九、羽衣と來未
カキーン。カキーン。
学園から自転車を漕ぐこと十分足らずにそれはある。
ただ、今日は雨合羽を着たり脱いだりするのが億劫だが・・・。
母屋自体は二階にあり、一階が駐車場になっているため、その際に雨を気にする必要がないのは救いか。
入り口をくぐり、階段を昇りロビーへ向かう。
カキーン。
ボールをバットで捉える音が響く。こんな日でも先客がいるようだ。
その先客は私たちと同じ女子高生だった。その二人組。
あれは確かやしろ西高の制服。西高の女子も、私らと同じようにセーラー服だ。ただ、私らのセーラーと違って黒さが際立つ。襟の部分にラインは走っているが、その色も淡い黒。他校から、“カラス”と言われるのも納得がいく。
私はそう記憶をたどりながら彼女たちを眺める。
今は、その内の一人がスカートを棚引かせながらバッティングゲージに立っていた。
珍しいのは、彼女たちが立っているのは野球のゲージではなく、このバッティングセンターに一つだけあるソフトボールのゲージだった。
確かにやしろ西高にはソフトボール部があったはず。
「なんだ、ソフトボールか」
ただ、ソフトボールには今一つ関心のない私たちは少し拍子抜けし、彼女たちとは少し距離を置いて陣取ることにした。
「おっし、私が最初に行くぞ」
私は意気揚々と百十キロのゲージに入った。
「かっとばせぇ~」
「いけぇ~」
鷹乃と紀子から黄色い歓声が上がる。
良いとこ見せないとね。
ここは二百円で二十五球打てる。
私は迷いなく百円玉を二枚投入し、バットを構えボールが放たれるのを待った。
マシンのランプが灯り、ピッチングマシンが動き出す。
何を隠そう、私はバッティングも得意なの!
バシュッ。
一球目が放たれる。
ブン!
「ありゃ」
気負ったか、初球を空振った。
「なんだ~、ひな~」
「しっかりしろぉ~」
ロビーで私のバッティングを見守る二人から叱咤激励が掛かる。
「くすくすくす」
そんな中、二人のものではない笑い声・・・と言うか、冷やかしめいた笑い声が聞こえてきた。
バシュッ。
ピッチングマシンが、そんなことも構わず二球目を放ってくる。
ガスッ。
今度は、打ち損ね。打球も前に飛んでかない。
「くすくすくす」
次はハッキリ聞こえた。その声の方を見やると、ソフトボールのゲージに立っている女子が、明らかにこっちを見て笑っている。
「気分悪いわね」
私はそのむかつく気持ちを三球目以降に大いにぶつけることにした。
カキーン。カキーン。快音連発。
ランプが消え、金額分の投球を終えたことをピッチングマシンが知らせる。
「まあ、こんなもんか」
久しぶりながら手ごたえを感じ、私は一人ごちる。
そして、ロビーに戻った私を鷹乃と紀子が温かく迎えてくれた。
「ナイスバッティング」
「久しぶりなのにやるな」
最初の二球はなかったことにしてくれてる二人。有難い。
でも、違和感を感じた存在を、二人に伝えずにいられなかった。
「なんか、あいつらこっちの様子見て笑ってる。気分悪いよ」
「え、そうなの?」
「そうか?ロビーにいた方は普通だったぞ」
鷹乃と紀子が、それぞれの感想を口にする。
じゃあ、性悪なのはあいつだけか。
私は、私とタイミングを合わせるようにロビーに戻ってきた奴をロックオンした。
しかし、無駄な争いはしない。とりあえず、無視を決め込むことにした。
「じゃあ、次は私が行くね」
鷹乃が続く。私が打ったゲージと同じところに入る。
ランプが灯りマシンが動き出す。
パシーン。
鷹乃は初球から奇麗にボールを弾き返す。
あまり大きな当たりではないものの、ミート重視の鷹乃のバッティング。昔から変わらない。ライナー性の当たりが空気を切り裂くように飛んでいく。
