60話 説明の要求と条件
「いやいや、まさか森の中で悪魔が現れるとはな……」
「今回は俺の監督不行届でした。すみません……」
悪魔ガラムを倒した後、直ぐにタイラスが駆けつけてきて俺は何故か学園長がいる部屋に連行された。
てかタイラスが誰かに敬語を使っているところなんて初めて見た。
この人、ちゃんと丁寧な言葉も話せるんだなぁ〜。
「……ねえ私は石の中にいてもいいだろ?」
「しっ、リュミール、私語は謹んで……」
そこにはアニスとリュミールの姿もあり、何やら小声で話している。
「さて、レイル君だったかな? 悪魔との戦いで疲れてると思うがここまで来て貰ってすまないね」
学園長とタイラスの話は終わったらしく、豪華な椅子に腰を下ろしここの学園の長、レイブン=アーゲードはニッコリとしわくちゃな笑みを浮かべる。
「いえ、そんなに疲れてはいないので……」
これからどんなことを言われるのか、嫌な心当たりしかないので緊張する。
「久しぶりだなレイル、二ヶ月も何処をほっつき歩いてたんだ?」
学長の斜め後ろに立っていたタイラスも今まで不登校だった教え子に気さくに声をかける。
「ど、どうも……」
ヤバい、引きつった笑顔しかできない……。
「まあそんなに緊張することは無い。別に取って食ったりなどしない」
レイブン学長は白く長い顎髭を撫でながら言う。
「はあ……」
そんなことを言われてもこっちは色々とあって気が気でない。
「安心しろ、お前の名前はまだこの学園にある」
タイラスは俺の心情を察したようで俺を見て言ってくる。
「ほ、ホントですか!?」
「ああ、心配するな」
良かった、とりあえず俺はすぐにでもガリスの村に帰らなくて済みそうだ。
一番気にかかっていたことが分かり、一気に安心感がやってくる。
「まあこれから無くなるかもしれないけどな」
豪快に笑いながらタイラスは付け足してくる。
「……」
撤回、まだ不安だ。
「おほん! よろしいかな?」
レイブン学長は大袈裟に咳払いをして場を沈める。
「聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず今回の悪魔の討伐、本当に感謝する。ありがとう」
レイブンとタイラスは深深と頭を下げてくる。
「いえ、そんな、当然のことをしたまでです」
なんだかこの学園で一番偉い人に頭を下げられるのは落ち着かない。
「うむ、それでじゃが君に色々と説明をしてもらいたい。学園の生徒が一人で名持ちの悪魔を倒した強さの理由や長期に渡る学園の不登校の理由、そこにいる悪魔や精霊のこと等な」
「は、はい……」
蛇に睨まれたカエルのような気分になりながら俺はアニスやリュミールのこと、長い間学園を離れていた理由などを掻い摘んで話した。
・
・
・
「なるほどのぉ〜、君たちの強さに魔装機という物が関わっていたとは……それに魔王ヤジマや新しい悪魔達の動き、興味深いことばかりじゃな」
レイブン学長は背もたれに背中を預けて驚いた様子だ。
「なるほど、お前はそこにいるアニスを治すために何ヶ月も学園にいなかったのか。お前がいない理由を知ってそうなラミアやローグ、マキアあたりに話を聞いても何も話さないから何事かと思ったがやっと胸の中のモヤモヤが取れた」
タイラスも謎が解けて嬉しそうだ。
あいつら俺の事黙ってくれてたのか。
なんか変な気を使わせてしまったな。
少し申し訳なくなりながらタイラス達を黙って見る。
「ねえレイル、そろそろ黙って立ってるのも辛いから精霊石の中に戻っていい?」
駄々をこねる子供のようにだらけながらリュミールは口を開く。
……この馬鹿精霊は何処にいようが関係なく身勝手なことを言いやがる。
「リュミール! まだマスター達のお話は終わってません! もう少し待ってましょう、ね?」
それを母親のようにアニスが諭す。
本当にアニスはいい娘だなあ。
「おっと、すまないのぉ〜。どれ、君たちはそこに座ってお菓子でも食べてくつろいどいて構わんよ」
後ろにあるソファーとテーブルを指さしてレイブン学長はリュミール達に優しく笑う。
「いやー、すまないね〜」
「こら! ありがとうございますでしょ!」
アニスがペコリとお辞儀をして二人仲良くソファーに座る。
「ほっほっほっ、元気があって良いのぉ」
「すみません……」
なんだか行儀の悪い子供を見られた気分で恥ずかしい。これが親の気持ちか……。
「いやいや、構わんよ。それでは話に戻るがね?」
何も気にした様子もなくレイブン学長は話を続ける。
これが年の功なのだろうか対応がすごく大人だ。
「君の学園の在籍の処分のことなんだが、さすが実力主義のうちでもここまで欠席されたら見過ごすことができない。例え悪魔を倒した功績があってもね」
「はい」
まあ最初は名前がまだあると聞いて喜んだが、そうなるだろうと分かっていた。
これは仕方のないことだし、最初にこの学園を離れる時も覚悟したことだ。
「だがまあ、私たちとしてもこんな有力な未来の騎士を手放すのは惜しい。そこでだ! 君には四日後の二回目の満月の日に行われる騎神祭の剣術大会に出て優勝してもらう」
「剣術大会?」
騎神祭は実際に見たことはないが名前だけなら聞いたことがある。
「うむ、毎年行われる騎神祭のとても盛り上がる催し物でな、優勝賞金として金貨1000枚が贈られるのじゃ」
「1000!?」
とんでもない大金だそんなお金あれば一生遊んで暮らせるじゃないか。
「そうじゃ。うちも色々と経営が厳しくてな……。タイラスがこの学園の指導者となってからは毎年その剣術大会に出てもらって賞金の八割を寄付してもらっていたんだ」
なんという親切精神、それではタイラスに全く得がないと思うのだが……。
「俺はその賞金を寄付することで、仕事場で大抵のことをしても許してもらえるってわけだ」
なるほどだからあんな無茶苦茶なことをしても首にならずにいるのか。
てかこの人、大金を寄付してまで仕事がしたいなんて変人なのか?
