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魔王、ボディーガードになる。  作者: どっかの人
二章 対『傲慢の大罪姫』ガルネク防衛戦
18/21

3.魔王、絶句する。

「えっと……ここを右に曲がるんだっけか」



覚えたての屋敷のマップを脳内で思い出しつつ、俺は走っていた。目的地であるアリアの執務室は、確か奥の曲がり角を右に曲がったところだと思い出す。そして、右に曲がろうとしたのだが、



「はぁ……♡お嬢様お嬢様お嬢様ぁ……♡」



執務室の前から、アリアの名を連呼する甘い声が聞こえてきた。反射的に曲がるのをやめ、耳を澄ませる。その声は妄信的で暴走してしまえばアリアに危険が及びそうなほどに強い。侵入者か……?いや、しかし屋敷に侵入者が入ってきたという情報もないし気配もない。ということは、声の主は相当な実力者である可能性が…。



「ああ、アリア様ぁ…見目麗しいお姿、私の毎日のご褒美です…」



それもアリアに陶酔しているようだ。ここまでだと、アリアが危険かもしれない……。



「………っ!そうだ!」



そういえばここは執務室、アリアが近い場所だ。こいつが侵入者なら、いつアリアが襲われても仕方がない。いや、それかもう既にアリアは……?こいつの他に侵入者がいて、こいつはあくまで門番のような役なのか?執務室の中の気配を探る。



「【気配察知(シャドウサーチ)】」



小声で気配探査魔法を唱え、執務室の中の気配を探る。……うん、アリア以外の気配は感じられない。つまり、危険なのはこいつだけだ。アリアはまだ襲われてはいない。まだ間に合う。



「おい!お前……」



時期を見て、一気にそいつの前に飛び出す。俺に気づいたその侵入者も、驚いたような表情でこちらを見る。



「………」

「………」



その顔を見て、俺は絶句した。その侵入者は、熱に浮かされたように頬を赤らめ、息を荒げている、メイド服を着た少女…シアだった。



「……何してんだよお前」

「……変態」

「お前のことだろそれ」



俺が呆れたように視線を向けると、正気に戻ったシアが俺に非難するような視線を向けてくる。その発言は俺からすればひどくブーメランな言葉だったが、普段はクールなメイド長の意外…というより、衝撃的な一面を見てしまって、なんだかいたたまれない気持ちになってしまった。



「その…アリアには黙っててやるから、安心しろ?」

「潰しますよ?」

「なんで!?」



何と言葉をかけていいのか分からず、彼女を気遣った言葉を掛けたのだが、帰ってきた言葉はなんとも理不尽だった。じゃあ一体何と言葉を掛ければ良いのだろうか。こっちの気遣いだろうに。……だからナイフを構えないでくれます?



「……お嬢様には、黙っていてくれますか?」



ナイフを下げ、顔を俯かせたシアが恐る恐るといた様に俺に行ってくる。よく見れば、その顔は赤くなっていた。おや…。



「意外とかわいいところもあるじゃないか」

「キモイ」

「ヒドイ」



敬語も忘れて速攻でそう返してくるシア。先ほどの顔の赤らみも消え、今は凄く嫌な顔をされている。特殊な性癖の人物からすればご褒美なのだろうが…生憎俺にそんな趣味はない。



シアは気を取り直すように咳払いをして、



「お嬢様がお呼びです」



と言って、足早に立ち去った。まあ、見られて気持ちの良いものではなかっただろう。しかし、立ち止まって振り返り



「もしもこのことをお嬢様に話したら…分かっていますね?」



と、念を押すことを忘れなかった。



――――――――――



アリアのいるであろう執務室についた俺は、コンコンとドアをノックする。



「アリアー、入るぞー?」



一応声を掛けてみるが、ドアの向こう側からは何の反応もない。……あれ。おかしいな…?確かに室内にはアリアの気配がある。しかし、何の反応もないのはどういう事だろうか。何か嫌な予感を感じながら、俺はドアを開けた。



「……っ!?」



執務室に入ると、思わず息を飲む。俺の視線の先では、アリアが机に突っ伏していた。



まるで、死んでいるかのように。



「えっ!?ええっ!?ちょ…ちょっと待て!?」



さっきローレアにアリアをボディーガードを頼まれた手前、勝手に死なれたらやばいぞ!?てか、なんでこんなことになってんだよ!?



