが始まっており、きらびやかなホールの中央では陛下と皇后様が寄り添うように踊っている。陛下御夫妻は皇室では珍しく恋愛結婚らしい。伯爵令嬢だった皇后様を陛下が見初めたとか。そんなお二人にはお子様がすでに4人いる。皇女様が3人で、一番下に皇太子様がいらっしゃる。皇太子様はなんと私と同じ年だ。だから今回のデビュタントは特別大きな式で、会場の華やかさも例年以上らしい。

会場に戻ったときにチラッと見ると、案の定皇太子殿下は気に入られようと必死なご令嬢方に囲まれていた。気の毒に思うが、どうしようもない。


「ねえ、シア。」


「どうしたの?」


「俺と一曲踊って貰えますか?」


イサイアスは恭しく右手を差し出した。まさかダンスに誘われるなんて思ってもみなかったレティシアは驚きつつもその右手をとる。


「もちろんですわ。」


差し出された手に左手を重ねる。するとイサイアスは優しくその手にキスを落とした。


「イアス!?」


「ありがとう、嬉しいな。シアみたいな綺麗な子と踊れるなんて」


もともと、異性に耐性のないレティシアは一連の出来事にすっかり顔を赤くしていた。


「かわいいね、シア。」


イサイアスは切れ長の瞳を柔らかく細めて、目の前の少女をエスコートする。めったに表に出ずに家にいるレティシアは知らなかったが、黒髪は珍しく皇弟殿下の息子であるイサイアスは有名であった。魔力飽和を頻繁に起こすようになってからはあまり人と関わらなくなったイサイアスが一人の少女に笑いかけていることに周りにいた大人たちが驚いた表情で見ていた。


曲はちょうどステップの優しいものに変わり、デビュタントの少年少女たちが中央に集まる。イサイアスとレティシアもそこに交じって踊りだした。初めてダンスを踊るレティシアはうまく踊れるか不安で仕方なかったが、イサイアスのリードはとてもうまかった。

憂鬱だと思っていたデビュタントが一転、レティシアはもう楽しくて仕方がなかった。普段大人びているもののまだ12歳の少女には変わりはない。レティシアは心からの笑顔でくるくると踊り続けた。


「シアはダンス上手だね。」


「そう?きっとイアスがとってもリードがうまいからよ。私誰かとダンスを踊るなんて初めてだもの。」


 くるくると回りながら視線を合わせて二人で笑いあう。会場には同じようにデビュタントのペアが明るい表情でそれぞれ踊っている。カラフルな小さな花があちらこちらで咲き乱れているようで大人たちは微笑ましそうにその様子を眺めている。その中でもレティシアとイサイアスのペアは初めてであったとは思えないほど息の合ったダンスを披露していて本人たちが意図せずとも目立っていた。王宮お抱えの演奏家たちが演奏を終えると社交界デビューする子どもたちに大人たちから惜しみない拍手が送られた。


 イサイアスはダンスが終わると皆がペアを変えて二曲目を踊ろうとするなかレティシアをエスコートしてその集団から抜け出た。その二人に近づいてきたのは淡い金色の髪の父と同じくらいの年齢の男性だった。それに先に気づいたのかイサイアスは料理のあるテーブルに行こうとしていたのをやめて男性の方へ向かった。


「父上。こちらにおられたのですか。」


「ああ、お前のダンス見たよ。楽しそうだったね。」


「ええ、とっても。父上、紹介させてください。こちら、レティシア・レイエアズマン嬢です。俺が中庭にいたときに声をかけてくれたんです。傍にいてくれました。」


イサイアスの父はイサイアスのその説明で大体のことは察したのか、傍にいてくれたという言葉に非常に驚いたようだった。


「レティシア嬢だね、私はダリアン。イサイアスの父親だよ。イサイアスが世話になったね体はほんとに大丈夫なのかい?」


レティシアは突然皇弟殿下に挨拶することになったことに緊張しながらも、彼が優しく話しかけてくれたことに気持ちが軽くなった。


「初めてお目にかかります。レイエアズマン家長女のレティシアと申します。お気遣い感謝いたします。私は大丈夫です。」


「そうか、それはよかった。これからも息子のことをよろしく頼むよ。」


「は、はい!」


 レティシアはイサイアスの父からこれからも仲良くして良いと言ってもらったことが嬉しく彼女の顔には思わず花が開くように笑みが広がった。


 しかし、和やかに終わるかに思われたその会話は突然の乱入者によって遮られた。


「レティシア!ここにいたのね!」


 後ろから甲高い声をあげながら近づいてきたのはレティシアの母ジュリアと妹カラメリアである。


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