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二話

二話目です。

よろしくお願いします。

そしてまさかの朝投稿!

 

「ああ、憂鬱だ……」


 俺はまだ薄暗く、少し肌寒い朝早くに昨日の約束を守る為いつもより二時間早く家を出た。

 しかしそのお陰であの親子と顔を合わせる事無く家を出れていつもよりは気分がいいので、少しはいいこともあるんだなと、いつも憂鬱で潰されそうになりながら歩いていた通学路も景色がより鮮やかに見える。


「えーっと、確か昨日はここで声を掛けられたんだけど……」


 詳しい店の外観や位置を把握していなかったので、とりあえず声を掛けられた場所でそれらしき建物を探していると、


「おーい!」


 後ろから声が聞こえる。

 昨日の自分であれば無視していたが、この声は知っていたので振り返る。


「よかった、お店の場所教えてなかったからどうしようかと思ったよ」


「丁度お店探していたところです」


「そっか、それは良かった。じゃあついて来て!」


「はい」


 そのまま二分ほど歩いて、青年は止まった。


「ここだよ」


「『futuro』ですか。読み方は分かりませんけど……」


「そう、この店はフトゥーロ。イタリア語で未来って意味らしいよ」


「未来、ですか」


「そう、カッコいいでしょ?」


「拗らせているのだけは分かりました」


「酷いよ、厨二病だなんて!」


「やっぱり」


「誘導尋問とはッ、やるな!」


「してませんしできませんよ、そんなこと」


「ハハハ! それじゃあとりあえず入って入って!」


 軽快に笑った青年はチリンチリンとドアについているベルを揺らしながら扉を開けて、俺が入るのを待ってくれた。


「ども」


 短くお礼を言ってお店に入ると、そこはデザイナーズマンションのような内装で、白と黒を基調とした壁紙と大きな鏡、天井は打ちっぱなしのコンクリートをそのまま使っているように見える。


「これは……」


 あまりのオシャレさに感嘆の声を漏らす。


「どう? オシャレでしょ? これ結構お金かかったんだよね」


「場違いすぎるので帰ります」


「ちょっと待ったあ!」


「息をするのも辛いんですが」


「まあまあ落ち着いてよ。俺と君以外に人はいないし、開店前だからお客さんもいないから」


「そうですね……」


 もう一度お店の中を見回して、深い深呼吸を一度した。


「それじゃ、まずシャンプーしようか、君はこっちに――って、君名前なんて言うの?」


「今さらですか……。榊慎太郎と言います」


「ごめんごめん、聞くの忘れちゃっててさ。そっか慎太郎君ていうのか、俺はこの店の店長の清野(せいの)って言うんだ、よろしくね」


「はい、こちらこそ」


「よし、自己紹介も済んだところで今度こそシャンプーだね!」


 そのまま俺はシャンプー台に連れていかれて軽く髪を洗い流された後、大きな鏡の前に座った。


「よし、それじゃお任せでいいよね、慎太郎君」


「ええ、目一杯宣伝用の髪型にしてください」


「あ、慎太郎君に言われて思い出した、宣伝用のビフォーの写真撮らないと!」


 清野さんは慌てて裏からカメラを持ってくる。


「それじゃあ撮るよ」


「いつでもどうぞ」


 俺は当然のように前髪で視線を遮った。

 カシャッと音が鳴り、清野さんは満足げにカメラを見つめている。


「うんうん、これからの変わりようが楽しみだよ」


「そうですか」


「慎太郎君は気にならない? 自分の可能性」


「可能性?」


「そうそう」


 自分の可能性と言われても全くピンと来なかった。

 

