追憶の欠片
「いぶき。この部屋でちょっと待っててちょうだい」
「う、うん」
おとりちゃんはそう私に言い残して部屋を出て行った。
私は何気なく胸を両手で揉んでみた。ボヨンっとした弾力がある。うわー、胸ってこんなに大きくなるんだー!これが氣吹戸主の身体・・・。
ねぇ。氣吹戸主。あなたは自分を犠牲にしてまで神栖村を・・・タケミ様を守ったんだよね?
今思い出したけど私のおばあちゃんが良く歌ってた子守唄の歌詞の『いぶきとぬしに 拓かれた 緑豊かな水の国』ってやつは、あなたの事だったんだね。氣吹戸主が切り拓いた私達の未来。一度消滅仕掛けた村を再生させた女神ー。今まで何のことかわからなかったけど。
友達に聞いてみたら、そんな歌は知らない、聞いたことがないって言ってたから今はその歌も知ってる人が少なくなっているみたいだけど、あなたが救った昔の村人達はちゃんと、あなたの勇気ある行動を歌にして語り継いでいたよ。
だから、だからね。もうさ、転生するのやめて裏神栖村で休もう?タケミ様の所に行って一緒に暮らそう?魂をかけて愛した人の側に居よう。
タケミ様の事、覚えていないというより知らなかったのに今無性にタケミ様に逢いたくて堪らなくなった。
顔もわからないのに、なんでかな。氣吹戸主の記憶なのかな。今はまだ氣吹戸主の事客観的にしか思えないけど、いつか、自分の事だと思える日が来るのかな。
ふと、外に目をやるともう夏だと言うのに外ではホーホケキョと鶯が鳴いた。
「いぶき、おまたせ」
私が氣吹戸主に想いを馳せているあいた、どれ位時間が立ったのかわからないが、おとりちゃんが大きな風呂敷を持って走ってこちらへ向かってきた。
おとりちゃんが風呂敷を開けると、中には薄いピンクと淡い紫のグラデーションで、桜の花みたいな小さな白い花の柄の着物が入っていた。
「近所のカマイタチのおミヨさんに事情を話したらいぶきにくれるって。おミヨさんはとっても衣装持ちなのよ。さ、今着てるやつ脱いでこちらに着替えましょ」
テキパキと着付けをしてくれるおとりちゃん。ん?カマイタチ?
「おとりちゃん、カマイタチって?」
「ん?カマイタチはほら、竜巻起こしてスパーッて切ってくる妖怪よ」
え?ここは妖怪も住んでるんですか?いや、まぁ神様とか存在するのだから居てもおかしくないっちゃおかしくないけどさ。
「はい!出来た。うん、いぶきの髪の色と良く合ってる」
カマイタチのおミヨさんに頂いた着物は肌触りがとても良く、サイズも私にちょうど良かった。
「さ、朝ご飯食べて出かけましょ!あ、クナト忘れてた!」
忘れてたって(笑)おとりちゃんたら。バタバタとクナト様が居る部屋に慌てて向かった。
朝ご飯はご飯とお味噌汁と漬物のあっさり質素な和食だった。
普段そんなに朝から食べ物が入らないのでこういうあっさりしたのはありがたい。
そして、今日のご飯もとても美味しい。
ご飯を食べ終わると、食後のお茶を飲みながらこれからの事を話し合っていた。
「とりあえず、着物をくれたおミヨさんにお礼を言いたいな」
「そうね、そうしましょう」
「後は村人と軽く挨拶でもしながらタケミのとこに向かおうか」
神社の鳥居をくぐり階段下の村を見渡すと、昨夜とは違って、村には子供達が遊んでいたり人の往来もあり活気づいている。
昨日は気付かなかったけど、神社の通りにはお店もあったのね。
村の向こうには大きな池がある。あ、神之池かな。
村人は首の長い人や、大きい目が顔の真ん中にある人とかちょっと変わってる人が多いのは気のせいだろうか・・・。
「おとりちゃん、おはよう!おやその子は誰だい?」
「おはようございます。この娘はいぶきと言って私の妹なの」
「へぇ、おとりちゃんの方が幼く見えるねぇ」
「あっ、酷いですよ(笑)こう見えても私ちょっとずつ成長してるんですからね」
おとりちゃんと冗談を交えながら話しているのは一反木綿?の奥さん?だった。なんせ性別不明なので口調からの判断だけど。
奥さんと別れてから私はおとりちゃんに聞いてみた。
「ね、ねぇ。おとりちゃん。この村って人間は住んでいないの?」
「居るには居るけど、私も含めてもはや人間と言っていいのかしらね?クナト」
何やらおとりちゃんが不穏な言葉を口にした。




