異世界 1ー9
街に戻ると、日がすっかりくれて、夜になっていた。
街の中は、それほど明るくない。
夜の街でも明るいイメージがある人も多いだろうが、ここはそういったイメージではないようだ。
ギルドの仕事は、明日の夕方までが期限なので、今日中に焦ってすることもない。
町中を歩き、宿へ向かう。
途中安酒と思われるものを提供している店を通りすぎ、宿へと戻る。
代わり映えしない夕飯を済ませると自分の部屋に戻る。
昨日はこの時間体当たりから、注文みたいなクエストが発生していたが、今日はまだ来ていないようだ。
今日はこれから行きたいところがある。
それも、正式な方法ではなく、忍び込んでみたいのだ。
忍び込むターゲットはドラノ商店、ドランが亭主を勤める店である。
ドラノ商店は、大きな店構えをしているわりには、1階平屋建てである。
カタカナのコの字をしている建物で、コの字の上の部分に当たるのが、亭主ことドランが使っている部屋と、その奥さんが使ってる部屋、そして、息子のテトラが使用している部屋がある。
ちょうど、ドランが食事をしているところに忍び込んだようだ。
奥さんと思われる女性は、食事を直ぐに済ませて部屋に戻る。
息子のテトラが近況報告をしていた。
屋根裏から忍び込んで、食事内容が豪華に見える。
テーブルの真ん中辺りにデンと構える牛肉と思われる固まり。
回りを囲む野菜炒めとスープ、ロールパンのようなものもあった。
果物の盛り合わせが、デザートか飾りかわからないが、置いてあった。
使用人かコックかわからないが、1人いるだけである。
その1人が食事を切り分けていた。
「おい、テトラ。売り上げの方はどうだ?」
「いたって順調です。ですが、ここのとこ赤字続きでして」
「なぜだ?」
「薬草です。昨日は金貨1枚でしたが、今日は金貨3枚でした。このまま続くと」
「明後日の昼には決着がつく。それまでガンバレ。あ、あと薬草は絶対マイクの手に渡ることがないようにな。買い取りを金貨だろうが白金貨だろうが買い取ってやれ。いいな」
「いや、しかし・・・」
「なんだ、口答えか?ハー返事は」
「は、ハイ」
「ったく気の弱い返事じゃの。まーいい頼んだぞ」
そう言うと、赤ワインと思われる赤い液体を流し込むように口に含むと、飲み込みプハーと大きく息を吐いていた。
食欲のなくなった息子は、自分の部屋に戻る。
「食事が終わりましたら、お呼びください。片付け次第今日は帰らせていただきます。明日は、朝食を作り、お昼に依頼をだした畑の確認をして参ります。失礼します」
「全く、今度お酌しろと言っただけで、断ってきやがって、店子は俺のものだ。それがわかってねー。お酌もできねーような奴が側にいたら、店が潰れるっつーの。わからせてやらねーと。次は、あの店の娘はどうだろう?14歳だったか、まーいいグフフ」
息子の部屋を覗いてみる。
「どうしたものか。お酌程度で済むならまだいいが、以前はその道のプロに頼んでどうにかこうにかなったが、その次はお金でなんとかなったが、今回はどうにもならない。おじいちゃんの代での信用していた店は離れる一方だし、今回は犠牲者が出そう。店も赤字だし・・・・・・この庭も」
庭はコの字の店の真ん中にある中庭のこと。
雑草も多く荒れていた。
「おじいちゃんの生きていた時は、手入れもされてて見事だったのに、今じゃみる影もない」
そう言いながら、何時までも庭を眺めているテトラであった。
最後に、2人のスキルを確認してみた。
ドランは料理というスキル1つ。
テトラは、運用、会計、社交とある。
完全にテトラの方が商売に向いてるのはわかった。
次の日の朝、クエストは無いので、ゆっくり食事する。
一度部屋に戻って、時間を潰すと、外に出た。
商店街をみて廻る。
はっきり言って、活気がない。
値段も高い。
中古の下着類ですら、銀貨を払わなければ変えないほどだ。
銅貨で、どうにか野菜が買えるくらいだ。
新品の服なんて変えんだろうなと思っていたら、何人もの冒険者と思われる人たちが買いに来ていた。
同様に武器屋や防具屋等にも溢れていた。
考えてみれば当然かもしれない。
薬草を超高値で買い取ってもらえる今だけの光景だ。
その後ろでマイクが忙しそうに、薬草を譲ってほしいと声を駆け回っている。
そして、俺を見るなり走ってきた。
「おーお願いします。薬草、有りましたら全部買い取らせてください。薬草1本につき金貨5枚出します。お願いします」
「ここに100本有りますがどうします?」
「わかりました。全部お願いします。お金は私のお店の方で支払うということでどうでしょう」
「いいよ。いこっk・・・」
「ちょっと待った」
俺の後ろから声がかかる。
「今、薬草1本金貨5枚と言ったかな。だったら3倍の金貨8枚でどうだ。100本だから、金貨80枚だな。即金で出すぞ。ホレ」
