オートマタ出現
静かな森の中に突然響き渡った爆発音に鳥達が驚きの鳴き声を上げながら飛び立っていく。 しかし、騒ぎ出したのは鳥達だけではなかった。
小屋の扉が勢いよく開い方かと思うと二人の男が跳び出した。
「な、何だいったい!!」
「こんな森の中で爆発だと!?」
武器も持たずに慌てふためく男達に「魔法だよ!」と答えると同時に、小屋の影に隠れていたアストが跳び出し剣を振る、二回の鈍い音の後に男達はうめき声をあげて崩れ落ちる。
「いきなりの事とはいえ武器も持たずなんて迂闊な……む?」
遅れて出て来た六人の男達はアストに気が付くとすぐさま武器を構え、そのうちの一人が「なんだてめぇっ!」と威嚇の声を出した。
「アスト・レイっ!!」
名乗ると同時に地を蹴れば、盗賊達もロングソードを持った一人を残してアストに向かって行く。 数で上回る大人達にも怯むことなく落ち着いた様子で剣を振るうアストの動きは見事で、あっという間に五人の大人を倒してしまった。
「アストってすごいねぇ……」
エターナが感心したという声を出す、盗賊達を誘き出す為に最初に《エクスプロージョン》を使った後は何もする必要もなくずっと観戦していた。
「……一人も殺すことなく峰打ちで無力化とは……たいしたものです」
未熟者には出来ない芸当である、確か修行の旅と言っていたが、そんな必要もない技量だとアインには見えた。
「後はあんただけか?」
開いた扉の前で呆然となる男を見据えて問うが、いるならとっくに出てきているだろうからそうだろうとは思ってる。
「てめぇ……」
青年剣士を睨み付ける盗賊リーダーは、「……って言うか、もう勝ち目ないんだし降参したら?」という少女の声にギョッとなって視線を動かせば、そこには昨日襲撃した銀髪の少女が歩いて来るのを見つけた。
「おいおい! 何でてめぇがまたやって来るんだよ!?」
「あんたを捕まえてお金を貰うためだよ?」
そう言ったエターナの顔は、親の手伝いをしてお小遣いを貰おうという子供のそれだった。 そしてそれは見かけだけではなく、エターナにとって仕事とはまだそのようなものの延長線上にあるものという感覚だった。
「あの村の連中かよ……くっ! ちょっとそこで待ってろっ!!」
一方的に言うとリーダーは回れ右して小屋の中へと走って戻った。
「……は?」
「ほへ……?」
いきなりの事にアストとエターナにはすぐに追いかけるという発想が浮かばなかった。 アインも「別に律儀に待たなくてもいんですよ……」と言ってみながらも、どうせ悪あがきに過ぎないだろうと考えていた。
それから一分程して出て来たリーダーは、先程とは打って変わって自信に満ちた不敵な表情を浮かべていた。
「くっくっくっく。 まさかこんな物を使う羽目になるとはな……」
リーダーが前に出した右手にはガラスのような物で作られた球体が握られていた、直径十センチ程度の大きさで不気味な赤い光を放っている。
「あれは……?」
「分かんないけど……禍々しい力だよアスト……」
その時、球体から眩い光が放たれエターナ達は思わず顔を手で覆った、そして光が収まって手をどけた時、そこに新たに表れたヒトの姿があった。
いや、二メートルはある金属で覆われた身体は確かに鎧に身を包んだ騎士か何かに見えない事はない。 しかし、両手の先にあるのは五本の指ではなく三本の鋭そうな爪であり、頭部のそれは兜かどうかも不明だが、スリット部分の奥に見えるのは二つの目ではなく不気味なピンクの光を放つ一つ目は、明らかに人間のものではない。
驚くエターナ達に「驚いたか! こいつはオートマタだっ!!」と勝ち誇ったように大きな声を出すリーダー。
「オートマタ?」
「……って何だっけ?」
二人共聞き覚えはある気はするのだが思い出せない。
「オートマタ……古代文明の負の遺産……盗賊風情が持っているとは……」
かつて存在した文明は今よりも遥かに高い技術を要していた、オートマタはその当時の戦闘兵器である。 いくつかのタイプが確認されていて性能もピンキリらしいが、性能の低いものでも並みの騎士数人分の戦力はあるらしいというのがアインの知識であった。
遺跡から発掘されることもあるが発見された場合は国への報告が法律で決められていてほとんどの場合は国の管理下に置かれ、研究材料とされるなり危険とみなされれば破壊される。
しかし、そこは所詮は人間のやる事、邪な考えの人間もいれば遺跡荒らしのような連中が偶然で見つけてしまう事もごく稀にないでもなく、徹底されてるとは言い難いのが現実である。
「簡単に言うと大昔のカラクリ人形です、生き物ではないので遠慮はいりません!」
呑気に説明している場合ではないのでアインはそれだけ言った。
「はん! やってみな!」
その言葉を合図にオートマタが動き出した、重そうな外見に反して素早い動きで接近するとアストを狙って腕を振り上げ、何の迷いも躊躇いもなく振り下ろす。
それを横に跳んで回避したアストは、近くで見れば余計に鋭そうな爪に「喰らったらまずいか……」と不安げに呟く。 しかし次の瞬間には「それでもっ!!」とオートマタのわき腹目掛け斬り掛かる。
アストの思い切りの良い動きにオートマタは反応できず甲高い金属音を響かせたが、斬り付けた場所には傷ひとつ付かなかった。
「ち! 硬い……」
「エターナ魔法で!」
アインが叫んだが、エターナは「無理っ!」と間髪入れずに返した。
「何でです!?」
