青い月
遅くなり申し訳ない!
今日から平常運転に戻ります
・・・終わった。もう日が沈み始めている。2日連続でこんなに大判焼きを作るとは思わなかった。他の皆もお疲れの様子でぐったりしてるが1人だけ元気な子が居た。
「おにー、さん!おにー、さん!これ、おにーさんが、考えた、ですか?」
あまり言葉が上手くなく、丁寧に喋る姿は毎度微笑ましい。本当に料理が好きみたく終始にこにこと笑顔を絶やさなかったルナが仕事終わり聞いてくる。屋台が離れていた為お喋りしながら作るという事も出来ず、ただ皆黙々と作っていたのだが、チラチラ視線を送ってきていたので何か聞きたかったのだろう。それで先ほどの言葉だ。
「ああ、そうだよ。他にも色々あるけど…今回は大判焼きで勝負したら大勝利だ」
少し後ろめたくもあるがそういう事にしている。商人として地球の物を提供するとかなり喜ばれポイントも入るので、少しでも有名になれば集めやすいだろうと踏んだからだ。それに慣れられたら入るポイントも減るかもしれないが…その時はまた別の事を考えよう。
「いい、なぁ。私も、お兄さんの、食べてみたかった、です…」
あれ、そういえば途中休憩挟んだものの何か食べたりしなかったな…これはまずい。間に合うか分からず必死に作って居た為そこに頭が回らなかった。思い出すと自分も腹が減ってくる。
「まだ時間はあるな…皆戻ってきたら配るのにまた時間取るし俺らは先に食べるか。」
屋台の大判焼きを焼く道具を【次元鞄】に片付けジェレンお婆さんの元を去る前に分けてもらった魔物の肉をを硬い鉄板の上にひき、包丁でズッタズタにしていく。やばい身体強化のおかげで包丁だけで楽々ひき肉が出来る。そこからボールを取り出しスパイスを少々入れる。丸い形に整えたらキャンプセットを創造した時に付いて来たカセットコンロを出して人数分焼いて行く。
「っ!お兄、さん!料理するですか?見たことない、道具です…!凄い、です!見てても、いいですか?邪魔に、ならないように、するので、お願い、します!」
興味津々と言った様子で狐の尻尾をゆっさゆさ揺らしながらお願いしてくる。
「ん?もちろんいいぞー、作るのは簡単な物だけどね。なんなら手伝ってくれるか?」
「い、いいのですか!やったぁ!」
(ぱぁっ)と顔を輝かせて喜ぶ。本当に料理が…ってそれはもういいか。
朝食べきれなかったパンを【次元鞄】に保存しておいたのでそれを取り出し、ルナに横半分に割るように切る用頼む。
「綺麗な包丁、なのです。私に、ぴったりで、小さくて、使いやすい、です。」
渡したのは果物ナイフだ。刃物を渡すのはどうかなと思ったが料理が好きなんだしこれくらいは大丈夫だろう。
「凄い、です!スーッって、スーッって切れ、ました!」
いやもう一々反応が可愛い。妹とこんなふうに料理するの夢だったな…勿論目が治ったら実践するつもりだが。
露店で買った野菜っぽい物をズラッと並べてどれが合うかなと眺めているとどんなものを作るか察したルナが、「これ、とか、これを、挟めば、合いそうです!」と教えてくれたのでそうしてみる。
これは確かマトトとマルサイとかいう野菜だったはずだ。異世界のトマトとレタスだな。味はそうだが色はピンクとまっ白だけど特に気にする事はないだろう。
こちらの世界のチーズとはまだ出会えてないので昨日の朝使って余ったものを取り出し、焼けたパテの上に載せ溶けるまで蓋を被せる。
出来上がれば後はマスタードを塗ったバンズにパテ、マトト、マルサイと挟めば異世界バーガーの完成だ!一度じゃ作り切れなかったのでもう一度ルナに手伝ってもらいながら同じ工程を繰り返し人数分完成させる。
大判焼きを包んでいた紙を使って包み、出来上がったので皆を呼ぶ。
「わ、私も、食べて、いいんですか?」
「そりゃもちろん、手伝わせておいて食べさせないなんてそんな酷い奴に見えたのか…悲しい」
「ち、違うです!お兄さん、優しい、です!ありがとう、です!」
自分が食べられるとは思っていなかったのか喜ぶルナ。尻尾をぶんぶん振りながら着席する。
「わ、私達もその・・・本当に・・・いいんでしょうか?」
「うちら奴隷なのにこんなうまそうなもん貰っちゃっていいんですかい?ダンナ」
ルナと同じく借りた奴隷イーヤとセラもこんなことを言ってくる。奴隷って普段どんな物を食べてるんだろう…まぁうちはうち、よそはよそ。
「かまわないよ、遠慮なく食べてくれ。」
