妹は
初投稿で2連投!成功してるかな?
私の名前は天使結衣。
どうやら私は普通の状態では産まれる事ができなかったみたい。
そのせいで親戚のおじさん達には可哀そうにと言われ続けて来た。
でも私はそう思ったことはない。
なんせ最初から"視る"という感覚が分からなかったのだから。
私の世界ではいつも2つの種類の声が聞こえていた。
1つは怖い声。よく怒っていて、怒鳴る声と共にお母さんが苦しそうな声を上げる事がある嫌な声。お父さん。
もう1つは優しい声。私を大事にしてくれて、物語をよく聞かせてくれた好きな声。私のお母さん。
そんな優しいお母さんは8歳の頃に失われる。
「ちょっとお夕飯の材料が心元ないから、お買い物してくるね」
と優しい声で少し家を空けるという。
「わ、私も行く!お買い物の袋持つよ!」
とお手伝いの申請を出したが
「大丈夫よ。すぐ帰ってくるから待ってて」
優しく頭を撫でてからお母さんは買い物に行き・・・二度と帰って来なかった。
お前の母親は事故で死んだ。
そう怖い声で言われた
死というのはどういう状態なのかよくわからなかったけど、もうあの優しい声は聞けないという事だけは分かった。
その日はずっと泣いていた。泣いている所をお父さんの近くですると怒鳴られた。それからは隠れるように泣くようになった。
それからは辛い日々が続いた。私によくしてくれる人はいない。
ごはんは誰もいないときにテーブルの上を手探りで探すとパンやおにぎりがあったりなかったり。
もう何も考えられなかったし、何も行動しようとも思わなかった。
怖い声のみとなった家で私の居場所は無かった。
そんな生活が1年間続いたある日、お父さんが私を連れ出し車に乗せられる。どこへ連れて行かれるんだろうと内心ビクビクしながら目的地への到着を待った。
途中で女の人が助手席に乗ってきてお父さんと楽しそうな声で話している。
私は居ない者扱いだ。
車が止まり、エンジンも止まった。
どうやら目的地に着いたみたいで私も車から降ろされる。
「今日からここがお前の家だ。」
そういわれて新しい家に通された。
家の中には誰か居る用で、女の人が「再婚する」と言い、いくつかやり取りした後お父さんを連れて家から出て行ってしまった。
「えーっと・・・」
思わずビクッとする。
男の人の声だ、正直怖いイメージしかない。
「こんにちは、俺の名前は蒼汰。高校1年だ。突然ことで俺もちょっと理解が追いついてないんだけど、よろしく・・・?あー、キミの名前は・・・?」
簡単な自己紹介をしてくれて、男の人だけど・・・優しい声だなって思った。
「わた、私は、結衣、です。」
久しぶりに声を出したせいか、少しかみかみになってしまった。
うう・・・ちょっと恥ずかしい。
「結衣ちゃん・・・いや、結衣!」
「は、はいっ」
びっくりする。
なに言われるんだろう・・・と思っていると
「今日から俺らは家族になったらしい。つまり兄妹なわけだ、遠慮せず結衣と呼ぶぞ、うん。」
兄妹。
よくお母さんが読んでくれた物語でも度々出て来て知っている。
同じ家で暮らすその家の子供達。仲良く談笑したりお菓子を分け合ったり。時には喧嘩したりもするけどまた仲直りし、いつも通りに。
私にもそんな存在が居たらまた違う人生を、楽しい人生を送れてたのかもしれないと妄想したこともあったが、手に入らないとも分かっていた。
だが・・・
「おにい・・・ちゃん・・・?」
「っ!そ、うだ。お兄ちゃんだ。」
いきなり出来たお兄ちゃんに、私は戸惑い立ち尽くしてると
くぅーとお腹がなってしまう。
「あっ、こ、これは、ごめんなさい・・・」
思わず謝ってしまい、恥ずかしくて俯いてしまう。
だって、ずっといい匂いがするんだもの。お腹もなっちゃうよ・・・と心の中で思っていると
「あ、お昼にビーフシチューを作っててね!多めに作ってあるから一緒に食べようか。あー・・・結衣は・・・、そうか。左手失礼するね?」
そういいながら私の左手を優しく掴んでくる。
暖かい手。こんな感じに手を取ってくれたのも1年ぶりの出来事で、心がざわざわする。
「ここが椅子ね。」
丁寧に椅子まで案内してくれる。
「ちょっと待ってて。」
お兄ちゃんが遠ざかり、少ししてまた戻ってくる。
