タイタン道中膝栗毛Ⅱ
なんとも静かな宇宙船「TB-Sα」で、宇宙ではよくある日常会話が聞こえてくる。
強く鋭い床で、広く敷き詰められている、家でいうリビングの部分。
ソファーで長くもない髪をとかしながら、テレビを見て馬鹿笑いするマーシェル。非常に陽気な人間である。
そしてどうやら、テレビは地球からの衛星放送で繋がるようになっている。土星までが放送の対象距離内で、娯楽ができ喜んでいるのが見て取れるだろう。
彼女とは裏腹に、真剣なまなざしで髪の毛がさらさらと滝のようにして、遠くの木星をじっと見ているルーカス。
本来、到達する目標は土星の衛星だが、この宇宙船。なぜか進みが遅いのである。その証拠として、進行方向側を覗くと、ぽつり小さな木星がだんだんと大きくなっていくのが見て取れる。
それと、あと一人。この宇宙船にとって欠かせない人。ファット。吹き抜けの階段をこつこつ上がるとある、大きな窓からの登場。
AIによるとまだここは旅の中間地点らしい。そして彼もその事実を知り、この宇宙船の遅さに絶望すると、怒りを表にまっぴら出して顔を熱くした。
「ファットさん。あなたその顔の熱を宇宙船の燃料にしたらどう? そしたらタイタンまでひとっとびよ」
相変わらず、毒を吐く口を持つルーカス。彼に呆れを通り越してもう、バカにしていることだってある。
少しまだ怒り残っているらしく息がはっはと荒れているが、ファットは展望台の大きな窓を覗く。
「しかし、もうすぐ半分ではないか。せっかくの宇宙を楽しんで行こうじゃないか」
「言ってることがめちゃくちゃですね」
間髪を入れずに、ルーカスのツッコミが炸裂した。もう手に負えなさそうで、本当に困っているようだ。
そんなこともおかまいなしに、ファットはマーシェルが書いた「過去」へのメッセージの続きを見る。
過去の学生へ送るメッセージのことだ。2300年ともなれば、過去へ物を送ることなんて簡単なのである。
昔の人にとって、その贈り物は未来からと認知されずに、ただそこにあったものとして通常に処理される。
そうおもえば、人間は仮想上の世界で生きていたりするのか?と疑問に思うこともある。
ファットは、さっき読んだところまでを探し続きをじっくり見る。
「【あなたたちのの問題を、この時代というボーナスで解決します】......うまいこと書けてるな」
ファットの感情がまた、緩やかになった。
「【と、言いたいところですが............私は、私は............】......ん?なんだこれ」
次の文字に目をやると
「【クソ政府のクソ命令です!私は旅行だけをしに来たんだよバカ!アホ!】」
「............ゑ?」