奴隷達3人と俺ら三羽の野兎3人、計6人で異世界バーガーを食べる。中々好評で結衣とシエラからおかわりの声を頂いた。奴隷達は何も言って来なかったが、顔がまだ食べたいと物語っていたので全員分さらに作る。
そうしていると続々とゴミ袋を抱えた人達が集まって来た。
その中にセーラも混じっていて、こちらに気付くと一歩踏み出すがちょっと躊躇し、やっぱりこちらに走ってくる。服装はいつも通りに戻っていた。
「も、もしかして何か食べてたの?ずるいなぁ私も食べたいなー!」
「意地汚いですぞ姫様。蒼汰様もお疲れのご様子、ご無理をさせてはいけませんぞ。」
「オレもなんか食いてーなー」
「団長殿まで・・・」
セーラに続いてゼルさんとミミも付いて来た。もしかしたら来るかもと思い3つ多めに作っておいて良かったな、まぁ来ると思ったのはセーラとミレイユさんとトーリーさんあたりかと思ってたんだけど俺の勘は当てにならないね。
「丁度多めに作ってあったので大丈夫ですよ、ゼルさんも一緒にどうぞ」
「やった、流石蒼汰さん!」「すいません。では御相伴に預からせて頂きます」「ラッキー!肉だ!」
自分が作った物を皆に食べてもらうのは嬉しいが、実はいつも少し緊張している。今まで親と妹くらいにしか食べさせてこなかったからな。それが美味しい美味しいと食べてくれたら作るのがますます楽しくなってくる。将来そんな仕事に就くのも悪くないな…。
「やっぱり蒼汰さんの料理は美味しい…具材をパンに挟んだ食べ物は良く見るけどこんなにお野菜とお肉がマッチした食べ物は初めて。」
「野菜を選んでくれたのはルナだけどな」
よしよしと褒めながら頭を撫でると「えへへ…」と照れながら俯く。隷白館でのあの言われようだと褒められ慣れてないのだろうな。
「うめっなんだこれうんめ!」
食べてる途中の執事のゼルさんの分も奪い取ってモグモグ食べてるミミはとても異世界バーガーが似合っている。なんか…取り巻きを連れてマッ〇に居そう。
そんな事を考えて居ると進行役の人が湖の前でまた声を上げる。
「はーい皆さんお疲れ様でした!リリオでーす!ではお待ちかねの、今回月青賞をとりました『三羽の野兎』さんから大判焼きが配られまーす!空いてる列に並んでお待ちを。『三羽の野兎』さん準備をお願いしますね。」
おっと、もうそんな時間か。
イーヤとセラにルナ。シエラに声を掛け、結衣と6人とミミの団員、騎士団の人達にも手伝ってもらい配っていく。月青酒が入った樽も後ろに積まれており、ついでと言わんばかりに大判焼きとセットで渡してほしいと頼まれたので渡している。
1時間もかからず全員の手に大判焼きと月青酒が渡る。大判焼きは温かいうちのほうが美味しいので皆先に食べているが、月青酒は月が青に変わってから飲む物だと認識されている為まだ誰も手に付けていない。
既に空は暗くなり、まだ普通の色をした月が街を照らしている。すると突然月の大きさが変わる。昨日見た時の数十倍くらい大きく見えるようになったのは街の結界に特殊な細工がされており、この月青祭に合わせ地球で言う望遠鏡の役割を結界が果たしてくれているようだ。空一面が月に覆われていてこのままこの街に落ちてくるんじゃないかと錯覚するくらい近い。
もちろん街の外から見ると月はいつも通り遥か上空に位置している。
「さあみなさん!もうすぐ月が真上になります、青くなりますよー!」
流石進行役。リリオさんがそういうと月が徐々に青に染まっていく。青い月明りが透明な水に反射し湖と月の間に縦のオーロラみたいなものが浮かび上がる。あっという間に幻想的な空間が出来上がり人々は感嘆の声を上げる。
そして思い出したかのように皆手に持った月青酒を呷った。
「…凄い綺麗、ロマンチックね。」
シエラは月青酒の事は忘れ湖をボーっと見つめている。
ロマンチックなんて言葉この世界にもあるんだなと蒼汰は場違いな事を思っているが目は湖を見据えたままだ。
「…来年また来ような」
結衣の頭に手をのせてそういうとつまらなそうに月青酒の匂いを嗅いでいた結衣が「うん、約束だからね!」と言ってくる。
また1つ目が治ったらの約束が増えたな。
「よし、俺らも月青酒とやらを頂くとしますか!」
蒼汰がそんな発言をした瞬間青に包まれていた幻想的な空間は一瞬で赤に染まった。
・・・え?赤にもなるの?と思ったがどうやら想定外の出来事らしく、隣でセーラが驚愕の顔で固まっている。街の人達は…全員目が虚ろになっていた。
