異世界と創造と
景色がガラリと変わる。
一瞬自分の周りがモザイクがかかったようにぼやけ、すぐに直る。
無事異世界…ユニヴァスとやらにとんでこれたみたいだ。
ただ、本来一緒のはずの神はいなく、代わりに妹が腕の中にいるが…。
慌てることよりも妹と一緒という事に喜びが打ち勝つ。
いや、だめだろ!どうすんだこれ!…後どうでもいいけど妹の頭の上にウサギ乗ってる。ついてきちゃったみたいだ。
「いい子にしてます、云う事聞きます、だから、お願い、行かないで下さいっ」
テンパっているのか、口調が昔みたいに敬語に戻って泣いている。
ってのんきに妹の状態を分析してる場合じゃないか。
「落ち着け結衣、大丈夫、どうやらこの世界でも一緒みたいだ」
「えっ?」
といいながら今までとは違う地面の感触に気付いたのか、「もしかして…」と地面を踏み踏みしている。
俺たちは森の中に転移してきたらしく周りは見慣れない木々が並んでいて、地面は湿りあちこち水たまりが出来ていて、葉っぱから雫がぽたぽた垂れてる所を見ると先ほどまで雨が降ってたのかもと推測できる。
少し行った所に洞窟みたいなものが見えるなーとキョロキョロ辺りを確認し、ふと変な音がする方へ振り返ると10mくらい離れた所に…。
「呪いが早速発動したのかな…早速魔物さんっぽいのがお出ましだ…」
妹は「ヒウッ!?」と変な声を上げ固まっている。
「で、でかすぎだろう…こういうのって最初はスライムとかじゃないの?」
そこにいるのは元の世界でいう猪だ。それを自分の身長くらいの高さにし、毛並みのベースは赤のような茶色のような色に上から墨でもぶっかけられたかのような模様になっている。
左目は何か別の魔物にやられたのか、3本線の引っ掻き傷がありより一層凶悪に見える。そいつから生えている牙は鋭く、このまま突進してきたら妹の首、俺の心臓を貫く高さにある。
そんな奴が今にも走り出そうと右前足をズサッズサッと走る前のモーションをとっている。
よし…落ち着け。俺にはあの神から借りた力【創造】がある。やり方は教わってないがぶっつけ本番で行くしかない。
1回出来たんだ、次もできる。えっと確か…
俺は右手を前に出しイメージする。強くイメージする時、俺は目を閉じる癖があるみたいだ。
生き物には火がいいか。あの巨大な胴体を丸呑み出来るほどの赤い火。しかしただの火じゃダメな気がする。
新しく創るんだ。なら、普通ではない何か…火に質量を与えてみよう。ただの咄嗟の思い付きだ。
イメージが固まりついでに考えた安直な名前「マス・フレイム」と質量を持った火という意味を込めて付ける。
よし、行ける!