ふと、西高の彼女たちの姿が目に入る。性悪ではない方の女の子がバッティングの最中だった。彼女も鋭い打球を飛ばしている。悪くない。性悪な方も、彼女のバッティングに素直に手を叩いて応えていた。何だったんだ?さっきのは。
そうこうしているうちに鷹乃が打ち終えてロビーに戻ってきた。
「さすが、鷹乃。ナイスバッティング」
私は素直な感想を口にした。
「えへへ。私も久しぶりの割にうまく打てたよ」
鷹乃が照れながら返事する。
「よし、私も行くぞ」
それに感化されたのか、紀子も気合十分といった具合に、鷹乃と入れ替わるようにゲージに入っていった。
鷹乃に対して紀子は意外性のあるバッターだ。私らの中では一番小柄な女の子だが、割とデカい当たりを打つこともある。中学時代は、紀子の姿を見て舐め切ったピッチングをしてきたピッチャーが、何度痛い目見てきたことか。ただし、確実性が今一つ伴わないのが玉にきず。
それを証明するかのように、ホームラン性の当たりとどん詰まりの打球が交互に続く。
「紀子、相変わらずだね」
その様子をみて、鷹乃が笑みを浮かべながら口を開く。
「通常運転ってところかな」
私も微笑みながら、鷹乃の言葉に頷いてみせた。
そうこうするうちに、紀子もバッティングを終えロビーに戻ってきた。
「ナイスバッティング」
「ん~、もう少しヒット性の奴が欲しいね」
納得がいかなかったのか、少し難しい顔をしながら戻ってきた紀子に、私と鷹乃が素直な感想を口にした。
まあ、紀子にはキャッチャーとしての仕事もあるからね。バッティングはそれなりで良いと私は思っている。今のままでも十分な戦力だ。
さて、とりあえず一巡した。
「二巡目、いってみっか」
そう言って立ち上がった私の視界に、西高の二人が入ってきた。
二人してこっちを見ている。特に性悪な方は、にたついた表情を浮かべていた。
「何なんだ、あいつら。私の時にばっかりこっち見て」
愚痴りながらも気にしないようにゲージに入ってみたものの、ダメだ。かえって意識してしまう。そのせいか、無駄に力が入った私は中途半端な当たりを続けてしまう。
チラッ。
今戦う相手は違うと思いつつも、西高の二人に視線が飛んでしまう。
はっきりとこっちを見ているのが分かる。
「チッ」
舌打ちしてみても始まらない。分かっちゃいるけど力が入る。
フッとマシンの灯りが消える。
「ありゃ、もう終っちゃった」
私の二巡目は大して良いとこ見せることなくあっけなく終わってしまった。
「あ~、むしゃくしゃする」
そう言いながらロビーに戻る私に鷹乃と紀子が慰めに近い表情をして迎える。
「気にしないよ、ひな」
鷹乃がそう言ってくれるが、イラつく心は止まらない。
そうこうするうち、西高の二人が帰り支度をはじめ、私らの横を通り過ぎていこうとした。
「人のするさまジロジロ見て気持ち悪い」
どうにも気が収まらない私は、つい彼女たちへの文句が口をついて出てしまった。
「ひな?」
鷹乃がなだめようとしたものの、当然、その声は西高の二人に届いてしまったようで、性悪な方がこっちを振り向いた。
「なんか言ったか?」
ガンを飛ばしながら性悪が反応する。
少し茶色に染めたショートカットが特徴的で、パッと見た目は奇麗な顔立ちをしているものの、どうにも性格がついていってないようだ。こいつ。
「気持ち悪いから気持ち悪いって言ってんのよ」
私も止まらない。
鷹乃と紀子、なぜか西高のもう一人も、おろおろとしながらお互いを見やる。
にらみ合い無言のまま、お互いの距離を詰める私と性悪。
しかし、それを一つの人影が遮った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。羽衣ちゃんにも悪気は無いんです。ちょっとイラついてるだけなんです。ごめんなさい」
その正体は、性悪の付き添いだった。
長めの黒髪を振りみだしながら羽衣と呼ばれた性悪に抱き着く。
