異世界 1ー12
長いと思われた沈黙の時間が30秒を越えた頃、ようやくハンスから返事が帰ってきた。
「これはなんだ」
「鑑定してみろって」
「紙、藁紙、藁でできた紙。どうやって作った。そもそも紙は羊の皮を使って作る貴重な物」
「洋紙とか羊紙とか言ってるやつね。紙は1つと思ってただろうから、混乱しないだろうけど、羊の皮を使って作るやつは、羊皮紙と言って貴重だよね」
「そうだ、しかも値段が高い。それが何で、藁で再現できるんだ」
「再現しているわけではない。紙は色んな素材で作ることが可能だ。ただ、作り方や素材で強度や保存など色々違ってくる。藁紙は価値的には低い方だと思うぞ。破れやすいし、色も白くないし、重要書類には向かないだろうが、一時的なメモを取ったり、伝言として回したりと使いやすさは天下一品だと思うぞ。大事にとっておけば、それこそ何年もとっておけるしな」
「しかし、だな。ペンだあとインク。あれもないと話にならん。簡単に持ち運び出来て、何時でも書けるやつ」
「あるよ。ほれ」
そう言って、鉛筆を出してやり、そして言葉を続けた。
「道具は揃ってるのだがな、あーそれは鉛筆と言う。真ん中にある黒いところを紙に軽く押し当てて使うんだ。やってみて」
鉛筆をグーでもち、線を引き感動の声がした。
「問題はここだよね」
「何処だ?」
「ペンの持ち方、文字の書き方、文字を読めて書けるようにしないと、なんの意味のないものになってしまう。まーなんだ、ここに紙と鉛筆置いとくから、また感想聞かせて。今日は帰る」
そう言うと、俺は扉から出ていった。
宿に戻ると、早めに夕飯を済ませ、部屋に戻る。
ここに来て5日目が過ぎようとしているなかで、考えがまとまらないでいた。
少しずつわかってきたが、考えがまとまらないと、思考もあれもこれもと飛んでしまうのだ。
こういうときに便利なのが、メモ帳である。
この世界、言葉は自世界語と一緒。
最初はスキルのお陰かと思ったが、ひらがな、カタカナ、漢字と使用している。
そして、数字も単語が一緒なのだ。
文字は、ある程度の人が読めるくらいはあるが、書ける人はいないに等しいのではないだろうか。
ペンの持ち方も知らないようだ。
計算も苦手というか、できないのかな。
知識もかなり少ないと見るべきで、現に畑の肥料となるものすら理解していない。
連作とか皆無なんだろうな。
酒も安酒しか出回ってないだろうし。
主食も、小麦粉を練って焼いたものくらいだ。
野菜も高騰して種類も少なく数も少ない。
肉は、鶏肉らしい物が定期的に入ってくるらしい。
住むところは、貧乏長屋といったとこらしい。
衣服もボロい。
もちろん、いい服を着ている人もいるが、基本的に布と言うものが少ないのだろう。
俺が思うに、基礎知識が無く、衣食住が足りない。
ここでいう基礎知識とは、一概には言えない部分もあるが、小学生レベルの国語と算数、理科そして家庭科だな。
そして、スキルだな。
他人の持つスキルを勉強してもつまらないと思うが、自分の持つスキルですら知識がないどころか、自覚すらしていないと思う。
もし、最初から自分の持つスキルの知識があれば、スライムを倒せる人は多くなるだろう。
自分のスキルを自覚して、他人の持つスキルを尊重していれば、座敷牢に閉じ込められる事も無かったのだろうと思う。
衣食住は、物が増えてくれば充実していくだろう。
問題は基礎知識だな、どうしたものか。
あれ?何で俺はこの世界を変えやろうみたいな考えしてるんだ。
まーいきなりこんな世界突っ込まれたら、意味もなくそう思っちゃうよね。
その上、何でもできるスキル持っちゃえば、えらくなっちゃったて思うよね。
機会があれば、基礎知識位教えてやろう。
さて、今やりたいことは、ダンジョン攻略と、採取した物の開発だ。