目を開き名前を叫ぶ。
「マス・フあっぶ!!!」
目を開いた瞬間見たのはもうすでに目の前まで迫ってきた猪。あとほんの少しで俺らの命を奪う牙が前に出した手を通り過ぎ俺の胸に到達しようとしている。
世界がスローモーションなった感覚に陥る。
死ぬ寸前ってほんとうにスローモーションになるのか。と。妹、守れなかったな。と
死をイメージする。
その瞬間ボアアアアアアアアアアアンという激しい音と共に右手から出た黒い炎が猪を飲み込み、質量をイメージした為か、炎にぶつり吹き飛んだ。
---スキル【創造】により魔法『マス・フアッブ』を作成。…消費ポイント60,000P。残り40,000P---
イメージとは違う色をしてたけど…ひとまず生き残れたか。
ふぅ…と力が抜ける。
っていうか創造して分かったが手持ちのポイント10万Pあったんだな。今のスキルで6万も使ってしまうとは、ちょっとやばいのではないか…しかも魔法名ちょっと待ってくれよ、確かにそう言ったけどね?マスフアッブってなにこれカッコ悪!!!黒い質量を持った炎というかっこよさげな魔法なのに名前で台無しである。
「…予定通りだ。魔物は退けたからもう大丈夫だぞ」
想定外の事ばかりだが妹の前では恰好付けてしまうのが兄の性。
体に横から抱き着いたまま固まってた結衣の頭をポンポンとして落ち着かせる。
「ほ、ほんとう?すごい、お兄ちゃん!」
そう喜んだ後ハッとして自分がしてしまった事を思い出したのか、謝ってくる
「ご、ごめんなさい、私もうお兄ちゃんに会えなくなるかもと思ったら体が勝手に動いて、それでっ」
必死に謝ってくるが別に怒る気もなくまぁなんとかなるだろうと思っていた俺は黒い炎で包まれていた猪が何も残らず灰になったのを横目で確認しつつ相変わらず甘やかす。
「いいさ、やることは変わらないし、お兄ちゃん1人で異世界を旅するより妹と2人で旅する方がいい」
「お兄ちゃん…うん、私に手伝えることがあったら遠慮なく言ってね。」
「ああ、頼むよ。…それにしても風が強くなってきた。…っていうか強すぎるな!?」
時間が経つごとにだんだん強くなってきた風に雨も混じってきた。
そういえば台風の目を軸に門を開くとか言ってたっけ!
出口も台風のど真ん中だったってことか!?
とりあえず妹の手を引いて洞窟のほうへ向かう。その時灰になった魔物を横切り、ふと気になって後ろを振り向くと走ってついて来たうさぎが灰の中に突っ込み、灰に隠れていた物が転がってきた。一応回収していく。赤と黒の模様の野球ボールくらいの玉だ。何かに使えるが分からないがポケットにしまっておく。ついでにウサギも抱えていくことにした
雨宿りする。
灰まみれのウサギをパッパッと払い、軽く汚れを落として結衣に渡しておく。
洞窟は結構広く、天井まで5メートルくらいありそうだ。
「結構奥まで続いてそうだけど暗いな…」
注意して見てれば何か出て来ても大丈夫かなと考え、洞窟の端に溜まった落ち葉を集め始める。
「なにしてるの?」
「ちょっと雨で濡れちゃったし焚火でも出来ないかなと思って枯れ葉を集めてるんだ。」
よし…と少し離れ
「さっき覚えた魔法で火がつかないか試してみるからちょっと下がってて。」
「うん。」
流石にさっきの威力で撃ったらやばいことは分かる。が、調整の仕方が分からない。
それにこの覚えたスキルは使えるのかの確認だ。
「小声で言ったら弱くなるかな…」
と右手を落ち葉に向け咄嗟に言ってしまった言葉のせいで変な名前になってしまった魔法名を口にする。
「『マス・フアッブ』(小声」
ボアアアアアァァァァァン。ドゴン!!バキバキバキッズシーン。
かき集めた落ち葉は吹き飛び、念のため外側に向けて撃った黒い炎は円球のまま勢いよく木にぶつかり、それを根本からへし折ってしまい倒れた。黒い球はぶつかったと同時に消えていたが、なぜ木が燃えてないのか分からなかった。妹に渡したウサギちゃんの目が見開いていた…驚かせてごめん。
誰か魔法の使い方教えて下さい…。
「お兄ちゃんなにしたの…?」
「あ、いや、ちょっと炎の威力が強すぎて色々吹っ飛んじゃった…」
「しょ、しょうがないよ。魔法?初心者だもんね…」
魔法を使っても一度覚えた魔法はポイントが減らないみたいだ。
そのかわり少し…いや結構疲れた。
ポイントの代わりにスタミナが結構減るのか、それとも魔力というものが自分にも流れていてそれが減っているのか?どちらにせよそこまで連射出来るものではないから複数に囲まれるとこれじゃ対処できないな。
