異世界 1ー6
「ハンス、この巾着借りていいか?このギルドから出すつもりはないから」
「どっち道、俺らではわからない物だから良いぞ」
「ありがとう」
そう言って、巾着を持つと、副長に耳打ちする。
「この中は、白金価で33万枚近くのお金が入ってます。ギルド長とお話がしたいのですがどうでしょう」
副長の顔が青くなっていく。
小さい小汚ない巾着に、実に33000000000つまり330億円入ってると言っているようなもの。
そりゃ、驚くよ。
金持ちのじいさんって、誰だったんだろうね。
副長が足を引きずるように、倉庫から出ていく。
暫くして、戻ってくると、ギルド長室に案内された。
ギルド長室は、長方形の机と長椅子が2つ。
その奥に書類と言っても洋紙のような分厚い紙が重なって置いてあった。
「すまないが、そこに座って待ってくれないか?」
と言ってきたので、長椅子に腰掛けると、机の上に巾着を口を開いた状態で置いた。
「待たせてすまなかったね。私がギルド長を勤めるムースという。はじめましてジュン」
「はじめましてムースギルド長」
「で、これがそうなのか?」
「そうですよ。口をじっくり見て、何か表示されたら目をそらさずに、白金価のところに指を持ってって、100と数字を書き、Ok押したら巾着を逆さにして持ち上げてみてください」
ジャラジャラ・・・。
「確かに100枚ある。そして、表示から白金価が100枚減ってる」
「こういうものは、初めてか?」
「いや、話程度に聞いたことあるが、実物を見るのは初めてだ」
「そうか、じゃ、これを見てくれ」
そう言って、3つの箱を置いた。
俺がここに移動してくる間にブナの薪を使って、即興で作った物だ。
1つは、ポーションの瓶が1つ収まる程の時知らずの箱、1つは親指の先ほどの大きさの小さな量知らずの箱で、箱の側面に量と書いてある、1つは親指の先ほどの大きさの小さな箱で、側面に量と時と書いてある時・量知らずの箱である。
3つの箱の特徴なんかを話ながら、1本のポーションを取り出して、ポーションの蓋を開けた。
ポーションをそれぞれの箱に3等分して入れる。
量知らずの箱と、時・量知らずの箱には、液体のまま直接箱に途切れないように注意しながら、溢れるであろうと思える量をいれていく。
最後に瓶の蓋をして、時知らずの箱に残ったポーションを入れ、蓋をする。
このまま1時間ほど待てば、実験の結果がでる感じだ。
1時間ほど、この世界のことを聞いたり、街のおすすめスポットを聞いたり、街の外のことを聞いたりしていた。
ほとんどが、中世ヨーロッパ風の異世界と思ってくれればいいかな。
そして、この街は、ムラクモという苗字の王族が支配しているそうだ。
なんとも日本語のようなといっても、通じないだろうが、その王族の王様が引退して、ここに住んでいたのだが、数年前に亡くなり、今では王族の別荘地として使われていることのこと。
そして、4人の子供がそれぞれの地域を治めているらしい。
話をしているうちに、1時間たったので箱の開封といく。
時知らずの箱から出したポーションは、効力があった。
量知らずの箱は、中身がなくなっていた。
時・量知らずの箱は、ポーションの効力があった、という結果だ。
結果に驚かれた物の、直ぐに注文をいただいた。
「時・量知らずの箱を30cm・40cm・50cmの正立方形のを3つづつお願いできるか?」
「良いですよ。ポンポンポン、ポンポンポン、ポンポンポン、ポンっとはい、最後の横30cm縦10cmの箱はおまけ。全部50倍にしといたよ。どう」
「もう驚く気がない。うまく活用させていただこう。お代は、その巾着でいいか」
「こんなに要らないですよ。1万枚もあれば十分です。それはそうと、これを売りに来たという親不孝的存在は誰です?」
俺は、残りのお金を細長い箱に入れて、ギルド長に渡す。
「ドランですよギルド長」
「ドランか、ジュンが相手にしようとしている商人だ」
「結構好き勝手してますね。よくつぶれないこと」
親の七光りと言うものだろうか、親が亡くなり、暴走している感じの話だった。
