おとりちゃんと私
私は心の葛藤を全ておとりちゃんに話した。
「ごめんなさいね。私達がいぶきが氣吹戸主だという前提で接してしまっていたから混乱させてしまっていたのね」
「う、ううん。でも、なんか1つの身体に魂が2つ入ってる感じがして」
「うーん、私もよくは分からないけどいぶきはいぶきよ。無理して氣吹戸主に寄せなくてもいいんじゃない?周りの人から聞いた氣吹戸主になろうとするからズレが生じるんじゃないかしら?」
「お、おぉ〜!なるほど」
確かにかつての氣吹戸主を意識していた。元に戻らなくちゃと焦っていた。
「氣吹戸主だって、長い年月転生を繰り返してきたのだから別人になっていてもおかしくないと思うわ」
正直目からウロコだった。
「わ、わた・・・私っ・・・氣吹戸主にならなくちゃここにいちゃいけないんだって思って・・・。氣吹戸主じゃない私なんて誰も必要としていないんじゃないかってっ・・・」
「ばかね、そんな訳、ある筈が無いじゃない!私こんなにもいぶきが大好きなのに。私はいぶきが、氣吹戸主だろうとそうじゃなかろうと私の妹には変わらないんだからっ」
泣き出した私をおとりちゃんが抱きしめてくれた。おとりちゃんの声も震えてる。おかしいね、昨日初めて会ったのにこんなにもお互いがお互いを家族だと思えるなんて。
「タケミ様だって氣吹戸主がいいに決まってる〜、うっ、うえっ・・・がっ、がっかりさせちゃう〜、ひぎっ、ふぐぅっ」
「そんな事!昔のままの氣吹戸主じゃなくちゃダメだって、ガッカリだって言う人とは付き合わなくていいのよ!ていうか、私がそんなのにいぶきを預けられないわよ!いぶきはずっと家に居たらいいわ!」
おとりちゃんがあんまりムキになって私のネガティブな発言を否定してくれるので、そして、ムキになるあまりに仮にも神様を“そんなの”呼ばわりしたおとりちゃんがおかしくて愛おしくて、嬉しくてまた泣けてしまう。嗚咽が止まらなくなってしまった。
「・・・ん」
気が付くと私はおとりちゃんの膝枕で寝ていた。
「ふふ、よく寝てたわねぇ。もうすぐ夕方よ」
泣き過ぎて眠っちゃうなんてちっちゃい子みたいで恥ずかしすぎるっ!
「ごごご、ごめんおとりちゃん」
「いいのいいの。気にしなくていいの。家族でしょ」
おとりちゃんが笑うと安心するな。何があっても私の味方で居てくれる。そんな存在はどれだけ力強い事なのだろうか。
ゆっくり起き上がると、タケミ様が、私の胸元から転がって床に落ちた。
「あれ、タケミ様・・・?」
「あぁ、いぶきが寝ちゃった後、あんまりいぶきが部屋から出てこないもんだから心配したらしくて襖の障子をぶち破って入ってきたのよ」
おとりちゃんが指差した先を見ると、障子が破れて穴が空いていた。
「てね、『いぶきが氣吹戸主じゃないと駄目だとか言うならさっさとお家にお帰りなさい』って言ったらいぶきの上でトグロを巻いたまま動かなくて」
お、おとりちゃん、神様相手に強いな。さすが、クナト様の嫁。
床に転がったタケミ様を見ていると、ピクッてした後に慌てた様に私の左腕に巻き付いてきた。私と一緒に寝てたのかな。
「帰らなかったからには、いぶきを氣吹戸主と違うとか言って泣かせたら許しませんからね・・・」
おとりちゃんが冷たい目と声でそう呟くと、タケミ様がキュッと私の腕を締め付けて固くなった。あ、怖かったんだ。
私はそっと、タケミ様の顎を人差し指でスリスリと撫でた。タケミ様は気持ちよさそうに目を閉じている。
タケミ様、私のもとに残ってくださって、ありがとうございます。いつか、ちゃんとお話が出来るようになったら、もう一度タケミ様の気持ちを聞いてもいいですか・・・?
まだ2日しか居ないのに、ここでの生活が、出会った人達が大切なものになっていくのだろうと感じた。
急な別れとなってしまった友達や家族の事を思うと悲しくなってしまうが、この痛みを生涯忘れまいと心に決めた。




