旅の少女と黒猫
「はむはむはむ~~♪」
道端の手頃な岩に腰かけている少女が、おにぎりを美味しそうに頬張っていた。
年齢は十代半ばくらいであろうか、腰くらいまで伸びた長い銀髪の天辺にアンテナめいて立つ毛が特長的である。 水色を基調とした半袖の服、スカートの丈は短いが黒いスパッツを身に付けているとこから活動的な女の子に思える
「……ん? どうしたのアイン?」
少女がその蒼い瞳で見たのは、彼女とは対照的な紅い瞳を持った黒猫だが、発せられる「……いえ」という声は大人の女性のものに聞える。
「……何でもないですよエターナ……」
エターナと呼ばれた少女はしばらく不思議そうにアインを見つめてたが、やがてすでに三分の一の大きさになっていたおにぎりを一気に平らげると、「さてと、どっちに行こうか?」と立ち上がった。
振り返ったエターナの前には二つに分かれた道がある、立札のようなものなくどっちがどこへ続いているのかは分からない。 とりあえずの目的は町なり村なりへたどり着ければいいのであるが、どこか変な場所へ通じている可能性もあるので別にどっちでもいいとも言えない。
「私に言われても困ります……」
「だよねぇ……」
苦笑しながらアインに答えた後に何気なく足元を見下ろしたエターナは、そこに一枚のコインが落ちているのに気が付き拾ってみる。 それはこの国の通貨ではあるが、もっとも価値の低い硬貨でもあった。
「ちょうどいいや~」
エターナはコインを握りしめ、それから天へと放り投げた。 アインは彼女の行動の意味が分からないままそれを見上げ、コインが反射させた太陽の光の眩しさに目を細めた。
地面に落ち弾けたコインは僅かな距離を転がりってから倒れ動きを止めた。
それを見届けたエターナが「うん、じゃー右に行こう~!」と言うのに、アインはようやく理解出来た。
「まったく、あなたはまたそんな適当な決め方をする……」
呆れと諦めの混じった溜息を吐くアインにエターナは無邪気な笑顔を見せ、「いいじゃん? どーせどっかには辿り着くんだしさ」と気軽な口調で言うと、地面に置いてあったリュックを持ち上げて背負った。
いかにも女の子の物らしいピンク色のこのリュックは、旅に出る際に育ての親であり師匠である人から贈られたものだ。
「……そりゃ……どっかには行けるでしょうねぇ……」
アインは青空に表の面を向けてたままのコインを見やってから、さっさと歩き出した少女の後を追った。




