息吹?氣吹戸主?
結局私は狡かったのだ。状況に流されて、皆に守られて。全部氣吹戸主に責任を押し付けていた。息吹は巻き込まれただけなんだと傍観者になっていた。
氣吹戸主も、タケミ様に合わせる顔が無い、申し訳ないとずっと息吹に対応を押し付けてきた。
でも、タケミ様の穢れを見て、あなたは行動した。タケミ様の穢れを祓ったのは間違いなく氣吹戸主。ううん、もう一人なんかじゃない。息吹も氣吹戸主も全てひっくるめて『いぶき』なんだよ。
目を瞑ると、無機質な空間で氣吹戸主が顔を覆って泣いているのが見える。私は氣吹戸主に近付いていき、そっと抱き締めた。
『大丈夫。もう一人で贖罪しなくていいよ』
氣吹戸主が顔を上げて私を見る。あはっ。涙でボロボロだ。
『私も一緒に謝ってあげるから』
氣吹戸主が私のおでこに自分のおでこをつけた。その瞬間、私達は暖かな光に包まれた。
無機質な空間はやがて、色とりどりの花が咲き乱れる花畑となり、私の中に氣吹戸主の記憶が流れてきた。
膨大な記憶。転生を繰り返す度に魂の片隅に居た氣吹戸主。あぁ、そうか。氣吹戸主は最初から今の今までずっとタケミ様ただ一人だけを想いながら魂の片隅に居たんだね。タケミ様を忘れてなんて居なかった。もう、こちらに戻っては来れないと思っていたからタケミ様との想い出だけは大事に大事に自分で持っていたかったんだね。
だから、どの魂とも融合してこなかった。
そんなことしたら生まれ変わった時点で記憶がリセットされちゃうもんね。
私が感じた違和感の正体は、私が氣吹戸主を客観的にしか見れなかったのは、つまりはこういう事だったのだ。
桜吹雪の記憶を私に見せてくれたのは、ちょっとでも私と融合してもいいと思ってくれたからかな?
氣吹戸主、ありがとう。私の魂を選んでくれて。氣吹戸主の身体が透けている。私達はお互いに両手を握っていたが、徐々に氣吹戸主の感触が消えていく。
すっかり氣吹戸主の姿は見えなくなったが、確かに私の中に氣吹戸主が居るのを感じる。今度は客観的なんかじゃない。氣吹戸主は自分なのだとハッキリ実感出来ている。今まで使えなかった力も使えるようになった気がする。タケミ様と過ごした優しい日々もちゃんと思い出せる。
『おかえり』
『ただいま』
私達の魂は長い年月を経て、今ようやく1つになった。そして、想いも1つに。
私は、タケミ様が好き。
まずは、ちゃんと顔を見て謝らなくちゃだよ!うん、明日の朝はちゃんとご飯を食べて、天狗の山へタケミ様を返してもらいに行こう!
氣吹戸主と一緒になった事で思い出したよ。タケミ様を攫っていったあの女は烏天狗のクレナイだった。
タケミ様とずっと一緒に居る私を妬み、何かにつけては私に意地悪を仕掛けてきた。
タケミ様と祝言とか言ってたよね?結婚なんてさせないもんね!
グッと拳に力を込めて夜空を見上げると、夜空に輝く星達がキラキラと私を応援してくれているかの様に瞬いた。
次の日の朝。
「おはようございます、クナト様、おとりちゃん」
「おはよう、いぶき」
「おはよう。なんだか昨日とは雰囲気が違うわね、あっ、目の色が違う。綺麗な翡翠色ね」
「えっ?目の色も変わってる?あのね・・・」
私は二人に昨日の出来事を話した。瞳の色まで変わってるとは思わなかったけど。
「良かったじゃない、いぶき!」
「本当によかった・・・ぐすっ」
「ちょっと?私より先に泣くってどういう事よ?」
「ふふっ」
「ほらっ、いぶきに笑われたじゃない」
おとりちゃんと入れ替えに転生したからおとりちゃんの事はよく知らなかったけど、クナト様は相変わらずだなぁ。
こちらに来てからのおとりちゃんしか知らないけど、おとりちゃんは私の大切な家族。
私は昨日の分も取り返すかの様にご飯をおかわりしたのだった。




