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魔王、ボディーガードになる。  作者: どっかの人
一章 魔王、ボディガードになる。
8/21

7.魔王、理解不能に陥る。

ロスティクス伯爵家の入り口にて。



「・・・・・・何だよその服は」

「普通の服、だけど?」



結局、あの後俺はやることもなく、アリアからの『付き添ってくれたら今日の昼食、食べていってもいいけど』という誘いもあり、アリアの買い物に付き添うことにしたのだが、散々迷った挙げ句辿り着いた入り口には、別の服装に着替えているアリアが立っていた。傍らにはシアが付いており、こちらに鋭い視線を送っている。



今のアリアの服装は、先程よりも幾分か地味なもので生地も質は落ちているようだった。言ってしまえば、平民の服そのものと言えば良いだろうか。



「何故、そんな服を着てるんだ?」



単純に疑問を覚え、俺はそれを口にする。権力者というものは圧倒的強者であるべき存在で、わざわざ弱者である平民に合わせる理由が解らなかった。勿論、これがアリアのファッションというならば納得は一応いくが。しかし、それに答えたのはアリアではなく、シアの方だった。



「当然でしょう。アリア様はこのロスティクス伯爵家のご令嬢。そんな方がいつもの、貴族の服装で出歩いていれば多くの危険がその身に及びます。これは、その危険を防ぐための予防策に過ぎないのです」

「でも、平民の家にメイドなんているのか?」



シアは見る限り、いつものメイド服のままでアリアに付き添うようだった。平民に付き添うメイドなど、普通不自然に思われるのではないかと思ったからだ。



「メイドギルドでも、メイドのヘルパーが頼まれることはあります。別に、平民がメイドを付けていたところで、ヘルパーと思われるだけです。それより・・・・・・」



そこまで言って、シアは語気を強める。ついでに目を細める。



「・・・・・・何故彼が来ているのです?」

「私が誘ったのよ。買い物に付き合わないか、ってね」



納得できない様子のシアがこちらを睨み付けてくる。威圧的に組まれた腕と冷たい視線も相まって、まるで吹雪を体現したかのようだ。それに対して、アリアは素知らぬ素振りで答える。



シアの言わんとすることが分からないでもない。俺は突然拾われた、謂わば不審者なのだ。警戒されても仕方がない。況してや、アリアは伯爵令嬢。警戒の度合いは平民のそれとは一線を画するだろう。



と言うより・・・・・・。



「俺だって来たくて来た訳じゃねえよ。ただ、付き添ったら昼飯をご馳走してくれるって言うから・・・・・・だから、そんな怖い目を向けないでくれ」



肩を竦める俺の言葉に、シアの視線の温度はさらに下がっていく。え?俺変なこと言ったか?



「・・・・・・その言葉遣いはなんです?昨日も言った筈ですが、命の恩人に対して礼を失しているのでは?」

「おや・・・・・・?俺はアリアを呼び捨てにするほどの仲になったんだぜ?だったら、使用人のお前にだけ慇懃に応じるのは不適切と言えるんじゃないか?」

「・・・・・・む」



言い返す言葉が見つからないのか、シアはこちらを睨み付けながらも黙り込んでいる。すると、アリアは戸惑ったような、嬉しそうな表情でこんなことを言い始めた。



「私、そこまであなたと仲良くなった覚えはないんだけど・・・・・・」

「ぐふっ」



俺は膝から崩れ落ちる。何でだろうか・・・・・・太陽神の攻撃を受けたときよりもダメージが入った。体というより、心がきつい・・・!って、俺は何をしているんだ。急速に冷えていく思考のままに立ち上がり、特に意識もせずシアを見るとこっちから見なければ気づかれない程度の『ざまぁ』といった表情をしていた。顎を上げ、口の端はニヤついている。いや、どんだけ嬉しいんだよ。



「まあ、そういうことでナーギも付いてくるから。分かった?シア」

「・・・・・・わかりました」



渋々といった面持ちでシアは重々しく頷く。俺とシアの二人を連れ、アリアは屋敷の外に出た。



◇ ◇ ◇



時刻は午前の割りと早い時間帯だが、都市に点在する店はあらかた営業を開始しており、客と商人でここら一帯は賑わっていた。



「ナーギはもしかしたら初めてかもしれないけど、これがガルネクよ」

「へえ。結構活気がある町だな」



俺は回りを見渡し、感慨深そうに呟く。しかし、俺が驚いていたのは町ではなく、俺たちの回りを通りすぎていく人々の姿だった。普通の人間は勿論、獣の耳を生やした獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人、アリアと同じように小さいながらも悪魔の翼を生やしたり、下半身が蛇のラミアといった魔人までいる。これだけの異種族が共生しているこの場所が、俺には異常にしか感じなかった。屋敷からも見えてはいたけど、実際に見ると驚くな。



