三話
まさか日間二位に躍り出るとは!
皆様の応援があってこそです、本当にありがとうございます……。
「少しやりすぎちゃったかな……」
慎太郎を見送った後、清野は自分の手が持っている以上に分厚い眼鏡を見て思う。
でも彼は眼鏡が無い方が掛けている時よりも数倍、いや数十倍カッコいいのだ。
それほどまでにこの眼鏡は慎太郎の評価を下げていた。
寧ろ悪く見られるためにかけていると言ってもいいくらいのレベルで。
伊達かも知れないと思い、試しに一度眼鏡を掛けてみると、度がきつすぎて軽く眩暈を覚えた。
「にしてもこんな眼鏡、どこで売ってるんだろうな……」
一周回って逆におしゃれなのか?
そんなことを考えながら店先に突っ立っているとよく見知った女性が話しかけてきた。
「てーんちょ! おはようございます」
「ああ、三木か。おはよう」
早朝にテンション高めで挨拶してきたのは三木夏目。
『futuro』で自分以外の唯一の美容師であり、これから二人でこの店を切り盛りしていく仲間だ。
「あれ、昨日の彼はもう行っちゃったんですか?」
甘栗色の髪を揺らしながらチラッと店を覗き込んで三木は言う。
「学校間に合わなくなるからな。ていうかそれにしても三木早くない?」
「そりゃ店長のカット見られるなら早起きもしますよ! あーあ、ちょっと遅かったかぁー」
三木は残念そうに俯いた。
彼女は軽い態度とは裏腹に、美容師として熱いものを持っている。
だからこの店を出すとき彼女に声を掛けたのだ。
「まあ帰りもうちに寄って髪染めていく予定だから、その時は手伝ってね」
「え!? 本当ですか? やったー!」
「そしたらまだ朝早いし、さっき撮った慎太郎君のビフォーアフターの写真でも見る?」
「はい、見たいです!」
そのまま二人で店内に入っていき、先程撮った写真をパソコンに映した。
それを見た三木は、
「えええええええええええ!? これが昨日の少年ですかああ!? ちょっ、信じられないんですけど! めっちゃイケメン君になってますよ!」
声を張り上げて驚いた。
「だろ? 完璧なビフォーアフターだ!」
「はあああ……。なんでこんなにカッコいいのに顔を隠してたんでしょうか……?」
「今日うちに来たら連絡先でも聞こうかな」とか言っている三木。
やめとけ、慎太郎君は滅茶苦茶ガードが堅いから。
「多分ね、自信がないんだよ」
「自信?」
「そう、自信。自信は髪型に出るんだ。極端な例を挙げれば、自信が溢れている人は額を出す髪型を選ぶ割合が多いし、逆に自分に自信が無い人は髪で顔を隠してしまったりすることが多い。社会や周りのつながりへの扉の役割を果たしているのかもね」
「ほえー」
髪を切る前と切った後の慎太郎の写真を見ながら改めて実感する。
「逆に自信が無い人が額を出してみたりすると、今までなかった自信が湧いてきたりもするもんだよ」
「成る程、ちなみに彼はどっちですか?」
三木は慎太郎が髪を短くしたことによって自信が生まれたかどうかを聞きたいらしい。
「湧いてくれたらいいけど、ね。彼は相当根が深いらしいからな……」
清野は手に持った眼鏡をそっとテーブルに置き、慎太郎が自信を持ってくれるように願うのだった。
「さ、それなりに時間も経ったしマネキン使ってカットの練習でもしようか!」
「はい!」
少し短めでしたが、いかかでしたでしょうか?
短くしたのには深いわけがありまして……。
そのわけと言うのは、嬉しいことに多くの方々から「週一更新は遅い! もっと更新しろ!」(本当はこんな口調ではなく丁寧な言い方でした)と声をいただき、文字数を材料にして更新頻度を錬成したのであります。等価交換です(私はまだ十を十一で返すことができません、ゴメンナサイ)。
勿論少しだけ一話分の話は軽くなってしまいますが、進みは今までより早くなるはずです。
次回はとうとう「慎太郎学校に行く」編です。
早ければ明日には上げますのでお待ちください!!
~追記~
慎太郎の眼鏡が伊達か、度入りかの書き分けが甘く、
読者様からの質問が相次いだので、三話の本文五行目に度入りの描写を書き足しました。