↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/112

81話 剣聖のご登場

「邪魔だ三下」


 心底つまらなそうにこちらに冷めた視線を送る黒い片手剣の持ち主、レイボルト=ギルギオンはそう言うと体に大量の魔力を纏い始める。


「お、おい! 何をするつもりだよ!?」


 突然現れた今回の旅の目的の一つである本人に出会えたというのに喜びは全くなく戸惑いしかない。


「何ってこの雑魚共を殺すんだよ。近くにいるとお前たちも死ぬよ?」


 こちらの質問にダルそうに応えるとさらに体に纏う魔力の量を増やす。


「殺すって……。いや、それはいいけど! もっと周りに配慮するとか出来ないのか!? 初めに戦ってたのは俺たちだ、それをいきなり来て大技打っ放す気か!?」


 突然乱入したのはまだいいとして、周りのことを考えず大量の魔力を使った技を使うのは頂けない。


「は? そんなの知らないよ……」


 しかし、レイボルトはこちらの言葉に聞く耳持たず呆れた声を出して一気に魔力を解放する。


「クソっ……みんな逃げろ!!」


 声を張り上げアリア達にそう言うと、すぐさまその場を離脱する。


「ものすごい魔力……!」


「いきなりご登場!?」


「剣聖……」


「今はにげましょう!」


 俺の叫びにすぐさま反応してアリア達はその場から離脱しレイボルトから距離を取る。


 瞬間、平原一帯が冷気に包まれる。

 レイボルトは着地した場所から一歩も動かずただその冷めた瞳を俺から魔物に替えたのみ。


「死滅しろ、屑ども」


 小さくそう言うと辺りの草木が完全に凍るほどの魔力で空気をさらに凍てつかせ、剣聖は剣を地面に突刺す。


 それが合図かのように剣が地面に突き刺さるとレイボルトの周りを取り囲んでいたまだ数千弱いる魔物達は全て一匹残らず白い彫刻のように動きを止めて、次に爆散して消え去る。

 それはほんの一瞬の出来事。あのままあそこにいれば自分たちも魔物達と同じようになっていたであろう。


「はあ……せめて一匹ぐらいは骨のあるやつがいると思ったんだけどな……」


 全ての魔物を殲滅したことをレイボルトはつまらなそうに確認すると黒い剣を鞘に収め、門の方まで戻ろうとする。


「あ、ちょっと待てよ!」


「……」


 色々と話さなければいけないことがあるので呼び止めようと声を掛けるが、レイボルトはこちらの呼び掛けに少し足を止めると再び歩きだしガン無視を決めてくる。


「いや止まってくれよ……」


 あからさまな態度に少し苛立ちを覚えながらこの場は諦めることにする。


 どうせ暫くはマーディアルにいるのだ、あっちが嫌でも無理やり話を聞いてもらう。


「さすが剣聖と言ったところですかね」


「ん? ああ、そうだな。前あった時よりかなり強くなっている」


 やるせない苛立ちを自身の中で制しているとアリアが感心したように声をかけてくる。

 実力だけでいえば俺も流石だと思うがその他は頂けない。


「見たところ問題なさそうですが念の為に魔物の残党と負傷者の確認をしましょう。レイルは残党の確認をお願いします。」


「わかった」


 アリアは一つ息をついてそう言うとローグ達の所へ指示を出しに行く。


 結果として魔物の残党はなく、負傷者もいなかったとの事。レイボルトはその適当な物言いと態度からは想像のつかないほどに正確に魔物のいた範囲だけを攻撃していて、他の近くにいた御者や馬車に被害は全くなかった。


 全ての確認が終わって再び入国するための手続きが再開するとすぐさま関所前は長蛇の列が出来上がっていた。さっきまで逃げ回っていたというのに逞しいものばかりである。


「また振り出しだー……」


 先程よりも多く感じられる馬車の量にローグは苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せだらしなく荷馬車の中で寝転がる。