「っ!足音…奥から3人分くらいの足音がするよ!」
そう妹が言った5秒後に俺にも聞こえてきて、俺たちの前に姿を現した。妹は目が視えない分耳が結構いい。
…小さいおっさんが3人、長い木の棒に尖った石を括り付けただけの槍を構え、こちらを警戒している
身長は俺の半分くらいしかないからこれは何かの種族だろうか。
「そこの黒髪2人!何者だ!人族がここへ何しに来た!」
なぜここが…バレるのが早すぎる…
と後ろの二人が呟いている
「いや、俺たちは別に怪しい者では…今日から旅を始め突然の雨風に晒されてしまったので洞窟で雨宿りをと…」
こくんこくんと妹も俺に合わせて頷いてくれる。
「…手ぶらでか?」
「そ、それはあれです、あれ…」
チラっと妹を見て
「俺たち駆け落ちしたんです!妹との結婚を認めてもらえず、親と話してるうちにカッとなって二人で!!」
「っ!」
こくんこくんとまた妹が頷く。
ここもちゃんと合わせてくれた!顔真っ赤だけどね…ごめん、ごめんよ。こんなことしか思いつかず…
「ふむ…それはいろいろ周りの目も大変だっただろう…しかしリベルタスが通るなんて運が悪かったな」
し、信じてくれたのか、いいのかこれで
「リベルタスっていうのは?」
「ああ、知らないか。風を纏った魔物らしく、Sランクの魔物に認定されていてな。直接襲ってきたりはしないんだが、通るだけでこの有様よ。スピードも遅いから1,2日は収まらないな。」
台風じゃなかったのか…
「それより腹減ってるんじゃないか?さっき狩ってきた魔物を捌いてる所なんだ。今晩くらいは御馳走してやる。」
付いてこい。と洞窟の奥へ進んでいくので妹の手を繋ぎ後ろから追いかける。
「俺の名前はガインリッヒ。ガインと呼んでくれ!後ろの二人はデリルとムアイだ。」
先頭を歩く一番年上っぽく見える赤茶色髪のおっさんが歩きながら名前を教えてくれる。
「デリルっす」
「ムアイだ」
青髪のどこか頼りなさそうなおっさんがデリル。緑髪の不愛想なおっさんがムアイ。
特徴的で分かりやすいな。
「俺たちはエド族。エルフとドワーフのハーフが集まって暮らしている部族だ。知っているだろう?」
この世界で最初に出会ったのがエルフとドワーフの混同種族か。知っているだろうと聞くぐらいだから常識なのだろうか?
「いえ、すいません余り外の事は分からず…ですね」
「なんだ?箱入りだったのか?まぁそういう奴もいるか。まぁ俺たちは人族じゃないってだけでかなり下に見られるのにその混同種族ともなると人として扱われん。俺たちは散々な目を見てきたがスキをついて逃げ出し、ヒソヒソと移動しながら暮らしてるわけだ。最初は数人だったが今じゃ結構な人数になっておる。」
そうなのか…
種族によって差別があり、人間…人族は上に立っているということか。
ん、そうしたらなんで
「あなたから見て俺たちは人族だと思うんですが、いいんですか?嫌な思いをさせられてきた人族をそんな隠れ家みたいな所に連れて行っちゃって。」
赤髪のおっさん…ガインはン?と少し考えて
「ガッハッハッハ!ワシは人を見る目は確かじゃ、人族の中にもイイ奴はいる。それは分かっているからな。」
「ありがとうございます」
素直にお礼を言っておいた。
「ところで…妹さんが持ってる魔物みたいな物はなんじゃ…?襲ってこんの?」
「これはウサギですね、魔物じゃないですよ」
「うさぎ?ほぉ…初めて見るな。兎人族の耳に似ているな」
こっちのウサギは人型だったか!ウサギ事態はいないってことなのかな。
そんな話しをしていると「ほら、着いたぞ」と言われる。
テントみたいな物はなく、下に藁みたいな物を敷いて寝ていたり、子供(といっても大人と身長はあんまり変わらないが顔が幼い)が走り回ったり牛っぽい魔物を捌いてる人が居たりする。
俺たちが近づくと全員の視線がこちらに集まる。
「こいつらは大丈夫だ!俺が保証する!」
そういうと警戒を緩めてくれたのか、元の作業に戻ったり、そのままジッと見てくる者で別れる。
そんな中、奥のほうからかなり歳が高そうなおばさんが歩いてくる。隣でガインが「あれがここの長ジェレン婆さんだ」と話してくれる。
「ガイン、さっきの音はなんだったか分かったんカ?」
「アっ」
ガインが気まずそうに目を逸らす。
「ガイン…全く。…黒髪の人族よ、さっきの音はお前達かノ?」
さっきの音…マス・フアッブの事か?後黒髪黒髪って黒は珍しいんだろうか…?