「じゃあ、早速買い物にいきましょうか」

「ああ」



アリアに連れられ、俺は人混みを縫って、歩いていく。俺の今の服装は、アリアと同じ平民の服だ。当然だが、アリアが平民の服を着ているのに、俺だけ貴族の服などを着れば不自然極まりないだろう。



そのままアリアに付いていくと、露店の立ち並ぶ街道ーーー露店街とでも言うべきだろうかーーーに、辿り着いた。アリアは買い物が楽しいのか知らないが、その足取りは軽やかで嬉しそうである。すると、アリアはとある露店に足を止めた。



「こんにちは。調子はどうかしら?」

「お!()()()()さんですか。いや~。いつもご贔屓にありがとうございます」



アリアが声を掛けると、露店の店主とおぼしき中年期の男性が嬉しそうに破顔する。



「アリシア?」




店主が呼んだアリアの名を俺が声に出すと、シアは俺の耳元で小声で呟いた。



「アリシアという名はアリア様がこの都市で貴族としての行動の縛りなく活動するための偽名です。わざわざ変装までしているのに、本名を明かせばその意味など無いようなものですし」

「でも、同じ名前の人とかいそうだが」

「アリア様の名と同名の人はいるでしょう。しかし、アリア様は魔人。魔人に限れば、アリアという名が示すのはアリア様しかいません」



つまり、アリアという名が魔人に限ればこのロスティクス伯爵家令嬢のアリアしかいないわけか。今のアリアはその悪魔の翼を隠していない。隠す必要もないのかもしれないが、本名を明かすことは難しいのだろう。



俺とシアのやり取りに気づいているのかいないのか、アリアは露店に並べられた野菜や果物を手に取り、次々と会計を済ませる。



「必要なものを買ってるだけよ。にしても、最近野菜が少し値上がりしてるわね」

「あー。取引先の生産量が落ちたみたいで、仕入れの値段が上がってるんですよ。ここらはどうしようもないですがねえ・・・・・・」

「まあ、仕方ないわね。はい。代金」

「毎度!」



その後も同じように肉屋、香辛料、ついでに甘味処にも寄っていき、アリアは買い物を次々と終わらせ、その頃には丁度昼時になっていた。



買い物の傍ら、アリアはその店の店主や店員と親しげに話しており、そのやり取りを見る限り彼らから相当に慕われていることがわかる。ただーーーー。



「シア」

「?はい」

「この街には、露店しか店がないのか?」



俺が気になったのは、アリアが露店にしか寄らない、店舗と言える場所に行かなかったことだ。露店とは、個人が道端に商品を並べて売る、謂わば屋台のようなもの。店舗とは商品を売る建物。露店と店舗では整備されている分、明らかに品揃えが段違いだろうし、普通であれば店舗の方に行く。だとすれば、そもそも店舗がない街なのではないかーーーー。普通に考えればありえないことだが、ここは異世界。あり得ないと断言できることではない。



しかし、シアは首を横に振って、



「いえ、ガルネクにも店舗、商業ギルドの経営する商店街のようなものがあります」

「じゃあ、なんでそっちに行かない?品揃えは段違いだろう?」

「・・・・・・曰く、『露店で買い物をする方が会話がある分、民衆の気持ちが分かる』とのことです。あの方は、社会的に弱い者達の気持ちが分かる、そんな支配者になりたいらしいですよ」

「・・・・・・」



理解が、出来ないな。



俺は前を歩くアリアを見つめ、ただそう思った。民衆とは、王に合わせるべき存在。王が民衆に合わせて何の意味があるのだろうか?ご機嫌取り?イメージ操作?いずれも、支配さえすればいいだけのこと。彼女は、アリアは既にここを支配しているのだろう?だったら、後は民衆が彼女に合わせれば良いだけのこと。何故、そんな面倒なことをしている?



民衆は押さえつけ、人間は消耗品として使い捨てる。そんな支配をしてきた、そんな支配が当然だった俺の目に、アリアは不可解な存在に映った。



そんな時だ。



「ふぇぇぇぇぇええん・・・・・・」



路地裏の方から、()()()()()子供の鳴き声が聞こえてきたのは。アリアは何故か、そこへ駆け出していた。

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