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魔王、ボディーガードになる。  作者: どっかの人
二章 対『傲慢の大罪姫』ガルネク防衛戦
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二章プロローグ『姫騎士、父に怒る。そして···』

ここでつまらない話をしましょう。・・・・・・ああ、勿論聞きたくなければ構いません。あなたにとってはあまり関係のない、言ってしまえば歴史の授業のようなものですから。



今から約一年前、チャルチアーク王国とその隣国、ゼブライナ公国で全面戦争が勃発しました。それは知っていますね?



きっかけは国境付近で起きた爆発的な神霊術の奔流。王国は多数の神霊兵器を保有しており、それがどうやら王国側の攻撃なのではないかと国境付近の公国軍が勘違いしてしまったようです。



結果、公国の将校の独断行動によって王国側は攻撃を受け、国の判断も待てぬまま戦争は始まってしまいました。国の上層部は慌てたようですが、始まってしまった戦争を放棄することはそう簡単ではありません。



序盤は王国が有利に戦線を進めました。その要因は当時の宮廷神霊術師第一位、ニコラ=イグナティウス。王国の神霊術師史上最高の天才と言われる彼女の登場により、公国軍は苦戦、最前線からの撤退を余儀なくされました。襲い来る上級中位の神霊術の嵐。持ちこたえるのは容易ではなかったでしょうね。



中級中位の神霊術ですら使うことが出来れば一流と評され、使えても相応の神霊力を使います。普通、上級の神霊術なんて人が使えていいものではありません。古代の神霊具ならばあるいは込められているかもしれませんが、それでも使えば保有する神霊力を超過して吸いとられ、一発でお陀仏です。まあ、彼女の神霊力があってこそ出来た力業ですね。



公国側にも、彼女に対抗できる戦力がいないわけではありませんでした。



しかし、彼女達―――――――『大罪姫』と称される我が国の王女七人、もとい、最高戦力達は一人を除いて自分達がお互いに離れることを良しとしません。



よって、彼女達は七人で一戦力として扱うしかありませんでした。七人別々に動かせるのならば戦力的にもまた違ったのでしょうが、七人は共に行動していたがために最前線にかなり遅れて来たようです。



そしてその時には、公国は王国に領土の四分の一を奪われていました。



しかし、公国の上層部はそれを手遅れだとは思っていませんでした。いえ、むしろ()()()()()()()()()()()()()()()



『大罪姫』が最前線に投入された戦争中盤。戦況は大きく動きました。



常人を大きく超えた身体スペックと、それぞれの『大罪姫』の持つ剣術、弓術、槍術、召喚術、神霊術、幻術、治癒術の飛び抜けた才能。



普通、王女達が自ら前に出て戦うことはあり得ないことです。しかし、それだけの力が彼女達にはありました。



加えて、戦線を拡大していたイグナティウスが離脱していたことも大きかったのでしょう。王国の勝利を半ば確信していた王国軍は突如現れた公国の最高戦力に動揺し、甚大な被害を受けました。



これでは最前線の王国軍は全滅も必至―――――――誰もがそう思いました。



しかし、『大罪姫』を抑え、兵士を救い、公国の領土復帰を防いだ者がいました。



王国の最高戦力――――――――『霊剣』の使い手、王国騎士団長であるダンテ=エンリフールです。彼は他の兵達を下げ、単騎で『大罪姫』七人に戦いを挑みました。



結果――――――――――彼は見事に『大罪姫』達を撤退に追い込み、公国から奪った王国の領土を守り、兵士の犠牲も最小限に抑えたようです。



王国最高戦力である彼の、犠牲を対価に。



それから間もなく王国と公国は休戦協定を結び、戦争は一時終結しました。



しかし、『霊剣』の使い手である騎士団長は死亡、元宮廷神霊術師第一位だったイグナティウスは行方をくらまし、今は別の神霊術師が宮廷神霊術師第一位の看板を背負っています。



つまり、王国は国内最強の騎士と、史上天才の神霊術師を失っているのです。今王国が攻められれば、先の戦争のようにはいかないでしょう。



それを···公国の一部の者はどう思っているのでしょうね?