「ちょっ、來未、離せよ」
抱き着かれた羽衣は、それを振り解こうともがいてみせるが、必死の形相で抱き着く來未と呼ばれた少女を引き剥がせない。そんな光景を見ているうち、私も勢いを削がれてしまった。
このバッティングセンターにはロビー奥にゲームコーナーも併設している。
私と羽衣は、それぞれの相方に引っ張られ、そこへ連れていかれた。
その片隅にあるテーブルゲームを挟むように、私は鷹乃と紀子に、羽衣は來未に強引に着席させられた。
「痛ってぇよ、來未」
先ほど止められた恨みも手伝って羽衣が來未に噛みつく。
それをなだめるように、首を左右にフルフルと振りながら、羽衣の両肩に手を置き抑える來未。
一方、私たちは・・・。
「ひなは、すぐに熱くなる」
「他校の生徒と喧嘩なんて、学校に知れたらやばいでしょ」
「そういうところ、直した方がいいと思う」
「もう、私らがいなかったらどうなってたか」
次々と、私に紀子と鷹乃から小言が飛ぶ。
先ほど削がれた怒りが再燃・・・というより、こいつらの小言がうるさい。思いっきり「知ったことかそんなこと」と書かれた表情を顔面に張り付け、そっぽを向く私。
「そっちが喧嘩売ってきたんだろ」
収まらない羽衣の口撃が止まらない。
「何言ってんのよ。そっちが嫌味ったらしく、こっちをジロジロ見てたんじゃない」
今まで黙ってた私も、羽衣の言い分に納得いかず反撃に転じる。
「何だと?誰がお前なんかジロジロ見てるかよ。そりゃ、みっともなく空振ってるところは笑えたけどよ」
私をバカにするように、右手をひらひらさせながら羽衣が言い返す。
「なぁんですってぇ~」
切れた。羽衣のその一言に、私の我慢の緒が切れた。頭の中でブチッって音がした。
「野球やってないあんたなんかに言われたくないわ!」
私は立ち上がりながら、そう捲し立てた。
そんな私の剣幕に、さすがの鷹乃と紀子もたじろいだ。私ら三人も付き合い長いから喧嘩もしょっちゅうだったけど、ここまで般若のごとく怒りを面に出したことは無い。
私の気勢に羽衣もたじろぐ。ただ、それも一瞬のことで、すぐさま反撃に転じようと身を乗り出す。
しかし、またもやそれを制するかのように、一瞬早く口を開いた人物がいた。
「待ってください。誤解です。ごめんなさい」
來未だった。
ただ、あまりの声のデカさに羽衣は勿論、私ら三人も目を点にしながら、固まった。
それは、バッティングセンターの従業員全員が何事かとこっちをのぞき込むほどだった。
來未を見つめる私たち。羽衣も一緒に見つめている。
先ほどまでとは打って変わっての静寂が辺りを包む。
ボッ!
そんな状況に、我に戻った來未が顔を炎のごとく赤らめた。さっきまで見せてた透き通るような色白の肌が嘘みたいに、真っ赤に染まった。
その表情を隠すように両手で顔を覆い、へたり込む來未。
「ご、ごめんなさいぃ~」
同時に謝罪の言葉を吐き出す來未だが、先ほどの大声を出した人物とは言えないほど、小さなかすれた声だった。
そんな來未に視線を集中させる私たち。
誰も一言も発せないままだったが、そんな状況を打ち破るように、來未が顔を赤らめたままではあるが、私たちに顔を向け、意を決したかのように語りだした。
「でもでもでも・・・、本当に誤解なんです。私たち、やしろ西高で、ソフトボールをやってるんですが、休部になって、むしゃくしゃしちゃって・・・。憂さ晴らしに、ここにきたんですけど、そしたら、以前会ったことのある人と、似てる人が来て、それが、うれしくなっちゃって・・・」
言葉を切りながらも、なんとか私たちに経緯を説明しようとする來未。一所懸命に語るさまが、なんともいじらしく見える。この娘、ホントはすごく内気な感じに見えるけど、、自分の大事な人のためには一生懸命なんだな・・・、と思うと、先ほどまでの怒りがどこへやら霧散していくようだった。