何かを採るたびに、クエストアイテム増えそうで怖いけど、いつまでも言ってられない。
叶えられるときは叶え、後は神頼みで待ってもらおう。
そういえば、本当にクエスト来なくなったと思いながら、眠りについた。
翌朝、6日目の朝になった。
朝食を取り、直ぐに出掛けた。
場所は、ドラノ商店。
店仕度をしている人に声をかけ、中庭に進む。
「朝からご苦労だな。何しにきた」
「お前と話にきた」
「俺は話すことない。帰れば」
「そういう態度は、自分を損にさせるぞ。お前の食べたいものを叶えてやろうと思ってやって来た。完璧に再現は無理かもしれないが、できると思うぞ」
何の下調べのない取引、自分の運を試したくなった。
しかも急にだ。
「ほう、完璧になんて求めねえよ。1つでも再現出来たらここでおとなしくしててやるよ。もし叶えられなかったらここから直ぐに出せ」
「わかった」
「昔見た夢の話だ。妙に現実味のあった夢だったがな。今でも鮮明に覚えている。お前に叶えられるならしてみろ。言うぞ」
「夢?現実味のある夢?いつの話だ?」
「かれこれ30年くらい前かな」
「わかった、ゆっくり話してくれ。わからなければ聞き返す」
「あれは、父と・・・」
父と買い出しに、とある町に買い物に出掛けたときの話だそうだ。
人混みに紛れ、父とはぐれてしまった俺は、とぼとぼと歩いていたら、何かがぶつかって、脇道に吹っ飛ばされたそうだ。
気が付いたら、土でも石でもない道にいたとの事。
何気なしに上を見てみたら、夕暮れを過ぎた辺りか暗くてわかりづらかったが、高い建物に囲まれていた。
意味がわからず怖かった。
動けずに踞っていると、1人の男性に声をかけられた。
「君、こんなとこで何してる」
「えっここ、何処ですか?」
「東京だ、こんなオフィス街に1人か?こんな時間にか?親は」
何を言っているのかはわかるが意味がわからない。
今でもさっぱりだ。
それに、この男性の服装が、見たこともない服装で、黒と白のピシッとした爽やかな。服装だった印象がある。
靴も、黒かった。
「親?はぐれた。ここトーキョ?オフィス?夢?」
「夢?・・・あー夢だな。夢でもお腹は減るだろ?美味しいもの食べさせてやる。ついてこい」
そう言われたので着いていった。
物凄い歩きやすい道だった。
見たこともない建物を次々と越えていき、一軒の店に入った。
外は暗いのに、輝くほど明るい店内に唖然としたものだ。
「いらっしゃい、社長じゃないですか。奥にどうぞ」と言われ、店の奥にいく。
意味のわからない言葉が飛び交っていたので、ほとんど覚えてないが、見た事は覚えているらしい。
木の枠に白い何かが貼ってある扉、何かの植物と思われるものでできた敷物、朱色をした低い机、机の下は穴があり、椅子のように座れたという。
木の枠の扉についている、白い物をいじってたら、穴が開いてしまい、ビックリして振り向いたら、「オイタは駄目でしょ、座って待っててね」と言われた。
俺も将来、こんな大人になりたい何て言うから、オモイッキリ白い目で見てやったよ。
ここまでの話を纏めると、東京のオフィス街に転移した経験があることがわかる。
30年前が、向こうの30年前かがわからないが、そこで男性に声をかけられた、食事をおごってもらったことは理解したが、その男性順応しすぎていると思う事にビックリしていた。
「カツドン、ソバ、サシミ、テンプラ、貝焼き、プリン、後、何か透明で良い匂いのする飲み物だ。さー作れ」
「さー作れじゃないよ。けっこう食ったんだ位はわかるけど、興奮しすぎて内容飛ばしすぎだ。1つ1つ質問していくぞ。いいな」
「はっつくるっていったじゃん。はよ作れ」
「わからんことは質問するといった。いくぞ」




