十話
Twitterの告知からおおよそ12時間投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
でも誰も見てないと思うから、多少遅れても……
――あっやめて! そこ! もの投げちゃダメ!! 痛いから! ゴメンナサイ!
次からは絶対守るので許してください!
……と言うわけで始まります。
へぼへぼで死ぬほど弱気な少年と別れた後、次の仕事先へ向かう途中スマホを取り出してとある人物に電話を掛けた。
「もしもし」
『あ、龍? 慎太郎君どうだった!?』
「どうだったもなにも――」
『滅茶苦茶いい子だったでしょ!』
こいつは相変わらず話を聞く気が無いらしい、どこまでもマイペースなやつだ……。
人当たりの面では高校生のころとは大違いだが、話を聞かない点では何も変わってない。
「いい子ではあったが。少し、いやかなり性格に難があるな。スタイルも顔もいいがカメラの前でポーズができるとはとても思えん」
『そこをなんとかするのが龍の仕事でしょ?』
本当に無茶苦茶言ってくれやがる。
そもそもあの慎太郎とかいう少年に接触したのも偶然では無くてわざとだ。
俺がモデルのスカウトを仕事にしてるのをいいことにこき使いやがって……。
そんな反論をすれば『モデルのカット、辞めるよ?』とか言い始めるので俺も強気に出れない。
なんだかんだで言いくるめられて少年を見つけた時はいい素材だと思ったが……。
「慎太郎、だっけか? あいつをしっかり人前に出せるようにするにはかなりの荒業が必要不可欠なんだが……」
『うん、大丈夫。それにレッスン料は俺が払うからさ!』
「はぁ……。そもそもどうしてお前はそこまであいつに入れ込むんだ? 潜在能力がもっと高いモデルなんてほかにいくらでもいるだろ? なんでそこまで――」
『それは龍にも言えないかな! あ、慎太郎君いらっしゃい!』
――ブツッ
食い気味に答え、そのまま通話が切れた。
「ったくなんなんだあいつは!」
あまりの傍若無人な態度にイラつきを抑えられず、宿原商店街の真ん中で大声で叫んでしまった。
周りの人からの視線が痛い……。
でもあいつがあそこまで人のことを気にするなんて今まで無かったことだ。
高校時代も友達と呼べる友達は俺だけだったし、高校を卒業した後はモデルのカットでうちの事務所にあいつが来るまで音信不通だったほど。
そんな奴があそこまで強気で推すならなにか光るものがあるのかもしれないが……。
「やめやめ、あいつの考えなんて予想したところで絶対に当たらない」
まあ一応、上には話し通しておくか……。
俺はため息を吐きながらも上司に榊慎太郎のカットモデルの写真を送るのだった。
「こんにちは……」
宍戸さんと別れた後コーヒーを一気飲みしてそそくさと喫茶店を出て『futuro』にやって来ていた。
控えめに鈴を鳴らしながら入店すると元気のいい声が聞こえる。
「あ、慎太郎君いらっしゃい!」
直前まで誰かと電話していたのだろうか、耳元のスマホを離してこちらに駆け寄ってきてくれた。
「ごめんなさい、電話の邪魔をしてしまって……」
「ああ、気にしなくていいよ。何でもない話だったからね!」
「もしかして電話の相手って」
「気づいた? そうそう、龍だよ。街中でスカウトしたら俺の名前を言っていたっていうから連絡をくれたんだ」
「そうですか、お知り合いで良かったです……」
清野さんの知り合いなら一安心だと、ほっと胸を撫で下ろす。
その様子を見てか清野さんが話しかけてくれる。
「龍怖かったでしょ? 昔から目つきが鋭くてね、今はサングラスを掛けてるんだけど。こっちとしてはそっちの方が怖いよって!」
「確かにそうですね、ぶつかって謝ったら腕を引っ張られて無理やり喫茶店に連れていかれたので……」
「チッ、……手荒な真似すんなって言ったのに、あの野郎……」
「あれ、何か言いました?」
一瞬清野さんの顔が歪んでものすごく不吉な言葉が聞こえた気がするんだけど。
それに今の顔、まるで鬼みたいに……。
まさか!?
フッと清野さんの顔を見るといつも通りの柔和な笑みを浮かべている。
よかった、勘違いみたいだ。
鬼の清野はやっぱり清野さんじゃないよな。
あまりにもさっきの顔が鬼の形相だったからと言って決めつけるのは良くない。
で、でも鬼の清野のことは絶対に口に出さないようにしよう、そうしよう……。
「それじゃ早速髪の毛を染めて行こうか!」
「はい」
「そしたら俺は髪を染める準備をするから、三木! こっち来てくれ!」
清野さんは背中を向けて誰かを呼びつける。
三木さんか、知らない人は怖いな……。
まだ見ぬ人間に恐怖しながら清野さんが声を掛けた方向を見ていると、どたどたと慌ただしく走る音がして、綺麗な甘栗色の髪をした美人が俺に向かって一直線に――ッってこれぶつかる!
「とう!」
「うわっ!」
思わず身を翻してタックルを避ける。
すると勢い余った三木さんはそのまま壁に――
「うわわわわわわわ!」
――ドンッ
ぶつかった。
え、なんで!?
彼女の謎過ぎる行動に頭を抱えていると、思い切り頭を壁にぶつけた彼女は頭を擦りながらあろうことか俺に文句をつけてきた。
なんか頭頭言い過ぎて頭痛くなってきたな……。
「いたたたたたた……。何で避けるんですか、イケメン君!」
「ええ、絶対俺のせいじゃ――」
「イケメン君が避けなければ私は壁になんかぶつかりませんでしたよ! 要するにこれはイケメン君の責任です!」
どや顔で言い切った!?
「……おい、三木?」
意味の分からないいちゃもんをつけてくる三木さんと話していると、途轍もなく低い声の清野さんが割って入ってくる。
顔を見れば……あ、これ鬼の清野だ。間違いない。
というか、こんな顔を見たら注意された三木さんが泣いてしまうんじゃ!?
心配になって今度は三木さんを見る。
すると、
「店長そんな怖い顔しないでくださいよ、イケメン君とスキンシップを取ろうと思っただけじゃないですか!」
ええ、あの鬼の清野に真っ向勝負!?
痛そうな表情は全く変えず、むしろふてぶてしい態度で清野さんと向かい合う。
そんな彼女の様子を見て清野さんは何かを諦めて鬼人化を解いた後、「しょうがないな、三木は」と言った後にシャンプーを頼んでどこかへ行ってしまった。
え、こんな何するか分からない人にシャンプー頼むんですか?
俺を一人地獄に置いていってしまうんですか?
立ち去る清野さんの背中を寂し気に見送っていると、耳元で囁きが聞こえた。
「……それじゃあ、行きましょうか!」
「は、はい……」
俺はこの時人生で初めてシャンプーが怖いと思った……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
先日感想で「物語の方向性が分からない」というご指摘をいただき、実のところ自分も悩んでいる内容だったので、そろそろ話を一本にまとめていきたいなと思っております。
と言ってもまだ終わるわけではないのであしからず。
さあタイトル回収するぞ!