十八話
大変お待てせして申し訳ないです。
新キャラが大勢出てくるため、変なスランプに入っていました。
落ち着いてきたのでもう大丈夫です。
「はぁ……改めて大きいな」
車を停めに行った宍戸さんに車を降ろされ一人で屋敷もといペンションを見やる。
参加者はどれぐらいいるのだろうか。
もしかしたら俺一人とか、そういうのは無いのかな。
できるだけ人と関わりたくない――、いや! 俺は努力しようと決めたんだ。その結果が同じだったとしても捉え方は変わるかもしれない。
まだ自殺は濃厚だろうけど……。
でもずっとイジメられてきた俺に何も失うものは無い、やれるだけやるんだ!
そうやって自分を鼓舞しながらペンションのドアを開いた。
華美な装飾を施された、重そうな扉は思いのほか軽く、簡単に開く。
「はぇ、広い、怖い……」
扉を開けるとそこはいかにも殺人事件でも起きそうな、真っ赤なカーペットが敷かれた広いホールだった。
正面にはよくわからない絵画、それを囲うように両サイドから階段が二階へと続いている。
正直この雰囲気だけでもう帰りたくなってくる。
未知の空間に一人放り出されるのって凄く怖い。
壁際によって宍戸さんの到着をひっそり待っていると二階の正面の階段に人影が見えた。
「ひっ! お、おおおお化け!?」
「んな! 失礼ねぇ、そこの坊や! 私が幽霊なわけ無いでしょう!」
恐る恐るもう一度しっかりと声の主を見てみると、ショートカットでピンク色の髪、身長は180センチ以上はあるであろう高身長。
そして細身ながらも引き締まった肉体の――男性がいた。
「やっぱりお化け!?」
「ゴラァクソガキ! てめえ調教してやろうか!」
言った瞬間階段を猛スピードで降りてくる。
こ、殺される!
そのまま微動だにできない俺の前にスッと立ち止まると、俺の両肩に手を乗せて
「よく聞きなさい。私の名前は鎌田。ミセス鎌田とお呼びなさい」
「ひいい!」
俺はぶんぶんと頭を縦に振りながら肯定の意を示した。
「それで、ここに来たってことはあなたもモデルの合宿ね? いいわ、私についてきなさい」
そのまま踵を返し再び階段を上がっていく彼……女?
「で、ですが宍戸さんが――」
「いいから来なさい。龍ちゃんは後からちゃんとくるわ。それに明日のレッスンから龍ちゃんはいないのよ? しっかりなさい」
「い、イエスマム」
「よろしい。じゃあ行くわよ」
あまりに急な展開で未だ震える足を駆使してミセスの後を追う。
「それにしてもあなた、意気地ないわね。そんなので本当にこのレッスンやり切れるのかしら」
「すみません……」
「はぁ、心配だわ……。龍ちゃんは『出来る子』しかこの合宿場に連れてこないはずなんだけど。目利きが悪くなったのかしらねぇ……」
幾度もため息を吐きながら大きなペンション内を歩いて一つの扉の前に立たされた。
「入りなさい」
「えっと、ここは……?」
質問をするとまた一つため息を吐いてミセスは話し始める。怖い。
「ここはあなたたちアマチュアを訓練するための部屋よ。もう既にあなた以外の三人は部屋で待機しているわ、さっさと入りなさい」
「さ、三人!? 少なくないですか? レッスンってもっと大人数でやるものかと……」
「他の合宿なら確かに多いわね」
「ならどうして――」
「それはこの私がインストラクターだからよ。私は他と違って厳しいからね、龍ちゃんが選んできた『出来る子』以外は他に回されるの。ほらもういいでしょ、早く入りなさいよ」
「は、はい……」
恐る恐るドアノブを回す。
中は体育館の半分ほどのスペースで、片方の壁は一面鏡で覆われていた。
そこで待機している三人。
一人はひたすら筋トレをしており、もう一人は体育座りで大人しく。
もう一人は部屋の隅で胡坐をかいて居眠りをしていた。
うわぁ……、やっていけるのかな。