いい匂いと一緒に。
「ほいどうぞ、これスプーンね。1人で食べられる?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
まだ兄妹としてどう接していいか分からず敬語になってしまう。
そんな事は気にせずお兄ちゃんは「隠し味にコンソメを入れてるんだ、うまいぞ!」と料理が得意なのか味に自信があるみたいで得意げに話している。
料理の事は分からないので反応できなかったけど、食べてみて感想を言おうと思い食べ始める。
「いただきます。」
「おー召し上がれ。」
・・・温かい。
考えてみたら久しぶりの温かい食べ物だ。
それに凄く美味しい。これなら得意げにもなってしまうと思う。
本当に・・・美味しい。
ぽろ。ぽろ。と涙がこぼれて来てしまう。
「っ!?ご、ごめんよ!まずかったか!?」
とお兄ちゃんが慌てた口調でそう尋ねてくる。
「ち、違います、美味しく、て」
ポロポロと、涙は自分の意思とは逆にどんどん出てきてしまう。
「あたたかく、て」
言葉がほかにでてこない。
そうやって泣いているといつの間にか横に来たのか、すぐ隣から声がした。
「どうした、辛いことでもあったか?これからはお兄ちゃんがずっと一緒だ。大丈夫だ。何からでもお兄ちゃんが守ってやる。約束だ。」
そんな優しい言葉を頭を撫でながらかけてくれ、もう涙は止まらなかった。
お兄ちゃんとの出会いは今でも大切な思い出。
あのやさしさがあったから今の元気な私でいられてる。
そして今日・・・色々あった今日。
途中まではただの笑い話で済む話しだったけど、そんなわけにはいかなくなってしまった。
お兄ちゃんが、異世界に行くという。私の目を治すために。それは私の為ではなく自分の為だという。
「おにい・・・ちゃん・・・」
それでもダメだと。今まで通りでいいから、それ以上は望まないからと。
言葉をする前に
「頼むよ、兄ちゃんの最初で最後のわがままを聞いてくれ。」
・・・ずるいと思った。
「ず、ずるいよ・・・そんなの・・・ずるいよ・・・」
思うだけではなく言ってしまった。
お兄ちゃんは目が視えない不自由な私に何一つ文句を言ったり面倒臭がったりせず、いつも優しく接してくれていた。
そんなお兄ちゃんがわがままを聞いてくれと。初めての。
本当にずるい・・・
「・・・話しはついたかの?そろそろ行かないと門が開けなくなってしまうのじゃが」
もう、時間がないみたい
「それじゃ、頼みます」
そうお兄ちゃんが言うと何かが震えるような音が聞こえてくる。異世界に行くための入り口なのかも。
そう思ってるとお兄ちゃんがその音の方へ向かい、止まる。
コニラ様も同じ場所に乗ってるようだ。
力があまり残ってないらししく二人しか行けないらしい。
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。お好み焼きは・・・ごめん、明日作るから。」
「おにいちゃん・・・」
お兄ちゃんが行ってしまう。
でも、明日になったらひょっこり帰ってくるよね。
大丈夫、ずっと一緒だって言ってくれたし、お兄ちゃんは約束を守る。
「よーしじゃいくのじゃー」
ひと際震えるような音が大きくなる。
そうするとお兄ちゃんが言った。
私にとって、それはトラウマな言葉だと知らずに。
「大丈夫だ結衣、すぐ帰ってくるから待っててくれ。」
「っ!」
お母さんが残した最後の言葉と同じような言葉を。
危険な場所へ向かうという兄がその言葉を。
また失ってしまう、また一人になってしまう。
そう考えることしか出来ず、気づけば動き出していた。
「ダメッッ!いか、いかないで!おいてかないで!」
必死になり、お兄ちゃんが居るところに駆け出し、手を伸ばす。
その手は・・・
届いた。間に合った。
勢いよく兄に抱き着いた為近くに居たコニラは
「へぶっ」
と変な声を出しながら転がっていき、慌てた様子で
「ちょ、ま、待つのじゃ」
その言葉は途中で途切れ、聞こえなくなる。
細かい説明も、異世界の知識も無い二人がこうしてとばされる。
【創造】という力と共に。
書き溜めがあるのでとりあえず今月は平日18時更新毎日出来そうです。