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魔王、ボディーガードになる。  作者: どっかの人
一章 魔王、ボディガードになる。
6/21

5.魔王、会食する。

食事を始めてから暫くの間、俺とアリアはしばし談笑していた。ここの食事は薄味で、食材の味そのものを生かした料理が多く、魔王城では濃い味の料理を口にすることが多かった俺からすれば、違和感を感じる物であり、味をほとんど感じられず顔をしかめていた。



「薄い味だな・・・」



口からつい出たのがその言葉である。しかし、アリアは特に気にすることもなくむしろ何故か微笑ましそうに俺が料理を口につける様子を見ていた。そんな夕食は一時の間続き・・・



「ところで、貴方男?女?」

「は?」



突然、そんな話になった。なぜそうなるのか理解に苦しむ。俺は正真正銘の男だ。



しかし、アリアにふざけているような様子はない。悪魔の翼をパタパタとはためかせ、まるで空の色を聞く子供のように不思議そうな表情で聞いてきていた。



「男だよ、正真正銘の男だ」

「そうなの?何か、あなた中性的な顔してるから・・・女装でもさせたら似合うんじゃないかしら?」

「生憎と、俺にそんな趣味はないんでな」



悪戯っぽい表情で茶化すようにいってくるアリアに、真面目に返す。何が悲しくて魔王が人間の、しかも女性の格好をしなければならない。確かに俺の顔は中性的だとはよく言われる。それでも女と間違われるのは不名誉に過ぎた。



「そうか、男なのね。あー、女の子だったらなー」

「なんでだよ」

「私、同年代で友達がいないのよねー。女の子と女子トークがしてみたいのよ。こう、胸が弾むような」



胸に手を当てて、目を瞑るその姿を見ればどれだけアリアが友達というものを望んでいるのかが伝わってくる。成る程。つまり、アリアは・・・。



「要するにぼっちってことか」

「止めて、それだけは言わないで!」



涙目で俺の言葉から意識を遠ざけるように耳を塞ぎ、目を閉じるアリア。どうやら弱点はここの様だな。俺を女と見間違えたこと、そこに突っ込んだこと、後悔させてやる・・・!



調子に乗った俺は続けて繰り返した。



「それはそれは。寂しいよなあ・・・一人『ぼっち』で」

「う、うぅ・・・」



目尻に涙を浮かべながら首をブンブンと振るアリアを見て、俺の嗜虐心はさらに沸き上がる。もっと虐めてやってもいいが……最近退屈していたところだ。この少女で愉しむとするか。



「どんな気持ちだ? ねえねえ、どんな気持ちだ?友達が一人もいな・・・」

「それ以上お嬢様を侮辱するようなら今すぐに刺してあげましょうか?」

「うわっ!?」



さらに畳み掛けるように言葉を放とうとすると、肌が凍てつくような声音が後ろから聞こえて、ナイフが複数本飛んできた。動揺しつつも、椅子から飛び降り何とか避ける。見ると俺が先程まで座っていた椅子に、軽く十本は超える程度のナイフが突き立っていた。



こいつ・・・危ないな!死ぬぞ!?普通の人間なら軽く死ぬぞ!?少し苛めたくらいでナイフ投げます?



勿論、当たっても死ぬどころか傷一つすら与えられなかっただろうが、主人をバカにしたそれだけで人を殺せるこいつの価値観がおかしい。人間は同族を殺すことに忌避感を抱いていると聞いたことがあるが、俺の認識は間違っていたようだ。



驚愕した表情の俺を見て、アリアは苦笑しつつ言った。目尻には涙が残っていたが。



「別にいいわよ、シア。こんなに砕けた話し方をされたのも、バカにされたのも、随分と久しぶりのことだし・・・」

「も、もしかして、バカにされるとか、苛められるのがお好きで・・・」



今、一瞬俺はとんでもないことを言いかけたらしい。アリアはジト目でこちらを見つめ、シアに至ってはどこから取り出したのかナイフを抜きかけている。それも両手の指では数えきれないほどの数を。俺は慌てて開きかけた口を閉じた。



そのポケットに一体何本のナイフが入っているのだろう・・・いずれにせよ、俺には考えたくもないことだ。



「ぷっ・・・あはは」



すると、突然アリアが笑いだした。



「なんだ、情緒不安定なのか?」

「そんなんじゃないわよ。ただ、楽しいなあって」



楽しい?こんな不毛なやり取りが?



「お前の趣向は俺には合いそうにない」

「あら、分かってはくれないのね。だって、私これまで同年代の子達と殆ど話したり遊んだりしてこなかったのよ?皆『伯爵家のご令嬢』っていう私の肩書きに臆してばっかりで。あなたくらいよ。私をバカに出来る人なんて」



愉快そうに笑うアリアを見て、俺も似たような感覚を思い出す。そう言えば、俺の周りの奴等も、俺に対しては卑下するだけで友と言えるような奴はいなかったな・・・。



そう思いつつも、俺は素っ気なく返す。



「お前が呼び捨てで呼べって言ったんだろ」

「そうだけど・・・まさか、本当にそう呼ばれるなんてね。しかも・・・ぷぷっ、バカにしろーなんて、私は言った覚えはないわよ?」

「ただの馴れ合いだ」

「ふふっ・・・そう、まあいいわ。あなた、名前は?」

「・・・ナーギだよ」

「あら、変わった名前。ありがとう」



話が終わったところで丁度料理を食べ終わり、アリアは席を立った。未だに床に座っている俺を見て、愉快そうな表情で意味ありげに微笑むと、



「ご馳走さま。あなたも、さっさと食べて寝なさい?怪我人が夜更かししてると、体調悪くするわよー」



そう言って、シアと共に部屋を出ていく。部屋には、俺一人だけが残された。



「・・・馴れ合い・・・馴れ合いか」



俺が先程言った言葉を、脳に焼き付けるように繰り返す。そういえば、なぜ俺はあいつと馴れ馴れしいやり取りをしていた?少なくとも、以前の俺ではあり得ない。太陽神にやられて、丸くなったのだろうか?



・・・まあ、いいか。



適当な思考でベッドに入る。その日は、やけに眠りが深かった。

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