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二十五話

大変、大ッ変お待たせしました!

四週間余り、更新を止めてしまい本当に申し訳ありません。

多くの方がブックマークして頂いているというのに、不甲斐ない……。

言い訳のようになってしまうのが大変恐縮ですが、この作品は必ず完結させるつもりですので、どうか気を長くしてお待ちいただけると幸いでございます……。


 夜の帳に包まれた屋敷兼合宿場。

 僕はレッスンで不完全燃焼だったこともあってなかなか寝ることができていなかった。

 レッスン自体も佳境に入って来ていて、最初はランニングばかりやらされていたけど最近はポーズの練習や、ウォーキング、さらにモデルに見合うような肉体づくりとメニューは多岐に及んでいる。

 

「今日もミセス鎌田に怒られちゃったなぁ……」


 真っ暗な部屋で独り言ちる。

 もういくら厳しく指導を受けようが折れない自信がある。

 でもやっぱり怒られるのは嫌なのだ。


「やっぱり筋肉が足らないのか……」


 自分の細い二の腕を触りながら不意に窓の外を覗く。

 すると屋敷から飛び出していく一つの影が見えた。


「あれ、こんな時間に外出? もう就寝時間はとっくに過ぎてるのに、誰だろ?」


 枕元の眼鏡を取り、目を細めてその人影を注視してみるとそれは、


「木崎君だ」


 なぜ彼がこんな時間に……。

 あたりをきょろきょろ見ながらゆっくり歩いている感じ、どうやら外出許可は取っていないようだった。

 なにか嫌な予感がするな、少し後をつけてみようかな。

 僕は自室の扉をゆっくり開けると抜き足差し足で正面玄関まで行く。

 普段は絶対こんなことしないのに、レッスンの不完全燃焼と深夜テンションのせいだろうか。

 正面玄関の内鍵は開いていたので、まだ帰ってきていないようだ。

 

「よし、木崎君はグラウンドの方に向かったはず」


 僕は足音を殺しながら木崎君の後を急いで追いかけるのだった。

 

 屋敷から離れグラウンドに向かってしばらく歩いているとグラウンドを超えてどこかへ行こうとしている木崎君を見つける。


「木崎君! 何してるの!」

「え、お前あのクソガキか!? ちょっと静かにしてろ!」


 思わず大声で呼び止めてしまったため、それに焦った木崎君が急いでこちらに戻ってくる。


「お前大声出してんじゃねえぞ! 誰かにバレたらどうしてくれんだ!」

「いや、その――。ごめん」


 流石に今の木崎君の方が声が大きいとは言えず、素直に謝る。

 

「木崎君どうしてこんな時間にこんなところに?」

「ッチ、うるせえよ。お前には関係ないだろ」


 不機嫌そうに顔を歪めて舌打ちをする。


「関係ないことないよ。もしかして逃げようと?」

「バカ野郎、これは逃げるんじゃねえ。戦略的撤退だ!」


 図星だったのか、木崎君はまた声を荒げる。

 でもどうしてこんなに強そうな、いかにもヤンキーっぽい人が逃げるのだろうか?

 いや、ギャル三銃士を思い出せば分かることか。

 彼女たちも少しでも都合が悪いことがあれば、隠蔽したり、そもそも関わろうとしない節があった。

 きっとこういう人種は自分が一番じゃないと納得できないんだろうな。

 ただ目の前で舌打ちをしながら俯いている木崎君を見ると、なぜか必ずしもそうではないという気がして来る。

 だから僕は鎌をかけてみることにした。

 ――怖いけど。


「もしかしてレッスン辛くなったの?」

「はぁ!? 舐めたこと言ってんなよ、あんなの余裕でこなせるっつーの!」


 顔を赤くして怒鳴りだす木崎君。もはやバレるとかそういう考えはどこかに行ってしまったらしい。


「そもそもお前みたいなひ弱なガキに言われたくねえんだよ!」

「でも逃げるのは事実じゃないか。ひ弱な僕でも耐えられるようなレッスンから」

「なんっだと!」


 やばい、煽りすぎたかもしれない。ただでさえ膝を震わせながら会話していたのに。

 そう思った瞬間に勢いよく胸倉を掴まれる。


「てめえあんまり舐めたこと言ってるとぶっ殺すぞ」

「――ひっ」


 恐怖のあまり声が漏れる。

 これだからヤンキーは嫌いなんだ。

 ちょっとでも話が通じると思った僕が馬鹿だった!