「ふん」
その、來未の姿を見ながらも、そう言って意地を張り続けるかのように、そっぽを向く羽衣。
「あんた、まだそんなこと・・・」
來未が、誰のためにここまで喋ってんだと思い、羽衣に突っかかろうとする私。
「それ、ホントだよ」
しかし、それを制するかのように、今度は羽衣が口を開いた。
「私たち中学の時には野球やってたんだよ。最後の試合にぼろ負けしちゃったんだけど、その時の相手にも女子がいて・・・」
そこまで話して、私を見返す羽衣。
「あんたみたいにポニーテールが印象的な子だったよ。でも、負けた悔しさでボロボロに泣いてたから、顔まではあんま見てなくて。・・・でも、そいつが言ってくれたんだよ。『また、やりましょう』って。純粋にうれしかったよ。野球は中学で辞めようって思ってたけど、できればそいつと一緒に野球やれれば良いなって思ってさ」
ここまで話して、息継ぎ一つ。
來未ほどではないが、少し顔を赤らめている。自分語りは苦手なタイプか。
こいつ、こんな表情もするんだ・・・と思うと、こいつもいじらしく見えてくる。
「で?」
それを悟られないように・・・私も十分意地っ張りだなと思いながらも、先を促す。
一瞬、ちらっとこっちを見てから羽衣は先を続けた。
「ただ、入った高校の野球部は、女子はマネージャーでしか受け付けないって感じでさ。諦めてソフトボール部に入ってみたけど、先輩方が揃って校則破ってバイトしてたのが発覚してさ。部の活動費を稼ぐためだったんだけど。でも、停学食らっちゃって。そうこうしているうちに部も辞めちゃって、あたしら二人が残されちった。当然、部も休部状態。このままだったら廃部になるんじゃねぇか?」
ここまで話して、羽衣が遠くを見つめるようにため息を吐いた。
なんだ、そんなことがあったのか。
辛い目見てんのは私らだけじゃないんだ、と思いながらも、すっきりしないことが一つある。
「じゃあ、なんで、こっちジロジロ見て笑ってたのよ?」
私は意地悪くも問いかけた。
それには、羽衣が私を見つめながらすぐに応えた。
「來未が言ってたろ?似てたって。・・・そいつ、女子ながらすごくってさ。私らの試合の時には途中からマウンドに登ってきたんだけど、私らのチームの男子が全く打てなくってさ。私はベンチから見てるだけしかできなかったけど・・・。しかも、最後に一言掛けてもらって、こんな奴がいるんだって思ったら、私も頑張ってみようかなって・・・さ。あんたとおんなじポニーテールの女の子だったから、もし、あんたがその時の女の子だったら最高だなってな」
それを聞いて私は何も言えなくなっちゃった。
「でも、あんたの空振りは純粋に笑えたけどな」
からかい気味に、羽衣が最後に一言付け加える。
「あんたねぇ・・・」
羽衣の話を聞いて少し感傷的になってみたものの、羽衣のその一言が、私に再度、火を着ける。
「あんたのその時の相手って、どこだったのよ?」
羽衣に問いかける。
「一中だった」
羽衣から直ぐに答えが返る。
「ん?」
その一言に私の記憶が掘り返される感覚が・・・。
「ん?」
私は頭を傾げ腕を組む。
「ん?」
今まで黙ってた鷹乃に紀子も、そう言いながら私を見つめる。
「ん?」
私らの変わる様子を見つめ、羽衣もそう言いながら私を見返す。
「・・・」
來未だけは、その様子を見つめながらも無言のままだった。
静寂が短い間ではあるが、辺りを包む。
その静寂を打ち破ったのは私の衝撃の一言だった。
「あ、それ私だ」
それを聞いて全員ずっこける。
しかも、おとなしそうな來未もずっこけてるさまには、少し笑えた。
「ひな。なに、笑ってんだ」
ぴくぴくと体を振るわせながら体を起こしつつ紀子が愚痴る。
「あ、あんたねぇ・・・」
鷹乃も続く。鷹乃に至っては右手を握りしめている。その拳は何かな?