「まあ、しょうがないですね」


 マキアが苦笑しながら相槌をうって、再び待つ時間が訪れる。


「失礼する」


 恨めしそうに長蛇の列を見ているとそんな覇気のない男の声が聞こえてくる。


「あなたは……?」


 声のした方を見やるとそこには軽装の防具を身を纏い、腰に短剣を携えた一人の見るからに盗賊のような身なりをした男がこちらに一つ礼をしてくる。


「俺はギルドから来たシガスという者だ。少しいいだろうか?」


「なんの御用でしょうか?」


 ぶっきらぼうに名乗ったシガスの言葉に俺たちの代表をしてアリアが馬車から降りて対応をする。


「あんた達が魔物行進を食い止めてくれたんだろ? そのことでウチのギルドマスターがあんた達と話がしたいらしい。一緒に同行して貰えないだろうか?」


 シガスは短く説明するとこちらの返事を聞かず直ぐに踵を返し門の方へ足を向ける。


「わ、わかりました」


 俺たちは慌ててシガスの後を追い、そのおかげで行列を待つことなくマーディアル王国の中に入ることが出来た。


 行列を抜かす途中、戦いを見ていた行商人などがすれ違いざまにお礼の言葉をかけてくれたりして、列を抜かすことに対しての不信感はなかった。


「なんだか申し訳ないわね……」


 アリアは列を抜かすことにかなり不満があるようで中に入るまで終始納得の行かない顔をしていた。勇者とか関係なく真面目すぎではなかろうか。


 ・

 ・

 ・


 難なく入国することができ、シガスの後をついて案内された場所は大きな酒場のようなところ。ここが所謂ギルドと言う所らしい。そこは昼間から剣や鎧を身につけた冒険者、ギルドの職員たちでごった返しており、変な緊張感と慌ただしさがあった。


「こっちだ」


 シガスはそんな周りに気にした様子もなく受付嬢のいるカウンターの奥に入っていく。それに付いて行くとひとつの部屋に案内されそこで待ってるように言われた。


 何となく部屋にあったソファに腰をかけて部屋を観察する。


 綺麗に掃除が行き届いており、高そうな長机やソファ、調度品が飾られお洒落な内装だ。壁にはいくつもの男性の絵が飾られており、そのどれもが眉間にたくさんの皺を寄せて見るからに不機嫌な顔で描かれている。


「なんだこれ?」


 絵の飾られている壁の方まで近寄ってマジマジと眺めていると扉の叩く音が聞こえてくる。扉の方に視線を送ると少しの間を置いて扉が開き二人の男が部屋に入ってくる。


 一人は俺たちをここまで案内してくれたシガスともう一人は白髪の見るからに偉そうな装いの中老だ。


「……ん?」


 ″マスター、どうかしましたか?″


 初めて会うはずの白髪の男にどうしてか見覚えがあり、壁にかかっている絵に視線を戻し一番右側にかかっている絵と男を見比べてみる。


「絵の人だ」


 二回、三回と見比べてみたところで今入ってきた男と絵の男が同一人物だと言うことに気づく。


「あ、本当だね」


 俺の隣で一緒に絵を眺めていたローグも気づいたようで頷く。


「いやーすみません、こちらからお呼び出ししたと言うのにお待たせ致しまして」


 白髪の男は申し訳なさそうに苦笑を零しながらソファの方に近づいていく。


「どうぞお掛けになってください……よいしょっと。まずは自己紹介を、私がこのマーディアル王国冒険者組合、通称ギルドのマスターをしておりますヘクトル=エージングと申します」


 ヘクトルと名乗った白髪の中老は眉間にあるたくさんの皺をくしゃりと歪ませて優しく笑いながらそう言った。


「私はアリア=インディデントと申します、勇者として魔王を倒すために旅をしているものです。こちらの四人が今私と一緒に旅をしてくれている仲間たちです」


「レイルです」


「ローエングリンです」


「マキア=レイベルトと言います」


「ラミア=アンネット……です」


 アリアの紹介で手短に挨拶をする。


「あなたがあの勇者様でしたか、今回はあなた方が魔物行進を止めてくださったということで本当にありがとうございます。新しい魔王の出現で各地の魔物の活性化が増し、各国の騎士団、ギルドは魔王や活性化した魔物の対処で大忙し、それに加えここら辺では頻繁に魔物行進が起こる、色々と手が回らない状況で今回も魔物行進の対応が間に合っていませんでした。そんな時にあなた達が魔物行進を止めてくれたおかげで本当に助かっていたんです」