◇ ◇ ◇



「父上!一体どういうつもりだ!」



ゼブライナ公国国王、ハーバルト=ゼブライナの執務室。突如、扉が勢いよく開け放たれ、可憐な少女が現れる。



シニヨンに結ばれた薔薇のような赤い髪、やや高めの身長の体躯を白銀の鎧で包んでいる。年齢は18-19程で、その端正な顔は憤怒に彩られていた。



しかし、その端正な顔とは似つかわしくない大きな声は普段から静かな執務室には些か大きすぎる。しかし、政務書に目を通していた現国王ハーバルトはさして驚いた様子も見せず、顔も上げずに応対した。



「どういうつもりだ、ということはどういうことだ?」

「先の戦争で王国の主力も大きく削れた。最近は貴族の誘拐も起こっているらしい。今をおいて開戦する好機は無いだろう、なぜ手をこまねいているだけなのだ!」



眉を吊り上げて声を荒げるその少女の形相は並大抵の精神では恐れを免れないだろう。しかし、ハーバルトはあくまでも冷静に言葉を返した。



「奪われた領土の分、国内の生産が追い付いていない。まずはこれを安定されることを優先すべきだ」

「そんなもの、王国から奪った土地を使えばいい!」

「そんな上手くはいかぬよ。もし今開戦して、我が国の領土を少しでも奪われてみろ。そうなったらただでさえギリギリの我が国は滅亡だ」

「·········ちぃっ!」



理論立てて話すハーバルトとはやりにくいのか、舌打ちをして少女は執務室を出る。



執務室に一人残されたハーバルトは焼き直しのように政務書を眺め始めた。



「······まだ、若いな」



◇ ◇ ◇



「糞っ!父上め···!今をおいて王国を攻める機会はないと言うのに···!」

「まあ落ち着きましょうよ、ゼノビア」

「······っ!」

「おお、怖い怖い」



執務室を出た後、ゼノビアと呼ばれた少女は付き添っていた少女を睨み付ける。視線を受けた少女は手をヒラヒラさせてそれを適当にあしらった。



「大体、お父様のいうことが正しいと思うけど。あなたは考えないでしょうけど、公国は今割りと真面目に危ない状況なのよ?」

「そんなもの、王国から奪えばいい!」

「お父様に言ったことと同じことを言ってるわね···」



額に手を当て、困ったように首を降る少女。



「まあ、今暇なのあなたぐらいだしね。私も金属を運ばせなきゃいけないし」

「全く、お前らも、父上も、何故あの男を信用しているのだ···!」

「······まあ、立場的に、ね」



ゼノビアはある男を思いだし、不愉快そうに顔を歪める。それを見て、少女は意味ありげに微笑んだ。



「あ、良いこと思い付いたわ」

「なんだ?」



「あなたが王国に行けば良いんじゃない?」



何やら思い付いた少女は無茶としか言えないことをゼノビアに提案する。それはつまり、ゼノビアという一人の少女だけで王国に侵攻するという提案だった。端から聞けば、妄言としか思えない提案。しかし、ゼノビアという少女は――――――――。



「······いいな、それ」



簡単に、頷いて見せた。そしてそれは冗談などではない。



「よし!私が行こう。目指すはガルネクだ!あそこは資源が豊富にある。攻め落とせば公国にとって大きな利益になるし、父上も私の提案を聞いてくれるだろう!」

「一応軍は連れていきなさいよ···って、もう行っちゃったわね。まあ、何人かは勝手に付いていくでしょう」



張り切って廊下を駆けていくゼノビアはもう見えなかった。彼女が駆けていった廊下を眺めて、その少女は一層笑みを深める。



「せいぜい頑張りなさいよ···『傲慢の大罪姫』」



公国最高戦力の一人『傲慢の大罪姫』、ゼノビアが率いるガルネク侵攻軍が出発したのはそれから間もない後だった。

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