自覚
はぁ。タケミ様どこ行っちゃったのかな。怪我とかしてなきゃいいけど。
相変わらず来た道は崖っぷちだった。帰れないし、かといってタケミ様を見つけないと先に進めないし。
何気なく空を見上げると、黒いカラスが一羽飛んでいた。カラスの口元を見ると、黒い蛇を加えている。
「たっ、タケミ様!?」
ど、どうしよう。タケミ様カラスに食べられちゃう!!
「お願い、タケミ様を離してー!!」
私はカラスに向かって叫んだ。
カラスは私に気付いた様で、私の近くまで飛んできた。そして驚いた事に、カラスは女の人に変身したのだ。女の人は妖艶な顔立ちで、長い黒髪を後ろに束ね、赤い袴を履いており巫女さんみたいな印象である。
背中に黒い大きな羽根がついており、今しがたまでカラスであった事を物語っている。
その人の手は黒い蛇・・・タケミ様の首元を掴んでいる。
「すみません、その、タケミ様を返してくださいませんか?」
「いやよ」
「えっ!?」
速攻で断られてしまった。えぇ〜!?
「アンタが居なくなったせいで、タケミ様が屋敷に引き篭もっちゃって全然逢えなくなっちゃった。でも、ようやく屋敷から出てきてくれたし、オマケに人型にはなれないようだし力が弱ってる今がタケミ様を私のものにするチャンスだもの」
この人は、タケミ様が好きなのかな。
「タケミ様をここまで連れてきてくれてありがとう。このままタケミ様を私にくれるなら、帰り道を出してあげる」
「えっ、帰り道を崖にしちゃったのはアナタなの?」
「そうだったらどうするのかしら?」
「・・・・・・タケミ様を返して」
「だから嫌だって言ってるじゃない。そもそも、あなたタケミ様の事覚えてないんでしょ?薄情なものねぇ」
「・・・・・・」
確かに私はタケミ様を思い出せない。タケミ様との想い出はこちらに来てからしかない。氣吹戸主にとって大切な人なんだって事はわかってはいるけど。
「あなた、覚えのない事に律儀に従うことなんて無いのよ?そもそもあちらの世界で何度も何度ももタケミ様じゃない人を選んでおいて、今更タケミ様に近付くとか最低じゃない」
「っ!!」
「あなたが人間界で楽しくやってる時にタケミ様はこっちで、ずーっと一人だったんだから!」
胸が、ズキンと痛んだ。言葉が何も出て来ない。あぁ、わかってしまった。氣吹戸主が出て来ない訳が。
多分、これが原因。薄々そうじゃないのかなって思っていた。
記憶を失くして、人間となり転生を繰り返してきた氣吹戸主。そして、転生する度に人間のパートナーと出会い、運命を共にしてきた。
タケミ様が最後の力を振り絞って、私を輪廻からこの世界に引き戻してくれた。きっと、その時から氣吹戸主は私の中にずっと居たんだ。
ずっと、タケミ様じゃない誰かを選んできたあなた。
自分の為に全ての力を使い果たしてしまい、穢れに侵されてしまったタケミ様。
氣吹戸主、あなたはタケミ様に合わせる顔が無いから・・・出てこなかった?
「・・・わかったかしら?あなたにタケミ様を愛する資格は無いわ」
わかってる。そんなの氣吹戸主はわかってるよ。
「ふふっ、じゃぁ私行くわね。タケミ様との祝言の準備をしなくちゃ♪」
カラスの女の人は、言いたい事を言い終えるとタケミ様を捕まえたまま羽根を羽ばたかせて山奥へと飛んでいってしまった。
クナト様とおとりちゃんが帰りの遅い私を心配して迎えに来てくれるまで私は暫くその場を動けずに居た。
何にも言い返せなかった。ずっと一緒に居るとタケミ様に言っておきながら、何一つ言い返せなかった。
おとりちゃんが用意してくれた食事も喉を通らなかった。
左腕を眺めてはため息が漏れる。
「いぶき・・・」
「おとりちゃん、ごめんなさい。ご飯、食べれなくて。・・・今日はもう休むね」
「・・・いいのよ。色々疲れたでしょうから今はゆっくりお休みなさい」
「ん。クナト様もすみません。おやすみなさい」
「気にしないでいいよ。おやすみ、いぶき」
私はとぼとぼと寝室へと向かった。畳んだままの布団に倒れ込み、大きく息を付いた。
タケミ様。タケミ様。・・・タケミ様。
タケミ様が側に居ないだけでこんなにも不安でどうしようもなくなる。
私にとってこんなにタケミ様が大きな存在になっていた事に今更気付いた。
私。タケミ様が好きなんだ。氣吹戸主が初めてタケミ様の想い出を見せてくれた時から。タケミ様を好きな感情は、私のものじゃない、氣吹戸主の感情だ、氣吹戸主さえ戻ってくれば元通りになるって言い続けていれば、タケミ様の側にいても拒まれないんじゃないかって。
氣吹戸主・・・私もあなたとおんなじだったよ。