「ここで下手に魔法使ったら倒れてる人達も巻き込んじゃうってっ!!」
言いながらエターナル・ピコハンを出現させると構え接近戦を挑もうとしているのに、「この状況で気にする事ですか!?」と呆れた顔をアインはする。 確かにオートマタとアストの近くには気絶し無防備状態の盗賊たりが倒れていて、頑丈なオートマタを倒そうとするくらいの魔法を受けたら死亡する可能性は高い。
しかし、善良な一般市民ならともかく盗賊である、もちろん悪党だから死んでもいいわけではないがそれでも時と場合によるだろう。
直後に「……く! 止まれ!」という言葉と共にオートマタの動きが止まったのは、リーダーもエターナの言葉で味方を巻き込む可能性に思い至ったからである。 追い詰められたとはいえ仲間を犠牲に出来る程に、この男も悪人ではなかった。
「……相手の方がこっちに気を遣うってか……」
面白くなさそうに吐き捨ててからオートマタをエターナへと向けたのは、位置的に仲間を巻き込まずに済むと判断したからである。
「上等っ!」
「子供が勝てる相手じゃねえぞっ!」
この時アストがリーダーの男を直接攻撃出来るチャンスではあったが、エターナの危険という事に意識がいってしまい、それをするという発想が浮かばずにオートマタを追った。
「エターナ!」
「アインは下がって!」
「またそういう無茶をしようとして!」
赤いハンマー部分に白い淡い光を纏わせたエターナル・ピコハンで中段の構えを取りつつオートマタへと向かって行く。 オートマタもそれを認識したようで赤い一つ目で獲物の少女を見据えながら右腕を振り上げた。
「……そこっ!!」
オートマタの攻撃が来ると直感的に感じたタイミングでエターナル・ピコハンを振るうと、そこへ爪を備えた鋼の腕もまた振るわれる。 その両者が衝突した刹那、ピコハンの淡い光は眩しい輝きへと形を変えて一気に広がった。
その中で響くピコハンの可愛らしい音は、ワンテンポ遅れた金属の破壊音に打ち消される。
「砕けたっ!? 千切れたってっ!?」
更に響く盗賊リーダーの驚愕の叫び、だが驚いたのは彼だけではない。 アストも自分の目に映る光景が信じられない、少女を斬り裂こうとした三本の爪を砕かれ、更に衝撃でひしゃげた右腕の肘から先が千切れ宙を舞ったのだから。
「どういう冗談だよ!? 馬鹿力で砕ける代物じゃないはずだぞっ!!?」
「エターナ・インパクトっ!!」
「何っ!?」
エターナは大きく後ろに跳び間合いを開くのは、残った左腕での攻撃を警戒したからだが、オートマタは自分の動きをピンク一つ目で追っただけだ。
「おりょりょ? やり返してこないんだ……」
拍子抜けしながらも再びマナを集め始め、創り上げた魔法をエターナル・ピコハンの込めるまでは数秒を要した。
エターナ・インパクトはエターナル・ピコハンの能力にエターナの衝撃魔法を上乗せした、原理的には一種の魔法剣である。 エターナル・ピコハンが増幅器の役目でもするのか自分で撃つより格段に破壊力がアップするのである。
「……って! まだだぁあああああっ!」
攻撃を指示であろう使い手の声に反応したオートマタが残った左腕を振るおうとした瞬間、背後から接敵したアストの一閃がそれを切断した。 やはり肘から下が、今度は大地へと落下した。
「……流石に関節なら斬れるか!」
「馬鹿なっ!? どうなってるんだよっ!?」
リーダーの知識にあるオートマタはこんな子供に簡単に負ける代物ではないはずだったが、その認識が間違っていてオートマタとは見掛け倒しのものなのかという疑念が頭を過る。
だから、「……アスト君もやはり只者ではないですね」というアインの感心した声は聞こえてなどいなかった。
「トドメいっくよ~~~!!」
ピコハンを握りしめた両手を大きく振り上げ跳躍し、そしてオートマタの横顔にめがけて力いっぱい叩きつける。 先ほどと同じように眩い閃光の中、兜めいた形状の頭がひしゃげてもげ、大地に転げ落ちた。
着地したエターナはピコハンを構え直し頭と両手を失った哀れな鋼鉄人形を見つめていたが、すぐに糸の切れたマリオネットめいて仰向けに倒れたのに、安堵の息と共にそれを降ろした。
「うっしゃ~~♪」
「まったく……すごい女の子だね、君は……」
喜びの声を上がるエターナと、そんな少女を心底感心したという風にアストが声を掛けているのを見上げていたアインがいきなり駆け出した、その先にはこの隙に逃亡しようとしたリーダーがいた。
駆けるアインの前に炎の矢が現れ、次の瞬間にはそれが高速で放たる。 その火矢はリーダーの足元で爆ぜ、彼は「……うおっ!?」と足を止めてしまう。
それはあくまで足止め目的と森を火事にしないためにかなり威力を抑えた《ファイア・アロー》の魔法だ、魔法はマナを集める加減で威力はある程度の範囲でコントロール出来る。
相手の動きが止まった隙に一気に駆け前に回り込んだアインは、その紅い瞳で睨み付けると「次は本気でいきますよ?」と凄みを効かせた声を出す。
「……猫が魔法かよ……どうなってやがる……」
「世界は広い、私みたいな猫だっているという事です」
どういう理屈だよと思いながらも、確かにそういうものかもなと納得しもするリーダーは、流石にこれ以上悪あがきをする気も失せていた。
「やれやれ……降参するよ」
背後に魔法使いの少女と青年剣士がやって来た足音を聞きながら、リーダーは両手を上げたのであった。




