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二十一話

お待たせしました。


「うう、頭痛い……」


 目を覚ますと眩しい程真っ白な天井が目に入る。


「まだ体を起こすな。軽い熱中症になったんだ、一応安静にしておけ」


「宍戸さん! やっぱり俺倒れちゃったんですか?」


「ああ」


「そっか……」


 天井と同様に白いベッドに目を落とす。

 

「どこか具合が悪い所は無いか?」


「はい、少し頭が痛いくらいで」


 それを聞いた宍戸さんは「ならいい」と一言言って部屋から出て行こうとするが、


「あの!」


思わず呼び止めてしまった。


「どうした?」


「その、少し相談したいことがありまして」


 宍戸さんは無言で首肯すると再びベッド際の丸椅子に掛けた。


「倒れる直前にその、悪い考えが浮かんじゃって。最初は黒川君やみんなを一度でも追い抜かそうと思って頑張っていたんですが……。最後、源田君を抜かす直前で今自分が源田君を抜いたところで体力の限界が来たら、今まで頑張って走ったことは無駄になるんじゃないかって思ったんです」


「……」


「そしたらすべてのことがそう思えてしまって。清野さんに言われた、クラスメイトに『復讐』するためにモデルを目指すっていう話も全部、その後はどうするんだろうって」


「成る程な」


 一息ついて宍戸さんは長い沈黙の後、再び口を開いた。


「お前には牙が足りない。いや、抜け落ちているとでも言うか」


「牙、ですか?」


「ああ」


「それは一体――」


「そこまで優しく教えてやるつもりは無い。お前が自分で気づかないと意味がないからな。それにお前が競い合う場に一生出ないなら必要のないものでもある」


「そんな!」


 席を立つ宍戸さんを縋りつくように見つめる。

 しかし宍戸さんは俺を一瞥して「そうやっていちいち人に頼っているならお前は一生成長しない」と言って部屋を出て行ってしまったのだった。

 牙って何なんだ? 俺はあの時の考えが間違っているとは思えない。

 でもそれと同じくらい正しいとも思えない。

 



 宍戸さんが出て行ってどれくらい時間が経っただろう。

 煮え切らない考えを頭の中でこね繰り返していると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。

 宍戸さんが見かねて助けに来てくれたのだろうか?


「どうぞ」


「失礼する」


 扉を開く音と共に現れたのは、


「源田君?」


「榊慎太郎、もう気が付いていたようだな。具合はどうだ?」


 どうして源田君が?

 合宿は二日目だが彼と言葉を交わしたことは一度も無い。

 そんな彼が俺に一体何の用だ?


「榊慎太郎。一つ聞きたいのだが君は何故あの時走るスピードを落としたんだ?」


「え?」


 思わぬ質問に腑抜けた声が出る。


「他の二人を猛スピードで抜き去った後自分を抜かそうとしていただろう? しかしその前にスピードを落として挙句の果てに倒れた」


「ああ、源田君は俺が抜こうとしてたの気づいてたんだね」


「勿論だ。先頭からは後続がよく見える」


 そこで俺は先程宍戸さんにも話したことを源田君に話してみた。

 もしかしたら『牙』についても何か知っているかもしれないと思ったからだ。

 しかし源田君から返ってきた答えはまたしても俺の予想外のものだった。


「榊慎太郎、君は悔しいと思う気持ちは無いのか」


「それはもちろんあるよ、だって――」


「ならば何故諦めたのだ。正直君の話を聞いていて、すべて頑張らない言い訳にしか聞こえなかったよ」


「それは違う!」


「ならば! 何故! 君はそうやって他人から答えを聞き出そうとするんだ!」


「――」


 余りの正論に何も言うことができなかった。

 この話をしたのだって、宍戸さんの話の答えを聞こうとしていたからだし。


「どうやら図星だったようだ。君には失望したよ、もう帰った方が自分の為だ」


 だとしても!


「どうして君にそこまで言われなきゃいけない?」


「君のような腑抜けが居たら全体の士気が落ちるんだよ、迷惑だ」


「――!」


 踵を返した源田君は声色とは対照的に静かに扉を開けて出て行った。


 クソクソクソ! どうして今日話したばかりの人間にあそこまで言われないといけないんだ!

 だってしょうがないじゃないか、体力の限界だったんだから!

 どうせ遅かれ早かれ体力を使い切って倒れてた!

 脳裏に源田君の顔が浮かぶ。

 『――悔しいという気持ちは無いのか?』


「そりゃ悔しいよ……!」


 自分のあまりの情けなさに自然と涙が頬を伝う。

 噛みしめた歯がギリギリとなって、拳に力が籠った。

 でもどうしてこんなに悔しいんだろう。

 もし源田君をあの時抜いていればこんなに悔しい思いをしなくて済んだのだろうか?


「――負けたくない」


 体の芯が熱くなる感覚。

 いてもたってもいられず立ち上がって窓を開けた。

 沈みかけている太陽の真っ赤な陽光が今の気持ちを代弁してくれるみたいで。

 

「絶対に見返して見せる……!」


 涙を拭って夕焼けを睨むのだった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


次回は源田君との漢同士の熱い戦いです。

珍しく既に書き終えているので、明日の18時に投稿します。

それではまた次回お会いしましょう。

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