「じゃ、そろそろお暇します。ギルドカードありがとうございました」
と言って出ようとしたのだが、待ったがかかる。
「待て、それだけの実力を持ちながらIランクからとかあり得ん。私と闘え。結果次第ではランクを上げてやるぞ?どうだ」
「やだ、と言っても無理かな?」
ランクは、どうなっているかというと10段階で、何故かアルファベットを採用していて、S・A・B・C・D・E・F・G・H・Iとなっている。
因みに、ムースギルド長は女性だ。
30より手前か、俺よか若い。
どこぞの隊長をしていたとかなんとか、ランクもSだそうだ。
スライムも1人で倒せるらしい。
というわけで決闘が始まりそうだった。
「基本的に魔法、武器は自由。勝った方がランクを決める。というのはどうだ。勝敗の判断は審判のみ、審判は副長が勤める。観客無しでという感じでどう」
「わかった、良いだろう」
ギルド内にある闘技場は予約制で、今日は1人もいないようだ。
静かな時が流れるなか、声が響く。
「時間無制限、勝敗は相手が負けを宣言したときのみ、始め」
ムースは、大きくて軽いオリハルコンという金属で出来た大剣を構えた。
大剣は、ゆうに刃渡り80cm程で大男が持ちそうな武器である。
これで、敵の武器を壊し、相手の戦力と戦意を奪うやり方らしい。
戦う前に、自分で言ってた。
俺は、刃渡り50cm程の細身の小太刀風の大きさにしてみた。
始めの合図と共に踏み込んできたムースは大きく上段からの切り落としをしてくる。
カッン。
頭上から襲ってくる大剣を、刀で軽く払う。
軌道をそらされ、地面にめり込む大剣は、そのまま斜め右下から左上にと切り上げられる。
俺は、それをそっとかわす。
ムースは切り上げられた大剣を、真横に構え直し水平に大きく切った。
俺はそれを、刀の鎬で受け止める。
攻撃を受け止められるという事に、ムースは焦りを感じているようだった。
一瞬鈍った動きを見せるムースの首にそっと刀を添える。
ムースは、武器を捨て降参する。
戦闘において結局、魔法を使わなかった。
ムースは、大人しくお部屋に戻っていき、俺も、副長と共に受付へ向かう。
受付の横を通り、入り口に向かう。
その間の開けた掲示板のある場所は、ギルドの仕事を終えた人でごったがえっていた、夕時であった。
おすすめという宿屋につく。
中にはいると、男性の従業員が声をかけてきた。
「お泊まりですか?」
「あー頼んでいいか」
「はい、どのようなお部屋をご希望ですか?」
「そうだな、1人だがゆっくりできて大きい部屋で1ヶ月は泊まれる部屋がいい」
「となりますと、上の階の角部屋が空いてますが、値段が少々張りますがどうでしょう」
「良いんじゃないか。いくらだ?」
「えーとですね、その部屋は素泊まりで銀貨5枚なんですよ。如何します?」
5000円、さほど高くもないかと思う。
朝食、夕食共に銀貨1枚。
お湯は銅貨3枚だ。
お風呂のある宿は無いとのこと。
「朝食と夕食つけて、30泊頼むよ」
「さ、先払いで、返金はありませんが構いませんか?」
「あー良いよ。支払いはどうする?」
「はい、あのーそのーぎ、銀貨でもらってもいいですか」
「構わんよ。で、何枚出せばいい」
「・・・・・・・・・」
マジか、想像道理だと思いながら、7枚づつの銀貨をカウンターに30作る。
時間がかかったが、会計を済ませて部屋の鍵をもらい部屋に入る。
畳にして12畳ほどの大きさだろうか、ベットが1つと机が1つあるフローリングの部屋だった。
食事は食堂でとのことなので、食堂に移動する。
銀貨1枚では、高くないかという内容に、少々ビックリするような内容だった。
小麦粉を練って焼いたようなパン。
塩味のきいた野菜炒め。
鶏のような焼き鳥といった感じだ。
野菜高騰の為だそうだ。
何でも生産が悪いのだとか。
メニューに代わり映えはなく、大体味付けも変わらず、焼くか煮るかだそうだ。
最初から、食事については何の期待もしていなかった。
だって定番じゃん、こういう感じの食事。
部屋に戻る。
お腹もそこそこふくれたし、もう今日は寝ちゃおうと思う。
この後、神様の悪戯に悩まされるとも知らずにね。