 壁に飾られている絵の印象とはかなり違う、饒舌で気の良さそうな中老はそう言って頭を下げる。


「いえ、あの、あれは私たちがやったと言うかなんというか……」


 尋常ではないヘクトルの感謝にアリアは困った顔をする。


 実際の所、あの魔物行進を止めたのは俺たちではなくレイボルトだ。最初に対処し始めたのは俺たちだが結果的に殆どはレイボルトが魔物を倒した。

 その事実をどうやらこのギルドマスターはご存知ではないようだ。


「とても言い難いのですが魔物行進(アレ)を止めたのは私たちではないんです……」


 なんとも言えない微妙な気持ちになっているとアリアは重重と口を開く。


「ん? どういう事ですかな?」


 中老は目をキョトンとさせて小首を傾げる。


「その最初に魔物行進と戦っていたのは私達なのですがそちらの国にいる剣聖、レイボルト=ギルギオンさんが結果的には全ての魔物を倒して魔物行進を止めてくれたんです」


「剣……聖……」


 アリアは気まずそうにヘクトルにそう説明をするとヘクトルは『剣聖』という言葉にだけ反応して顔色をどんどん悪くしていく。


「あの、どうかしました……?」


 あまりに突然な顔色の変化に心配になって声をかける。


「………はっ!? すみません、少し気を失っていました。それでなんでしたでしょうか?」


 ヘクトルは俺の声に体をビクリと強ばらせ聞いてくる。


「えっと、剣聖が……「ひいぃっ! その言葉を言わないで!!」


 俺がもう一度説明をしようとしたところで中老は年甲斐もなく情けない声を出して言葉を遮る。体を縮めガクガクと小刻みに震えるその姿はなんというかとても情けない。


「えーと…………」


「あー、すまない。うちのマスターは剣聖の名前を聞くと尋常じゃない拒否反応を起こして会話が出来なくなるんだ、こうなったらしばらくは元に戻らない。それでアイツが魔物行進を止めたんだっけか?」


 こちらが困惑していると今まで後ろでずっと黙っていたシガスが補足して会話を続ける。


「あ、はい。それでその剣聖が途中で乱入して周りも何も考えず魔物行進を止めたので、なんというかお礼を言われるのは違うような気が……」


「はあぁぁぁーーー、またアイツは勝手なことを……」


 ヘクトルのことは無視をしてアリアは自分たちの言い分を言うとシガスの大きな大きな深いため息をする。


「えっと……」


「ああ、すまんすまん。……そうか、色々と分かった。まあなんだ、一応あの魔物行進はお前たちが止めたって周りに居たヤツらは思ってるからそういうことにしといて貰えないだろうか? 実際に周りの避難やその後の残党の見回りなんかはお前たちがやってくれたんだし実質お前たちの手柄だ」


 もう何度目かのこちらの困惑にシガスは申し訳なさそうにそう言ってくる。


「はあ……」


 納得のいかない様子でアリアは一応返事をする。


「その……色々と悪いな気を使わせて」


 思うところがあるのかシガスは申し訳なさそうにこちらに頭を下げて言う。


「話のついでと言ってはアレだが勇者御一行はマーディアルになんの用だったんだ? これも何かの縁だ、ギルド(俺達)で出来ることがあれば協力をしよう」


「え! いいんですか?」


 突然の提案にアリアは驚きながら確認をする。


「ああ、魔王倒すために旅を勇者に手を貸すのは当然だ。お前たちを助けるっていうことは世界を救うってのと同じことだし、早くこの面倒臭い状況を打破してもらい。遠慮せず言ってくれ」


「ありがとうございます!! えっと私たちは………」


 シガスの言葉を嬉しく思いながらアリアは俺達がここまで来た理由を説明しようとしたところで言葉が止まる。


「どうした? 何か言い難い事か? 気にせずなんでも言ってくれ、できる限りの事はしよう!!」


 シガスは胸をどんと叩き頼もしく言ってくれるがその言葉がなんとも申し訳なってくる。


「……」


 アリアも次の言葉を言うのが忍びないのか、とても気まづそうにぴくぴくと頬を引き攣らせた不格好な笑顔で固まっている。


 いや、なんかもう、本当にすみまんせん。


 俺たち全員がそう思ったことであろう。

 しかし、言わなければ何も始まらない。覚悟を決めなければ。


「…………………私たちは剣聖を魔王討伐の仲間にと思い勧誘しに来たんです………」


 長い沈黙のあと生唾を飲み込み決死の思いで勇者は言う。


 …………………………。


 その言葉を後に再び長い沈黙。


 どうしてか次に発せられるシガスの言葉が聞く前からわかってしまった。


「……すまんがそれは手伝えない……」


「……アイツは何をしたんですか?」


 あまりにも面倒くさそうなシガスの反応が気になり、自然とそんな質問をしてしまった。


評価・ブックマークよろしければお願いします

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。