「まあそれに金貨1000なんて現役の頃に比べれば少ないくらいだしな!」
……色々とぶっ飛んでやがるこの化け物、若い頃から変人か。
「しかし、タイラスもこう見えて歳だ。体にガタはキテるし、いつまで王者を死守できるか分かったものじゃない、そこで君の強さを見込んでこの大会に出て欲しいのじゃ。君たち2人が決勝まで行ってくれればもう賞金は手にしたも同然だからな、少しでも勝つ確率をあげるためにもレイル君には退学処分を賭けて出てもらう。そしてそこで君が優勝すれば君の退学処分は取り消そう。何百年と続く剣術大会に優勝すれば他の生徒達も君の今回の行いにも目を瞑るだろう」
机の上で腕を組みながらレイブン学長は目を細める。
確かに、大義名分があれば周りも納得するし学園側も助かる。
「お? なんだいなんだい、面白そうな話をしてるじゃないか!」
「マスター、お話はどうなりましたか?」
話が一段落着いたところでお菓子を食べていた二人が俺の元に来る。
「とりあえず、俺は剣術大会とやらで優勝しないと学園を退学になるらしい」
すごく簡潔に二人に今のことを伝える。
「おお! ホントに面白そうな話だなそれは!!」
「なるほど、では確実に優勝しなくてはいけませんね」
どうやら二人ともやる気満々のようだ。
「手伝ってくれるか?」
答えは分かっているが確認してみる。
「もちろん!!」
「もちろんです!!」
頼もしい返事が返ってきて大変心強い。
「どうやら話は決まったようじゃな。それじゃあ四日後を楽しみにしておるぞ」
そうして話は終わり俺達は部屋をあとにした。
・
・
・
「あ、相棒やっときた!」
久しぶりの自分の部屋の扉を開けるとそこには三つの影があった。
「お邪魔してます」
「やっほ〜」
「君たち人の部屋に勝手に上がり込んで何してるの?」
とりあえず聞いてみる。
「何してるのじゃないよ! 相棒直ぐにタイラス先生に連れていかれるから気になってみんなで相棒の部屋で待ってたんだから!」
「ご迷惑かと思いましたけど私達も色々とレイルさんに聞きたいことがあったので……」
どこか二人は嬉しそうに話す。
まあ今回はいいか。俺も色々と聞きたいことがあるし。
「それで冒険の旅はどうだったの?」
一番初めに質問してきたのはラミアだった。
「うーん……たくさんのことを知れたかな?」
「詳しく教えてよ!!」
ローグが食いつくように体を起こす。
「もちろん」
それからタイラス達に話したことより詳しく今回の旅のことを話した。
精霊の里や神獣との戦い、魔王のことや魔刄機のこと、輝煌石を取りにドラゴンのいる火山に行ったことや魔界領での修行のこと全てだ。
「はえー、随分とすごい旅だったみたいだね!」
「これが精霊……初めて見ました!」
「おおー、こんなに露骨に喜んでくれたのは初めてでなんだか私は嬉しいよ……」
アニスとリュミールも挨拶をすませて盛り上がる。
「魔刄機ってそんなに使うの難しいの?」
ラミアはやはり魔装機の完成系、魔刄機のことがかなり気になるようだ。
「うん、難しい。魔装機にも個体によって能力向上の恩恵や魔力の量は違うけど、魔刄機は別格だよ。魔刄機であるアニス本人ですら最初は力を把握しきれてなかった。一ヶ月修行をしたけどまだまだ完璧に使いこなすためには時間がかかりそうだよ」
仲間との再会に俺も嬉しくなって、いつもより口数が増える。
「なるほどね、それに武器も随分と面白そうだよねこれ。ガンブレード、不思議な名前だね」
「うん、これは慣れるまで本当に大変だったよ……」
思い出すだけで寒気がしてくる。
「アニスちゃんも新しい武器になってから少し大きくなった?」
「そうでしょうか? あまり気にしてませんでした」
アニスとラミアのやり取りや、ローグとマキアがリュミールと話しているのを見て、やっと帰ってきたんだと実感が湧いてきた。
「そういえばガーロットとかはいないんだな?」
「さすがにみんなの魔装機も連れてきたら狭いでしょ?だからお留守番」
確かに今でも少し狭く感じるのにここにまた三人増えたら酷いことになるな。
「ねえねえ! そろそろいい時間だし久しぶりにみんなで食堂行こうよ!!」
ローグがそう提案したので窓を見ると外はすっかり黄昏時だ。
「そうだね、そうしようか」
「そうですね!」
三人はそう言うと立ち上がる。
「いってらしゃいませ、マスター」
「え、私たちも一緒に行って食べないの!?」
「行きません、私たちの姿は他の生徒さん達は知らないのです。変に姿を現して混乱させては行けないので私達は留守番です」
「えー………」
リュミールは納得がいかず頬をプクーっと風船のように膨らませる。
「悪いな、それじゃあ行ってくる」
「はい、マスター!」
「ちぇっ、いってら〜」
二人に手を振り、久しぶりの食堂を目指した。
評価・ブックマークよろしければお願いします
m(_ _)m




