変化の無い日常
裏神栖村に来て、短期間で色々あり密度の濃い生活を送っている私。タケミ様があれ以来人型になることも無く数日が過ぎた。
クナト様が言うには、タケミ様は穢れによって徐々に力を奪われて、最後に残った力でそれこそ、死ぬつもりで力を振り絞っていぶきをこちらに呼んだのではないかって。下手すれば失敗してただろうし、いぶきの記憶が戻らないのも、もしかするとタケミ様の力不足が影響しているのかもしれないと言っていた。
今のタケミ様は空っぽなのだと。人型になるには力が必要で、クナト様が人型でいられたりちょっとした力が使えるのも夏祭りや初詣などの村人の祈りのおかげだそうだ。
神と村人、どちらにとっても決してかかせないんだと優しい表情で話してくれた。
タケミ様にも通常クナト様と同様に村人の祈りの力があったはずなのに、蓄積されなかったのは穢れが原因だと、穢れの原因がわからない事には断言は出来ないと言っていた。原因は私だと思うけど、と寂しそうな顔をしていた。
徐々に力も戻ってくるだろうと言っていたので安心だ。
タケミ様の遣いのヒカリとイナビも宣言通り毎日神社まで来ては隙あらば私に触ろうとしてタケミ様に咬み付かれている。・・・全然懲りないのが凄い。
私の左腕がタケミ様の定位置となっていて、流石にあれからお風呂は一緒に入っていないけど、朝も昼も夜もずっと一緒に居る。
私の方も特に変わった事も無く、今日もおとりちゃんやおミヨさんのお手伝いをしている。
村人達は妖怪ばかりだけど、皆いい妖怪ばかりなので素敵な村だなと思う。
今日のお手伝いは、3日後にお祭りが催されるのでお祭りの準備を手伝う事になっている。
「あぁ、いぶき様。毎日お手伝いご苦労様。お祭りの準備っていっても後は天狗様のとこに招待状届けに行く位なんだけどね」
「天狗様・・・?」
「ほら、神社の裏手は山になってるだろ?そこのてっぺんに住んでる天狗様だよ。毎年主賓として参加してもらってるんだよ」
あぁ、山登りかぁ。少し意識が遠のいたが、着物の恩をまだ返せていないので私は天狗様のとこに行ってみることにした。色んな人というか、妖怪が居て楽しい。天狗様かぁ。どんな方だろう。
私はおミヨさんから招待状を預かり、おとりちゃんから天狗様へのお土産のお団子とお弁当を持ってタケミ様と山を登り始めた。
一本道だと言っていたので迷う心配はないみたいだけど、先は長そうだ。ロープウェイなんてものがあるはずも無く、つくづくこちらの世界の不便さを思い知るのだった。
え?私には力があるのだから、神通力でささっと山くらい登り降り出来るだろうって?いやいや、神栖村〜息栖市までの間、村を救った女神として人々の信仰があったので、私には有り余る力があるみたいだけど、全く使い方を知らないんだよね。こればかりはクナト様でもどうにもならないみたい。力の持ち腐れ感がハンパない。
タケミ様を救ったのは私じゃないし。氣吹戸主の記憶が戻らない限りは使えないと思う。
山道には綺麗な花が咲いており、自然のパワーが溢れてる気がする。思い切り深呼吸をして美味しい空気を堪能する。
「空気が澄んでいて、気持ちいいですね。タケミ様」
ふと、左腕を見るとタケミ様が居ない。
「えっ?嘘?タケミ様?タケミ様ー!?」
いつの間に居なくなったのだろうか。山に登る時は確かに居た。
「タケミ様ー、どこに行ったんですー??」
タケミ様を呼んでもタケミ様は出て来ない。何かあったのかな?
来た道を引き返そうと後ろに振り返ると、来た道が無くなっており、数メートル先は崖になっていた。
え〜!?なんで?一本道だって言っていたのに、今来た道まで無いとか・・・。
まさか、タケミ様崖の下に落ちちゃったとかじゃないよね?
恐る恐る崖に近づいてみると、物凄い高さから村を見下ろす形で落ちたら命は無いんじゃないかと思う。
「(すぅーっ)タケミ様ーーー!!!」
私は崖下に向かって思い切り叫んだが、良く考えたらタケミ様は喋れないのだから返事の仕様が無いのだ。
困ったなぁ。タケミ様とはぐれちゃったよ。途方に暮れてしまい、私は山道の端の切り株に腰をかけた。




