タケミ様との想い出
ガッチリと両脇にヒカリとイナビを装備して池に向かう私。しかし、今は夏だ。
「ちょっと暑いんだけど」
「そうですわ!いぶき様が暑がってるんだから、離れなさいよ」
「あー、僕の両手急に動かなくなっちゃったなー。困ったなー。ヒカリが離せば解決だと思うんだけどなー」
「・・・・・・」
なんなんだろう、この狢達は。氣吹戸主の好かれっぷりがハンパない。山の麓から神之池まで20分弱。身体的には疲れはしないが精神的に参ってしまいそうだ。
そもそも、屋敷から祠までで良かったのだが神之池までついてくる気満々だ。どちらかでも無理やり離そうとすると喧嘩が始まるし、私は暑さを我慢してこのまま進むことにした。
ひたすら歩いてようやく池まで戻って来た。
「えっと、池に浮かべるのよね」
池の水面にタケミ様を下ろそうとした時、池の淵にあった小石につまずいてしまった。デジャヴってやつ?・・・いや、私確かに経験したわ。
とか思ってる間にタケミ様を抱いたまま池に落ちてしまった。
うわぁ私また溺れるの!?必死にもがいているとヒカリが
「あのぅ、いぶき様。足、つきますから落ち着いてください」
と池の淵にしゃがんで水面に向かって言った。
え?足がつくの??私はもがくのをやめて両足で地面を探した。・・・本当だ。両足で立ってみると水かさは私の腰くらいまでだった。
「神之池の水かさは子どもが入っても、誰が入っても腰までの高さなんですよ」
しゃがんだままのヒカリが私に手を伸ばしながら言った。
「えっ!不思議ね!・・・あれ、でも向こうの世界でもそんな池あった様な。どこかの神社の」
神社の敷地内にあるので、実際に入っている人も居なかったし、自分が入ってみようと思わなかったから謎は謎のままだったけど。都市伝説だと思っていたものがここでは普通の事なんだな。
もうね、色々あり得ないことがあり過ぎてちょっとやそっとじゃ驚かなくなった気がする。
もう、どうせ水浸しなので、差し出された手を丁重にお断りしてそのままタケミ様と池に浸かっている事にした。先程まで2人の相手をしていてのぼせてしまう程暑かったので正直水浴びが気持ちが良かった。
おミヨさんに頂いた着物を粗末に扱ってしまった事だけがただただ申し訳ないけど。
タケミ様・・・穢れって、一体どんな事になっているのかな。
ふとタケミ様を見ると、穢れが少なくなっている。このまま池の中に居れば穢れはなくなるかな。タケミ様をギュッと抱きしめる。
氣吹戸主、大好きなタケミ様だよ。何か思い出せる事は無い?そっと目を閉じると風がサァァァと吹いた。
『・・・ぶき。・・・いぶき』
ん?桜の花が舞いちる池のほとりで2人の男女が並んで座っている。片方は水色の髪の毛の女の人・・・って事は氣吹戸主だね。もう一人は、黒地に金の花があしらわれた袴、白い着物と羽織りの黒い髪の男の人だ。
髪は黒くクナト様ほど長くはないが短いわけでもなく、下を向けば顔が隠れる位の長さで、髪の毛の間から見える切れ長の目が印象的な人だ。ふわぁ、凄いイッケメェン・・・。この人が、タケミ様かな?
『タケミ様、見てください。桜の花、綺麗ですねぇ』
『ははは、いぶきは花を愛でるよりも団子を食べていた方が幸せなんじゃねぇか?』
『もう!そんな事ありませんよ!』
『いやだって、ほらここ』
『あ・・・っ』
『口の脇に団子のタレがついてたぞ』
『も、もうっ!舐めないでください〜〜〜!』
閉じた瞼の裏に幸せそうな2人の映像が浮かんできた。氣吹戸主の思い出かな?
氣吹戸主が失くしてしまった記憶、姿が戻ったように早く戻ればいいのに。
タケミ様の笑顔を見た瞬間、私の胸にチクンとした痛みが走った。
タケミ様・・・無意識にタケミ様を抱きしめる力が強くなる。
その時だった。私の頭に女の人の声が響いた。
“タケミ様の穢れよ、無くなれっ”
ぶわっと池の水が渦を巻き、やがて穢れを絡め取るかの様な竜巻となりタケミ様の穢れと一緒に天に向かって飛んでいった。
私の腕の中でトグロを巻いていたタケミ様がニョロニョロと動き出し、私の腕に巻き付いた。




