十七話
お待たせしました。
どうにか一週間以内に更新出来て嬉しいです。
「……」
「……」
かれこれ三十分間、エンジン音とオープンカー特有の風を切る音だけが車内を満たしている。
カーステレオもつけないし、黙々と運転している宍戸さんの隣で、俺はただただ外を眺めていた……。
「……」
「……いや長くないですか!?」
沈黙に耐えかねて思わず声を発する。
「何がだ?」
「何がだってそりゃ合宿所までの道のりですよ。futuro出てから結構経つんですけど、まだですか?」
「ああ、もうしばらくかかるな」
「ちなみに、どのくらい……」
眉一つ動かさず、淡々と受け答えをする宍戸さんに恐怖を覚えながらも聞いてみた。
「そうだな、大体あと……二時間弱か?」
「遠い! 遠いですよ、宍戸さん! 何県跨ぐつもりですか!」
「まあ隣の隣だ。途中トイレ休憩もはさむから安心しろ。それとも酔い止めが欲しいか? それだったらそこの――」
「違いますよ! 遠足じゃあるまいし、トイレ休憩とか酔い止めの心配なんかしてません!」
「ああ、なるほどな。お菓子か。パッキーしかないけどいるか?」
「違ああああう!」
「ああ、まだつかないのか……」
あの後高速道路に乗って一時間。
やっと一度目のトイレ休憩の時間だった。
トイレから無事戻ってくると、自販機の前に宍戸さんがいる。
「おい慎太郎。お前は何か飲むか? 奢ってやる」
「え、いいですよ。お金もったいないですし」
「そうか? でも今持ち合わせがないだろう、奢りが嫌なら後で返してくれればいい。それで、何が飲みたい?」
「じゃ、じゃあBUSSの微糖がいいです」
「分かった」
すると宍戸さんは丁度手に持っていた缶コーヒーを渡してきた。
「丁度同じものを買ったんだ、やる。これなら奢りじゃないだろ」
「あ、ありがとうございます……」
え、かっこいい……。
あまりのカッコよさに口が開いたまま塞がらない。
「ちょっと休憩するか」
「あ、はい」
二人してサービスエリアのベンチに座る。
「……」
「……」
気まずい……。
何か話してほしい、こんな沈黙に耐えられない。
こんな調子で合宿所、上手くやっていけるのだろうか……。
もしかしてまたいじめられたりしたら……っ!
「なあ慎太郎」
「な、なんですか!?」
「いや、この缶コーヒーの名前結構ひどいと思わないか?」
「ああ、『BUSS』ですもんね」
「そうだ。このパッケージの男の顔のパーツは確かに整っていないと思うが、外見を顔だけで決めるのはどうかと思う」
「確かにそうですね」
おもむろにパッケージを見れば、男の顔の影の絵が描いてあるのだがお世辞にもイケメンとは言えなかった。
「――外見に気を使って、オシャレを身に着けて、努力さえすれば、この世にブスなんて一人もいない」
「……」
「逆に変わる努力をしなければ、ブスはブスのままなんだ。見た目も、――そして中身もな」
「……」
宍戸さんの独白じみた言葉を聞いて、俺は何も言えなかった。
学校でギャル三銃士にイジメられて、周りからは嘲りを受けて、家では虐げられる。
悪いのは全部あいつらだ。その考えは変わらないけれど、俺は変わる努力をしなかった。
なんなら努力をしない言い訳を考えることに努力していた。
もしかしたら、あの時変わろうとしていれば。
今は全く違う未来を歩めていたのだろうか……。
「宍戸さん」
「なんだ」
「……今からでも、変われますか?」
宍戸さんはコーヒーを飲み干して立ち上がるとごみ箱に空になった缶を捨てて、振り返った。
「そういう人間の為に俺はこの仕事をしている」
ああ、そうか。
この人も清野さんと一緒なんだ。
清野さんは髪型から。宍戸さんはファッションから。
道は違えど目的は同じなんだ。
「はい! 頑張ります!」
思わず大きな声で返事をしていた。
「ああ」
そう呟いた宍戸さんの顔は逆光でよく見えなかったけど、確かに微笑んでいるように見えた。
「おい、着いたぞ」
「やっとですか……」
途中第二回トイレ休憩をはさみ、そこからさらに高速道路を降りて下道を三十分。
かれこれ二時間強の時間を費やして、俺はとうとう辿り着いた。
「うわ、思ったより大きいですね……」
「ああ。バブル時代に建てられたデカイ別荘を立て替えて建てたペンションだからな」
「これはもうペンションどころか、お屋敷ですよ!」
俺はこれから一週間見知らぬ人とここで生活するのか。
そう思うと自然と背筋が伸びる。
「とりあえず降りろ。館内の説明はその後だ」
長旅で痛めたお尻を擦りながらペンションの前に降り立った。
「変わろう」
胸に灯った新しい炎と共に地獄の一週間が幕を開ける!
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
少しづつですが話が進み始めて(今更)とても嬉しいです。
今後とも慎太郎の成長物語?にお付き合いください!
それではまた次回お会いしましょう。