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魔王、ボディーガードになる。  作者: どっかの人
一章 魔王、ボディガードになる。
7/21

6.魔王、魔神級の妹に出会う。

「にしても、本当に広いな・・・・・・」



朝になり、朝食を食べた後、特にやることもなかった俺はこのロスティクス伯爵家の屋敷のなかをブラブラと当てもなく歩いていた。当てもないことは言うまでもない。何せ、俺はこの世界について、何も知らない。使われている硬貨も、栄えている文化も、魔法についても。



ポケットを漁って、硬貨を取り出し何となく見つめる。しかし、この硬貨は俺が彼方の世界で使っていたもの。しかし、この世界では恐らく使えないだろう。この世界に来て、異世界に来てしまったという俺の仮説は確信に変わりつつあった。



例えば、この窓から見える景色。屋敷は町の端に作られているらしく、ここからは町の全体が見渡せるようになっている。この町はかなり大きく、人間や、エルフ、ドワーフなどの亜人、そして魔人までもが共存して暮らしている。ここからでも、その光景は見てとれるが、未だに信じられない。俺の世界では有り得なかった光景だ。こんな光景が俺の世界にあれば、直ぐ気付き、滅ぼすだろうと俺は自信をもって言える。



そして、空の色。俺の世界では何処もかしこも、空は光をも吸い込みそうなほどに真っ黒だった。しかし、ここでは雲一つ無い青空が広がっている。流石にこれを見れば状況を飲まざるを得なかった。空は嘘を付かないのだ。



「さて・・・・・・これからどうするか」



何にせよ、ここでは彼方の金は使えない。となると、稼ぐ必要がある。つまり、仕事だ。しかし、何の当てもない、身寄りも無い俺が就ける職業などどれ程あるだろうか?



制度にも依るが、恐らくかなり少ない。しかも、足元を見られてべらぼうな賃金で働かされることになるだろう。



シアには『帰るもお礼を言うも好きにしてください』と言われたが、結局のところそれは『用が済んだらさっさと帰れ』と言われているようなものである。何より・・・・・・。



・・・・・・俺が、人間にために働く、だと・・・・・・?



人間は使い捨ての消耗品。その認識が変わることもないし、変えるつもりもない。だから、必要だとは分かっていながらも、俺は『人間のために働く』ということに一定の忌避感を抱いていた。



「っ・・・・・・くそっ、何で俺が人間なんかのために・・・・・・!」



押し寄せるのは激しい怒り。何故自分が人間などの元で働かなければならないのか。俺は支配する立場であり、支配される立場ではない。



しかし、今の状況が分からないほど、俺の目は曇ってもいなかった。ほっと息を吐き、落ち着きを取り戻す。するとーーーーー。



「っ!?」



後方からビリっとした嫌な気配を感じて、俺は咄嗟に横へステップを踏んだ。直後、当たれば悶絶して、一瞬で意識を刈り取るだろう図太く紅い閃光が先程まで俺が立っていた場所を通過し、前方奥の屋敷の壁に溶け込むように消えていく。



「あれ、今の避けたんだね」

「・・・・・・誰だ」



誰何して後ろを振り向くと、紅い閃光を腕に纏わせた少女の姿を視界に収めた。背中まで伸びたハニーブロンドに光る髪、頭にはアリアと同じくベレー帽を被っている。背丈は人間で言うところの14-15程で、その端正な顔付きで悪戯っぽく微笑んでいた。そして、背中にもまた、アリアと同じ悪魔の翼が生えている。



(・・・・・・っ)



何故だろう。彼女を視界に収めた瞬間、俺は強い動悸がした。足が震え、蛇に睨まれた蛙のように動けない。今すぐにでも逃げ出してしまいたいのに、逃げ出してしまえば全てが終わってしまうような気がして・・・・・・。



その感情を敢えて言い表すのならば。



…………恐怖、だろうか。



あの一撃による、危険への恐怖ではない。もっと、根本的な恐怖。本能的な恐怖だ。あの一撃は俺が対処できる力を優に超えていた。仮に俺があれを避けようとせず、受けに徹していたならば恐らく俺はこの世にはもういないだろう。つまり・・・・・・



この少女・・・・・・俺を遥かに越える力を内包している!『魔王』を超える力の存在・・・・・・『魔神』級の力・・・・・・!?



俺の中で、警鐘が鳴り響く。こいつは、敵に回しては行けない存在なのだと。



「こんにちは」



俺が振り向くと、彼女は開口一番、そう言った。腕に纏わせていた紅いスパークは、もう消えている。



「もう一度聞く、お前は誰だ」



俺は必死に平静を取り繕いながらも、目の前の少女に尋ねる。震える声が隠しきれない。なぜこんな奴がここに存在するのか、こいつが誰なのかを今は兎に角知りたかった。



「私?私はこのロスティクス伯爵家の次女。アリアお姉様の妹、ローレア=ロスティクスだよ。で、あなたは?」

「な、ナーギ、だ」



辛うじて答えることは出来たものの、内心俺は混乱の最中にあった。



まさか、あのアリアとか言う少女・・・・・・こんな化け物を抱えていたのか!?まさか、アイツもこれ程の力を・・・・・・?いや、しかしおかしい。アリアには目の前にいる少女、ローレア程の力があるようには思えなかった。何より、見た目だけとはいえ1悪魔がこのような力を持てるはずが・・・・・・!



「ナーギ・・・・・・変わった名前だね」



そう言ってくる少女の表情は無垢そのものだ。しかし、その紅い目の奥に何か得体の知れないものが垣間見えて、俺は視線を逸らしてしまう。それに気付いたのかーーーー。



「何か後ろめたいことでもあるのかな?だったら・・・・・・」



少女の表情から感情と言うものが抜け落ち、少女の腕に再び紅い閃光が走る。



「な・・・・・・が・・・・・・」



何が起きているのかを理解できず、俺は咄嗟に避けようとしたが、何故か体が動かない。次の攻撃を避けられる自信が俺には無かった。少女が手を翳す。俺は自分の体がバラバラに砕かれ、塵も残らない光景を幻視した。



ダメだ・・・・・・!間に合わない・・・・・・!



せめて目は逸らすまいと紅く光るその腕を睨み付ける。紅い閃光は最高潮に輝く、直後ーーーー。



「あら。ローレア、何してるの?」

「あ!お姉様!」



廊下の角からアリアが顔をだし、ローレアに声を掛ける。すると、ローレアは絶対零度の表情を一変させ、パッと明るい表情でアリアに駆け寄り、抱きついた。



俺は糸が切れたように尻から崩れ落ちた。



た、助かった・・・・・・のか・・・・・・?



少なくとも、ローレアからは俺を害そうという感情は見当たらない。年相応の笑顔を浮かべて、姉であるアリアに抱きつく姿は死にかけた俺からすれば不気味の一言に尽きた。



そうして、一息つく暇もなく・・・・・・。



「ナーギ?だったかしら、一緒に買い物にいかない?」

「は?」



突然、俺に気づいたアリアから付き添いに誘われたのだった。

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