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二十話

大変長らくお待たせしました……。


「ほらペースが落ちてるわよ! しっかり走りなさい!」


「ゼェッ、ハァッ! し、死ぬッ!」


 翌日、六月中旬の蒸し暑い炎天下の中、俺たち四人は別荘の敷地内を延々とランニングさせられていた。

 どうしてモデルのレッスンをしに来たのにこんなバリバリの運動部みたいなことをさせられないといけないんだ……。

 ミセス鎌田に尻を叩かれながらもつれそうになる足に鞭を打って走り続ける。

 しかし最近全く運動していないからか、思い切り体育会系の源田君には三周ほど差をつけられており、木崎君には二周差、黒川君も俺と同じようにへばっているが、それでも半周ほど差をつけられてしまっている。

 我ながらここまで体力が無かったとは……。

 今まで走ると言ったらギャル三銃士にパシられるくらいだったもんな、しかも毎回遅いと言って因縁をつけられてたな、次パシられた時はだいぶ早く帰ってこれる気がする。

 というか本当になんでこんなことになっているんだっけ……。

 ミセス鎌田が理由を説明してた気がするんだけど――。

 今日の朝のことだ、みんなで朝食を食べている時にレッスン内容を話してたな。

 えーと……。


『あなたたちは根本的に精神がなってないわ、及第点を上げられるとすれば鉄坊やだけよ。そんなあなたたちにぴったりのレッスンがあるわ』


 とかなんとか。

 いくら何でもモデル活動とは関係なさすぎる気がする。

 しかも頭がボーっとしてきた、これマズい奴じゃないか?

 自然と視線が足元に落ちていく。

 やばいやばい、ただでさえビリなのにここで転んだりしたら俺を推してくれた清野さんに示しがつかない。

 もっと頑張らないとっ!

 俺は疲労で枝のようになった足に雀の涙ほどの力を込めて黒川君に追いつくためにスピードを上げた。


「あああああああ!」


 叫び声は自然と出ていた。

 肉体的には限界だし、気持ちで前に行くしかない!

 一歩一歩が砂埃を上げて回転し、とうとう黒川君の背中が見える。


「先に行くよ!」


「え!? 榊君!?」


 驚いている黒川君を抜きつつさらにスピードを上げる。

 次は木崎君でその次は源田君だ。

 すでに周回差をつけられているので本当の意味で追いつくことはできないが、せめて一度くらいは抜かしてみたい。

 

「ハァッハァッハァッ!」


 汗をまき散らしながら全力疾走。

 体力も限界だし、木崎君どころか源田君に追いつけるかどうかも分からない。

 それでもやるんだ!

 今まで俺をイジメてきた人間の影を振り払うように走る、走る。



「ほう、やるじゃない。あの子。龍ちゃん、あの坊やの名前は?」


「榊慎太郎と言います」


 コート外では慎太郎の意識外でいつの間にか合流した龍とミセス鎌田の会話が始まっていた。


「ふうん、なかなか根性があるじゃない。この中では一番顔はいいけど、正直一番根性がないと思っていたのに」


「ええ、俺も驚いていますよ。流石清野と言ったところでしょうか……」


「あら? あの坊やって清野ちゃんのお気に入りなの? それならあれくらいできて当然ね、なんてったって『鬼』のお気に入りでもあるんだから」


「はい、慎太郎は全く気付いていませんがね……」


「そうなのね。もしかしてレッスン料を払ったのも?」


「もちろん奴ですよ、どうしてこんなに肩入れしているのかはわかりませんが、もしかしたら彼女と慎太郎を重ねているのかもしれない――」


「そう……」


 一瞬二人の会話に暗い影が落ちる。


「まあ誰のお気に入りだろうと平等に鍛えるわ」


「そうしてください、清野もそれを望んでいると思います」


 そして二人は再び四人の生徒に目を向けるのだった。

 

「ハァハァ……」


 とうとう木崎君を追い抜いた!

 後ろから「手前、俺を抜くなんてやってくれるじゃねえか!」と怒号が聞こえた気がするけど、怖いのでさらに速く走って逃げた。木崎君怖いよ!

 しかし恐怖でスピードが上がったのか、はるか遠くに居たはずの源田君の背中はもう手を伸ばせば届く距離まで縮まっている。

 でも意識が朦朧として変な考えが頭を過り始める。


 このまま源田君を抜いて……。あれ、俺は抜いてどうするんだ?

 結局源田君を抜いて満足してそのままスピードを緩めたら最初と同じ位置に戻るだけじゃないのか?

 っていうかそもそも何のためにみんなを抜いてきたんだっけ?

 なんのために頑張って、何のためにモデルに?

 どうしてクラスメイトを見返そうとしてるんだっけ?

 清野さんに言われたから?

 あれ? あれ?

 思考の沼にはまった俺は知らないうちにペースを落としてしまった。

 そしてそのまま意識が暗転していく。

 やばいかも。そう思った時にはすでに視界は暗転していて。


 ――結局俺はそのまま目標を達成することもできず意識を手放してしまった。

 瞼に鮮明に焼き付いたクラスメイトの嘲笑と共に……。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

慎太郎は相変わらず情緒不安定です、ご容赦ください……。

次話は明日か明後日くらいに挙げられたらいいなぁ(上げるとは言ってない)。

早いとこ合宿を終わらせたい。

それではまた次回お会いしましょう。

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