「チッ、怖いんなら最初から絡んでくるんじゃねえよ。いいか、次なんか言ったら殴り飛ばすからな!」

「イタッ」


 掴んだ胸倉ごと押し倒されて、尻もちをつく。

 くそ、また僕はこういう人種にいいようにされるのか、くやしい。

 去っていく後姿がギャル三銃士たちと重なって見える。


「そうやって何でも暴力で解決できると思うなよ!」

「――は?」


 思わず叫ぶ。

 それは今までずっと僕の胸にしまってきた思いだ。

 急な展開に木崎君はハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。


「お前らは努力もしないでッ暴力ででねじ伏せて人の上に立って……! 僕に負けるのがそんなに悔しいなら早くどっか行けよ!」

「てめえ、言っていいことと悪いことがあるだろォが!」


 立ち上がりかけた僕に木崎君が馬乗りにのしかかる。

 苦しい、また殴られるのかな。

 でもどうせ殴られるなら言いたいことを全部言った方がすっきりできるかもしれない。

 

「図星突かれて怒るなんて、精神年齢いくつだよ! あれもこれも自分が勝てないものは全部嫌々言いやがって、お前の方がクソガキじゃないか!」

「決めた。てめえはマジでぶっ殺す」


 またがった木崎君が拳を振りかぶるのが見えて即座に目を瞑る。

 殴られ慣れてるとはいっても、やっぱり怖い。

 こんなことなら追いかけてくるんじゃなかった……!

 歯を食いしばりながら頬への衝撃を待つ。

 しかし僕の予想とは違っていつまでたっても僕の顔に拳がめり込むことは無かった。

 おかしい。そう思って恐る恐る目を開けてみると、丁度振り上げた拳を収める木崎君が視界に入った。


「あれ、殴らないの……?」

「ああ? お前の顔見たら殴る気失せたわ」


 ええ……。

 無駄に張った気力が全身から抜けていく。


「でも、どうして?」

「そりゃ、そんな殴られ慣れた表情見たら殴る気も失せる」


 ははは、殴られ慣れた顔か。

 おそらく木崎君が言ってる殴られ慣れた顔って言うのは、なるべく衝撃を抑えるためにほほに力を入れた顔のことを言ってるんだろう。

 そっか、イジメられてきた時よりもだいぶ前を向けてると思ったけど、やっぱりしみついてるのかな……。


「それは違え」

「え?」


 どうやら心の声が駄々洩れだったらしい、でも何が違うんだ。


「何でもねえよ、忘れろ」

「ちょっと待ってよ!」


 反射的に歩いていこうとする木崎君の肩を掴む。

 何となく彼をこのままいかせちゃいけない気がした。


「お前もしつけえな、肩離せ。話くらいならしてやる」

「なら!」


 そう言って僕らはグラウンドの隅にあるベンチに座る。

 木崎君が出て行こうとしてるのは一目瞭然だ。

 さて、どうやって止めようか、そればかり考える。

 ――幸い夜はまだ長い。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

そして、更新を止めていたせいで紹介するのが遅れてしまいましたが、自身初のレビューを頂きました。

初期から読んでくださっている方で本当にありがたい気持ちでいっぱいです。

心からの感謝申し上げます。

皆さまも是非読んで頂ければと。

それではまた次回、お会いしましょう。

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