慌ててアリアの近くに駆け寄って、容態を確認する。目立つような外傷はない。次に、毒物を盛られた可能性を考慮して周囲を確認する。しかし、毒が盛られているようなものは何も見当たらなかった。原因不明。この状況に出くわしてただでさえ混乱していた俺の思考はさらに渦巻いて冷静な思考がままならなくなる。



どう、どうすれば…?ととと取り敢えず、誰かに見つからないようなところに運ぼう誰かに見つかったら、特にローレアに見つかったらやばい俺が殺される。そ、蘇生魔法でもかけるべきか?



と、俺が秘術である蘇生魔法の使用まで考えていると、



「………むにゃ・・・・・・」



…どこからか、寝息のような何かが聞こえてきた。いや、ようなではない。これは寝息だ。そして、その主は…。



混乱していた思考が一気に冷えていく。顔からあらゆる感情が抜け落ちて真顔になっているのが俺でもわかった。続いて、湧き出てくる感情があった。



にっこりと笑い、アリアの髪に手を這わせる。



「………ん……ぅ……」



頭を撫でられたアリアが、気持ちよさそうに目を細めた。うん、とても気持ちがよさそうだ。俺は微笑ましそうにその寝顔を見る。その美しい容姿も相まって、人間の少年からすれば今のアリアの破壊力は相当なものだろう。人間の少年ならば、理性を飛ばして襲い掛かっても仕方がない。



そして……俺はアリアの髪に這わせた手を離し、もう一方の手の中指を曲げて、アリアの額に構えた。デコピンである。安心しきったその顔に、強烈なものを食らわせてやろう。構えたデコピンに魔力を注いで強化し、そして俺はすぅと息を吸った。



「心配させてんじゃねえよ、このポンコツお嬢様があぁぁぁああああ!!!」

「誰がポンコツですってぇぇぇぇえええええ!!……あわわわわわっ」



起きてたのかよ!!!



アリアがバッと起き上がると、俺の渾身のデコピンは虚しく空を切る。だが、アリアの方は起き上がる勢いが強すぎたがためか、そのまま椅子ごとひっくり返った。



「痛っ!?」



後頭部をモロに床に打ち付け、頭を抱えて震え悶絶し始めたアリア。しかし、俺がいる手前みっともないところは見せたくないのか、すぐに立ち上がりこちらを睨み付けてくる。だが、先ほどの痛みが治まらないのか涙目になっているので迫力は皆無だ。



「で、誰がポンコツですって?」

「お前のことだよ」

「私、ポンコツって言われるほど貴方みたいに怠けてはいないと思うのだけれど」

「別に俺はお前の政務のことを言ってるわけじゃなく…ん、今なんて言った?」



今すごくひどいことを聞いた気がする。俺だって、この三日間遊んでいたわけじゃないぞ。毎朝は訓練を欠かさず、三食しっかりと食べ、それ以外は健康的な睡眠をとっている。……遊んではいないから、セーフだ。



「ふふ、そんなあなたに朗報よ」

「シアから話は聞いてる。国境に顔を出すんだろ?」

「あれ…私、シアにそんなこと言った覚えないんだけど」

「お前に隠れて聞いてたんじゃね?」

「それはそれで怖いわね…」



実際、シアならばあり得る話である。



「まあ、話が分かっているなら話が早いわ。あなたのボディーガードの初仕事。私についてきてくれる?」

「ああ、もちろん付いていくけど。一体何のために行くんだ?」

「隣国の動向が少し怪しいから、いざという時に備えるため。やっぱり、こういう時に視察に行っとかないと、一応領主として示しがつかないのよ。隣国ゼブライナ公国については知っているわよね?」

「いや、全く知らん」

「そういえば、あなたの出身とか全く聞いてなかったわね……私」

「俺が言うのもなんだけど、不用心すぎないか?」

「いや、それ本当にあなたが言う事…?」



とはいえ、出身地について答えろ、と言われても答えようがないけどな。異世界から来ました!とか、言えるわけない。頭のおかしいやつだと思われて終わりだ。



「お前も、よく俺みたいなのを雇おうって思ったよなぁ。もう一度言うけど、俺は完全な不審者だったんだぜ?」

「確かにこの前まではそうだったかもしれないけど、今は違うでしょ?昔のことは昔のこと。実際、今の現状は違うわけでしょ?これでも、私あなたのことを結構信頼してるのよ?」

「はいはい」



適当にアリアの言葉をあしらう…がこいつなら本当のことを言ってるんだろうな、と苦笑する。出会って二日で俺をボディーガードに雇うような奴だ。一定の信頼はしているんだろうと思う。正直言って、信頼されるというのは慣れていない。



と言うか…この短い時間で、シアの意外な一面を見て、アリアが死んだかと思った。かなり驚かされたな。



その後も他愛もない会話を繰り広げて…俺とアリアは執務室を出た。

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