「全くと言っていい程ですね」


「また後ろ向きな……。そんなんじゃ女の子にモテないよー?」


「いいんですよ、モテるモテない以前の問題ですから」


「そんなこと言わないでさ。それに慎太郎君って顔のパーツかなり整ってると思うんだよね」


「いやいやいや」


「むしろかなりイケメンの類だと思う」


「清野さんに言われても嫌味にしか聞こえませんよ」


「今は、ね。髪を切ったら周りが証明してくれるさ」


「自信満々ですね」


「ああ、勿論。それと眼鏡預かるね」


「はい、どうぞ」


 清野さんは俺の眼鏡を丁寧に眼鏡ケースにしまった後、腰のポーチからハサミを取り出した。


「じゃあ行くよ!」


 耳元でジョキジョキと気持ちのいい音が鳴る。

 俺は朝が早かったせいか、いつの間にかその音で眠ってしまった。


「慎太郎君、起きて! 切り終わったよ」


「はッ、すいません。寝てしまったみたいで……」


「いいんだ、こんな朝早くを指定したのは俺だからね。それより眠気覚ましにシャンプー行こうか」


 俺は寝ぼけ眼のまま少々熱めのお湯でシャンプーをしてもらって目を覚ます。

 そして再び席に着き、ドライヤーをかけた後先程渡した眼鏡を清野さんが返してくれた。


「ほら、変わった自分を見てみてよ」


「はあ」


 相変わらずの自信に少々気圧されながら眼鏡をかけて鏡を見た。


「これ、誰ですか?」


「慎太郎君以外に居ないと思うよ」


「これが……俺?」


 今までの陰キャラを具現化したような人間だった俺が髪型ひとつでここまで変わるものなのか!?

 長かった髪は全体的に短く切り揃えられていて、目や眉毛は勿論、額までモロに見えている。

 耳も首も、久々に外気にさらされて少し寒い。


「髪型の説明をするとね、慎太郎君にした髪型はソフトモヒカンを少し改良した形になっていてね、ソフトモヒカンよりも髪を長めに残してあるんだ。それによって、毛先に遊びが生まれて――って、そこら辺はセットすれば分かるかな?」


「それじゃあもう一回眼鏡借りるねー」と言って清野さんはコテとドライヤーを巧みに操りながら髪を整え、ワックスとスプレーで素早く形を固めていった。


「ほら、こんな感じ」


 再び眼鏡を返してもらった俺は鏡を見てさらに驚愕した。


「カッコいい……」


「でしょ? やっぱり慎太郎君はイケメンだったなぁー!」


 いいながら清野さんはカシャカシャと写真を撮りまくっている。


「……」


 写真を撮り終えるまで、俺はあまりの驚きに言葉を失っていた。


「そう言えば慎太郎君の学校って髪染めてもいいところだったりする?」


「ああ大丈夫ですよ、みんな染めまくっているんで」


「そっかぁ」


 清野さんはにやにやしながらバッと素早い手つきで俺の眼鏡を奪い取った。


「あ! ちょっと!」


「これは人質、いや眼鏡だから眼鏡質かな。今日の学校の帰りにまたうちに寄ってよ、そしたら髪の毛染めるからさ!」


「そんなことしなくても寄りますよ、早く返してください!」


「いーや、ダメだね。君はなんかもう来ない気がするから」


 身体がわずかにびくっと震えた。

 そうだ、もう二度と来るつもりは無かった。

 いくら見た目が変わったところでイジメはなくならないし、どうせ今日で死ぬつもりだったから。


「分かりました、帰りに寄ればいいんですね……」


 でも清野さんとはもう少しだけ話してみたいとも思ったのだ。

 清野さんに髪を染められても死ぬことは出来るからな。


「そっか、じゃあまた今日ね。っていうかもうすぐ八時回るけど慎太郎君時間大丈夫?」


「ええ、嘘!? 俺行きますから今日ちゃんと眼鏡返してくださいね!」


 ドアベルをけたたませて勢いよく扉を開く。

 瞬間朝の冷たい空気が首筋や額、耳元を撫でた。

 

「行ってらっしゃーい」


 清野さんに見送られ、俺は慣れない感覚に戸惑いながらも急いで学校に向かったのだった。

慎太郎は自分に生じた変化をかなーり甘く見ています。

さて、それが吉と出るか凶と出るかは次回で!

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