個性が爆発している三人を見て思わず弱音が漏れそうになる。
しかし慌てて飲み込んでミセスの言葉を待った。
「さあみんな集合よ! ようやく全員がこの場に揃ったわね。まずは自己紹介をしましょう、知っていると思うけど私はミセス鎌田よ。先に言っておくけど、この私のレッスンは厳しいわ。耐えられないと思うなら今すぐ家に帰りなさい! でもその代わりレッスンに耐えられさえすればここに来た時とはまるで見違えるように進化する。これから一週間面倒を見てあげるから覚悟しなさい。さて、次はあなた達自身の紹介ね。
まずはそこの筋トレ坊や! あなたからよ、手短にね」
「はい、ミセス鎌田! わたくしの名前は源田鉄! 今年で十七歳だ、趣味は筋トレ! よろしく!」
筋骨隆々の少年は源田鉄と言うらしい、短く切り揃えられた髪に太く吊り上がった眉。かなり男らしい。
いやこの場合は漢だろうか。
「いい自己紹介だったわ、少しうるさかったけれどね。そしたら次はあなた」
ミセスが次に指名したのはずっと体育座りをしていた少年。
「はい」と小さく返すと続いて立ち上がり、
「僕の、名前は……黒川、一太、です……。趣味は、特にありません。十六歳です、よろしく……」
そのままの音量で自己紹介を終えた。
居眠りしている人には聞こえなかったのではなかろうか。
黒川一太と名乗った彼は黒髪をマッシュっぽい髪型をしており、大きくて可愛らしい瞳の幼い風貌ととてもマッチしていた。
身長も俺より低いかもしれない。
何より少し陰気そうな雰囲気に好感を覚えた。
「声が小さくてあまり聞き取れなかったけれど……まあいいわ。ここから出る時はそれなりに出るようになっているだろうしね。それじゃ、次はそこの居眠り小僧」
「んぁ? 俺か?」
部屋の隅でずっと居眠りをこいていた少年が指される。
しかし少年は立ち上がらずそのまま自己紹介を始めた。
「俺の名前は木崎。木崎エイト。エイトはカタカナでエイトだ。趣味は喧嘩。歳は十八。んで先に言っとくけどお前らとなれ合うつもりはねえから。そこんとこよろしく」
木崎エイト。この中で最もやばそうな雰囲気を感じる。それこそギャル三銃士と同じような……。
綺麗な金髪に切れ長の目、白い肌、高い鼻、青い瞳。もしかしたら日本人以外の血も入っているのかもしれない。エイトだし。
でもなるべく関わらないように気を付けよう……。
「尖ってるわね。龍ちゃんが私に預けるのも納得がいくわ。そしたら最後、あなたよ」
そしてとうとう一番最後、俺の番が回ってきた。
大勢の前で自己紹介なんていつ以来だろうか。
一つもいい思い出が無い。
震える身体を深呼吸で落ち着かせて立ち上がる。
「お、俺の名前は榊慎太郎です。趣味は……無いです。えっと、それで……十六歳です、お願いします……」
自己紹介が終わるとすぐに座る。
心臓は未だにバクバクと鳴っていて自己紹介だけで緊張している自分に恥ずかしさを覚えた。
「あなたは緊張しすぎ。途中もまともに話せてなかったし……。いいわ、そこ直すのも含めて私の仕事だから。取り合えず全員の自己紹介が終わったから次はペンションを案内するわ。ついてきて」
ミセスの指示に従い、ぞろぞろと後についていく俺たち。
一通り館内の紹介が終わった後一人一部屋与えられた自室で、俺は一人魂を抜かしていた。
「ああああ、俺は一体ここで何日持つんだろう……」
結局案内の時には誰とも話せなかったしピリピリした雰囲気が延々と流れていてひどく緊張した。
「明日からレッスンか、一体何をやるんだ。怖すぎる」
そのまま俺は夕飯の時間になるまで部屋でうずくまって時間を潰したのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
話の舞台が一気に変わったので説明が増えると思いますがご容赦ください。
それではまた次回お会いしましょう。