「ま、ま、ま」
私は少しづつ後づさりながら、二人をなだめることに挑戦する。
「結局、ひなが原因かぁ」
鷹乃と紀子が、そうハモらせながら私に飛びかかってきた。
「わぁ、二人とも相変わらず息ぴったり~」
誤魔化すように、逃げに入る私。
「あはははは」
その様子を見守っていた羽衣が笑い声をあげる。
「くすくすくす」
來未も、控えめではあるが笑っていた。
気が付くと雨が上がっていた。
「私は、龍峰 羽衣。こっちは郡築 來未」
バッティングセンターを後にして、群れ歩く私たち五人。
ショートカットの茶髪が、改めて自分たちと控えめ黒髪をそう名乗った。
小柄だが元気いっぱいの羽衣。眩しいくらいの笑顔。いつもこうなら可愛いのに。
そんな羽衣を見つめながら、私は思った。
「よろしくお願いします」
意識しないと聞き取れないくらいの声。普段は大人しく控えめな來未。
良いコンビだな。
帰る方向が一緒で、暫くの間、談笑しながら歩いていた私たち。
しかし、ふと羽衣と來未の足が止まる。
「私ら、こっちだから。・・・会えて良かったよ」
羽衣が、そう言いながらも寂しげな笑顔を浮かべる。
「学校違うから、あんま会えないかもしんないけど、これからもよろしくな」
なんだか、今生の別れの様なセリフを吐き、羽衣は寂しげに手を振りながら、私たちの輪から離れていく。
ペコリとお辞儀しながら來未も羽衣の後を追っかけていく。
そんな二人を、私は鷹乃と紀子、三人で見送った。
「結局、良い娘だったね。あんたの早とちりだったけど」
「一緒に野球やれれば良かったのにな」
段々と小さくなる二人の背中を見つめながら、鷹乃と紀子がそれぞれの思いを口にする。
「・・・ん?一緒?」
確か・・・。
紀子の言葉に、一つの記憶が私の頭の中に蘇ってきた。
「そうだよ!やろうよ、一緒に」
私は、前に興味をもって調べていた女子高校野球のホームページを思い出しながら叫んだ。そして、二人の元に走った。
「いきなり、なによ~」
鷹乃がそう言いながらも私を追う。
「やれやれ、一体どうした?」
愚痴りながらも紀子も続く。
「待って!羽衣」
二人に追いついた私は、羽衣の右肩を鷲掴み、こちらを振り向かせる。
「な、なんだよ」
不意を突かれた羽衣が顔をしかめる。
「え?え?」
來未に至っては、あまりの急展開にビクつくばかりだ。
そんなのお構いなしに、私は捲し立てた。
「羽衣。來未。私らと一緒に野球しよう!どっかで・・・たしか京都に連合チーム作ってるところあったんだよ。だから・・・だから、羽衣たちも私らと一緒にやれるんだよ」
「え?」
そんな私を見つめ、呆気にとられる羽衣。
展開についていけず目を白黒させる來未。
「はあはあ。ひな、ちょっと落ち着いて」
ようやく追いついた鷹乃が私をなだめようと、手を差し伸べる。
「こんなの落ち着いてられやしないわよ」
私は鷹乃の手を制しながら、再び二人に向き直った。
ドスゥ!
またもや捲し立てようとする私の腹部に重い衝撃が走った。
「落ち着けって、ひな」
見てみると、紀子が私の腹部めがけてタックルかましていた。
「ゲホッゲホッ。・・・ったく、加減しなさいよ、紀子ぉ。ゲホゲホ」
腹部を抑え、しゃがみ込みながらむせる私。
「ひなは体で覚えさせないと」
反論する紀子にさらに毒づく。
「わたしゃ、動物かなんかか」
そんな私と紀子のやり取りをほっときながら、鷹乃が二人を説得していた。
「私も、なんだか良くわからないんだけど、そう言う事みたいだから二人もどう?正直言うとね、私らのチームも人数足りてなくて・・・。でも、今までチームを支えてきた三年生を最後の大会に出してあげたいのよ。貴女たちが加わってくれると心強いな」
鷹乃がそこまで話し、二人を見つめる。
始めは戸惑っていた二人も、少しづつ表情が柔らんでくる。
「い、良いのかよ」
羽衣がオドオドしながらも問いかけてくる。
「・・・」
來未は未だに事態を飲みこめていないようだ。
しかし、すぐに羽衣から返事があった。
「そういうことなら、乗っかっちゃおうかな。・・・よろしく」
雲間から覗いてきた夕陽に照らされながら、その陽の光に負けないくらいの眩しい笑顔を向けながら。