「すいません、魔物に襲われまして慣れない魔法で撃退しようとしたら強く打ち過ぎてしまいまして…」
「ふむ、大丈夫だったカ?この辺りにはヴィルトシュヴァインというA級の魔物がうろついておる。赤と黒の色を持つ魔物に出会ったら悪いことは言わない、すぐ逃げることだナ。」
…んん?赤と黒の猪ってさっき灰にしてしまった奴では…
「あやつがおるせいで、うちらも中々ここを移動することが出来なくてナ。もう食糧も尽きて来てしまい、少数で奴にみつからないよう狩りをして凌いでる状態ダ。本当に困っタ…」
「あ、あの…その魔物はもしかしたら先ほど俺が灰にしてしまったヤツ…かもです…はい。」
「グァッハッハッハ!おいおい、お前みたいな若造が倒せるわけないだろうあいつは魔法もろくに効かないしなあガッハッハッハ!」
「うるさイ」
「イデッ」
長が杖替わりにしている木の棒でガインさんを叩く。
「ゴホン、まぁこいつの言う通りにわかには信じられない事なんだガ…」
あ、そういえばあの玉…と思いそれをポケットから取り出す。
「そういえばこんな物が出てきました。」
「「………」」
二人とも驚いた様子で無言だ…大丈夫かな
「ま、まじか!この色、大きさ。アイツのとしか考えられねえ!」
「まさか本当ニ…助かった、倒してくれてありがとウ。長としてお礼を言ウ。」
すげえ!でけえ!初めて見るぜ!と興奮しているガインとやっとここの生活から抜け出せる…と安心するジェレンさん。
二人とも喜んでくれた。
「お兄ちゃん、やったね!喜んでくれてるみたいだし、ポイント入ったんじゃない?」
「ん、そういえばそうだったな。確認できるのかな?んー」
ンーとうなりながらポイントー確認ー創造ポイントーと思っていると、フィン!と音と共にゲームのステータス画面みたいなのが出てきた。
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天使蒼汰
年齢:18歳
種族:地球人
スキル
【創造】[48,000P]
魔法
【マス・フアッブⅩ】
┗創造魔法:生ある者を燃やす。それ以外は燃えない。
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「お、4万が4万8千になってる!」
「おー1人4000ポイント!」
「それと俺の魔法…生ある者を燃やすって怖…生きてる者にしか効かないって事か。」
「お兄ちゃんを怒らせたら燃やされるっ!ヒィィあいたいっ」
そんなことするわけないだろう…と軽くチョップする。
このレベル10っていうのは強いのか判断付かないが、さっきの魔物は強いらしいしきっと強力なんだろう。6万ポイントは痛いと思ってたけど強いならいいか。
創造…思い通りに創るのは結構難しいのかもしれないなぁ、まぁまだ初回だしこんなものか。
そんなやり取りをしている所に見ただけでとても弱り切っているとわかる子がこちらへ寄ってきた。
肩までの赤い髪に瞳も綺麗な赤色で申し訳程度に横に尖がった耳の女の子。
「魔法、を…あたしに魔法を、教えてくださいっ!」
そう言ってきた所で気絶してしまう。倒れそうになった所を咄嗟に支えてあげるが。
こ、これどうすれば…
気付いたジェレンさんが駆け寄って来て、「そのままこちらに連れて来てくださレ」
というので移動する。
次も明日の18時です。