振り返ると、そこにはドランがいた。
間違えを指摘しきれないお供の方々。
俺も本気で言ってるのか、どうせ計算できないとタカをくくってそう言ってるのか、悩んでしまうとこだった。
一方、マイクは俺の後ろに居て、ドランに対して、芝居をしたかったと思うのだが、ここまでの計算間違いにドン引きする俺とマイクであった。
「本当ですか、流石大旦那様、素晴らしい計算の早さ。感服です。お願いします」
と言って、薬草を差し出した。
ドランは、薬草を乱暴に受けとると、何故か金貨を地面へとばら蒔いた。
「マイク、此方の御仁に拾って差し上げなさい。全く、馬鹿な店子を持つと苦労が耐えん」
バカはどっちだと突っ込みたいが、ここはスルーも変だし、ゴマでもすっとくかな。
「店子への躾が素晴らしい。これならいくらでも待ってられる。では確かに取引終了ですね。今度お店の方に伺わせていただきます。大旦那様」
これっくらいでいいかなー。
満足して帰っていきました。
周りからも溜め息が聞こえたような気がする。
マイクが金貨を一生懸命拾っているところに、声をかける。
「もういいよ。マイク」
顔をあげるマイクの前で指パッチンして残りを回収する。
マイクの店に案内してもらった。
マイクの店の店内から奥へ入る。
接客間の様なところに通される。
円のテーブルが置いてある部屋だ。
ノックオンがして、1人の女性が飲み物を運んできた。
「白湯ですが」
「ありがとう」
「もういいから、下がってなさい」
「はい」
そう言うと、ゆっくり下がっていく女性が扉で一礼していった。
「スミマセン、お茶を切らしてて」
「それどころじゃないだろ。まーなんだ、順調に薬草の値段あげてるな」
「えー約束でしたから、あのー私どもの約束は?」
「あーそうか、冒険ギルドに全部用意してある。安心しろ、明日の午後一だろ、後でギルドに行って、念押ししてくるかな」
「是非ともお願いします」
「そうだ、聞きたいことがあった」
「なんです?」
「この街の東にダンジョンが在るだろ。何で活用しない。しちゃダメなのか?」
「東のダンジョンですか?確かあそこは、スライムしかいなく、しかも変な粉しか出さないときいてます。活用もなにもくずダンジョンとしかないという感じですが」
「フーン。じゃ聞くが、もし、麦がとれたらどうする?」
「麦ですか、喜んで取引させていただきます」
「果物は?」
「喉から手が出るほどほしいですね」
「大豆は?」
「喜んで、ってちょっと待ってください。ダンジョンで採れるんですか?」
「あー採れるよ。条件があるけどな。じゃ、お酒の取引は?許可とか納税とか有るんだろ?」
「許可は、承認ギルドに入っていれば何を売っても、特殊なもにでなければ大丈夫ですよ。冒険ギルドにも商人ギルドにも毎年納める額から税金は納められてますから。あー例外とは人身売買位ですかね。で、そのダンジョンの条件って何ですか?」
「最低限ほしいのは、採取というスキルだ。これがないと話にならない。後は、スライムを倒す程の力。出来れば釣りのスキルがほしい。これで材料は全て採れる。これらの3つの力で採れたものに加工や調理が出来るスキルがあれば可能性が増えていくのだがな。一番発揮されるのは採取だなぁ。誰か心当たりないか?」
「そんなことが、いやしかし今まで聞いたことが・・・」
「そりゃ知識の問題だろ。面白くなってきた。そりゃそうと、似たようなダンジョンがまだあったりするのか?」
「確か西の方に、城のすぐ後ろにと言っても街の外だが、あったような、詳しくは全然、ゴーレムが出るということ位しか」
「ゴーレム、鉱石でも採れるのか?」
「鉱石は鉱石でも、クズ鉱石しか出ないとか、普通の鉱石の10分の1しか価値ないとか言ってたな」
「いや、いい情報だ。ありがとう。今日はもう帰る。明日の午前中11時くらいにドラノ商店の店先で最後の芝居うってくれよ。薬草1本白金貨1枚以上にすること。いいな」
「わかった。では気を付けて」
そう言われて、店を出たのだった。
ちょっと早いが、ギルドに行って報告済ませちゃおうと思う。
ギルド。
受け付けに行くと、いつもの女性定員が居たので、声をかける。
「依頼終わったよ。どうすればいい?」
「あっジュンさん。わかりました。どのくらいの出来か相手が判断して報酬を受けとるので、そのあとの手続きとなります。今日遅くか、明日またお越しください。あっ後、伝言です。明日の件はしっかりやるから、よろしくとのことです。なんのことでしょう?」
「さー。返事は、明日はドラノ商店に行くからそっちは確実に頼んだ。と伝えてください。宜しく」
そう言って、ギルドを出ると、俺は駆け足で西のダンジョンに向かった。
何が出るかな、楽しみだ。
 




