黒い蛇と狢《ムジナ》
屋敷内の廊下をグルッと周り、いくつもの部屋を通り過ぎ、最奥の部屋の前に着いた。その部屋の襖は一際豪華なもので、綺麗な花の柄が描かれている。
「タケミ様、いぶき様が戻られましたよ」
イナビが部屋の前で襖に向かって話しかけると、勢い良くスパーーーーーンっと音を立てて襖が開いた。
「「「いぶき様!いぶき様!!」」」
「「「おかえりなさい」」」
「「「おかえりなさい」」」
襖が開くと同時に沢山のたぬき?が私に向かって押し寄せてきた。
「ひぃぃ」
沢山のもふもふに揉みくちゃにされる私。ドサクサに紛れて私の胸を揉んでるイナビ。ちょっ・・・!?
「喝ーーーーーーーーーッ!!!」
女の子の声が聞こえたと同時にもふもふがババっと私から離れて散らばった。
私の目の前からもふもふが居なくなると、そこには赤い着物を着た可愛らしいおかっぱの小さな女の子が居た。
「・・・失礼しました。いぶき様。皆久々のいぶき様に興奮してしまいまして」
「はぁ・・・」
「・・・お前もいぶき様の手を離しなさい」
女の子はそう冷たい声で言うと、イナビと私の手を離させた。・・・助かった。
イナビは不満タラタラな感じだったが、この女の子には逆らえない様でしぶしぶ後ろに下がった。
「全くこいつらときたら・・・タケミ様がお休みになっておられるというのに・・・そりゃぁいぶき様に触れるチャンスではあるけども・・・」
女の子はイナビから離れた私の左手を両手で握りしめながら何やらブツブツ呟いている。
「あの・・・あなたは?」
「っ!?いぶき様、記憶は戻られてないのですね!おいたわしや・・・。私はタケミ様の遣いのヒカリと申します。こやつらも同じ遣いで人型と狢の姿を自在に変える事が出来ます」
私の左手をさすさすしながらヒカリと名乗った女の子が説明してくれた。ちょっと私に対する態度はアレだけど、状況を察する能力は高そうだ。
「いぶき様の絹のような触り心地のお手の感触・・・お名残り惜しゅうございますが、こちらがタケミ様でございます」
ヒカリはそう言って奥の台座にトグロを巻いたまま動かない黒い蛇の前まで連れてきてくれた。
これが・・・タケミ様。大蛇だって思っていたけど、普通の蛇位の大きさであった。
でも・・・その小さな身体に纏った黒いオーラみたいなものがモヤモヤと黒い蛇をおおっているのが気になる。
「クナト様っ、これは・・・?」
「あぁ・・・“穢れ”だ。おとり、部屋の隅っこまで離れていなさい。穢れに充てられてしまう」
クナト様がすかさずおとりちゃんを背にして庇う。そして、おとりちゃんは頷いて部屋の片隅へと向かった。
「このままではタケミは邪神になってしまう・・・。いぶき、タケミを神之池に連れて行こう」
「白蛇!!タケミ様をどうするつもりだ!?」
「白蛇め!またタケミ様に仇を成すのか!!」
「我らがタケミ様を白蛇になんか任せておけるか!」
狢達が口々にクナト様を攻める言葉を吐く。・・・おとりちゃんも居るのに、勝手な事ばっかり言って・・・。
「う、うるっさーーーーーーい!!!!!」
ビクゥッてなって静まる狢達。目を剥いて驚いているクナト様。
「今はグチグチ言ってる場合じゃないでしょーが!一刻を争う事態なんじゃないの!?手遅れになったらどーすんの!?あんた達責任とれんの!?」
私は、無意識にタケミ様を抱えて怒鳴った。
「ど、どうどう。いぶき。私は大丈夫だから・・・」
狢達より早く立ち直ったクナト様が私を宥める。
「しかし、いぶき。タケミを持ってもなんとも無いのか?」
「え?うん。タケミ様お人形さんみたいに軽いですよ?」
「いや、そうではなくて、穢れの影響とか・・・無いようだな。穢れ防止の入れ物を用意しないとと思っていたが、いぶきが運べば大丈夫そうだ」
ニコッと笑ってクナト様がおとりちゃんの元へ向かった。
「いぶき、念の為私はおとりと後から向かうから先にヒカリかイナビと神之池に向かってくれないか?そしてタケミを神之池に浮かべてくれ」
「えぇー・・・。わかったー」
よりによってその人選。しかし、おとりちゃんに穢れが充てられても困るし、タケミ様の遣いが居ないと祠まで戻れないし、致し方ない。
「いぶき様、ご安心くださいませ・・・♡この私に全てを委ねて下さればいいのですわ」
「くっ・・・ヒカリのやつめ。抜けがけだぞ!!」
「イナビ!あなたは留守番してなさい!」
「やだねー。緊急事態だから上下関係なんてないもんねーだ。ねー、いぶき様ー♡」
ヒカリとイナビにガシっと両脇を固められてしまった私。やっぱり不安しか無いよ。