「何が起きやがった!」
ミミは無事らしい。
シエラと結衣も俺の服を掴んで来ているので大丈夫のようだ。イーヤも大丈夫そうだがセラは目が虚ろになっている。大丈夫な人の共通点は…ハッと気づき月青酒を鑑定する。
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・月青酒
┗混入:???の血
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「月青酒だ、皆月青酒は飲むな!」
蒼汰が叫ぶと皆持っていた月青酒を捨てる。
迂闊だった。この世界の事は神コニラから聞いていたのに警戒が足りなかった。
「私、少し、飲んじゃった…」
「セーラ!」「姫様!?」
「大丈夫、少し頭がボーっとするくらい…」
「ブローチのおかげで助かりましたか、色々な毒を防ぐ魔法具になっていますからな」
ゼルさんがそんな説明をしてくれる。
良かった。しかし他の人たちはどうすればいいんだ?レベルⅩの鑑定でも分からないものがあるとはな…どう治す?どんな魔法なら効く?新たに創造するか…?蒼汰が治療方法を頭の中で模索していると上空に1つの影が現れる。
「くふふ、天使蒼汰…簡単には引っかかってくれないのね。傷はつけたくなかったのに」
上空から声が聞こえ動ける者全員が空を見上げる。青い月だったものは今は赤…その赤は黒に近い赤、血の色が思い起こされる。血色の月と言った所だろうか。
それをバックに宙に立つ少女。真っ白い長い髪と一緒に黒いマントをたなびかせ、目は今の月と同じ赤い色。逆光となっている為詳細な姿は見えずらいが、目だけは不気味に赤く光っている。
少女の周りに飛んでいるのは…コウモリか?
「お前がやったのか?何が目的だ。」
問いかけ時間を作り、その間に鑑定を行う。
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シャロ・ルイーズ・ヴァンネリカ
年齢:84歳
種族:???
スキル
【???】【???】【???】【???】
【???】【???】
魔法
【???】【???】【???】【???】
【???】【???】【???】【???】
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・・・駄目だ、何も分からない。どうなってんだ?
「ワタシがやった。目的はあなたを捕まえる、もしくは…殺す。天使蒼汰…でしょ?大人しくワタシに捕まってよ。そちらの妹と一緒に。『…眷属よ、ワタシに糧を。集血』」
目が虚ろになっている人たちから直径5cmくらいの赤い球が口から吐き出され、少女の手に吸い込まれていく。
「っ!お、お兄ちゃん…」
「大丈夫だ、姫様と一緒に下がってろ」
俺を殺す…か。こいつとは初対面のはずだ。理由はなんだ?誰かの差し金か?だとしてもそんな恨みを買った覚えはないんだが。まあなんだとしてもやる事は変わらない
「…とりあえず周りが邪魔ね。」
・・・!こいつまさか!流石にこの人数を守れないぞ!
「どいて!」
そう目の前の少女が声を上げると虚ろの目をした人たちは無表情のまま歩きだし、湖の広場から出て行くが、広場を見える位置で止まった。
・・・なんだ、殺すわけじゃなかったか、目的は本当に俺ら兄妹だけなんだな。
「なんだか知らねえがアイツをぶっ飛ばせばいいんだな?」
ミミが剣を構えながら跳躍する。既にその剣には炎が纏われていて準備万端だ。
「ブッ飛べ!炎の波動!!」
斬撃が閉じ込められた炎弾が白髪の少女、シャロに向かっていくが慌てた様子もない。
「あなたに用はないのよ。『雷雲より生まれし力を解き放て、電砲』!」
「なにっ!グッ…!」
雷弾が炎弾を貫く。雷系統が火系統に強い訳ではない。単純な力量、レベル差だ。雷弾はスピードを落とさずそのままミミに直撃する。
ミミはそのまま少女に斬りかかろうとしに行ってたみたいだが魔法をくらい地面に落とされる。幸いそこまでダメ―ジを負ってないみたいだが…
「クソッ、体が痺れる…!動け、この…!」
麻痺か、厄介だな。
しかしここで思わぬ人物が声を上げる。
「あ、あの…!私…治癒魔法が少し…出来ます。見せて…下さい」
奴隷の一人のイーヤだ。こんな特技があったんだな。
「余所見してていいの?『…そこに揺蕩うは見えざる雷神、静雷の拘束』!!」
「っ!しまっ!」
雷系統の拘束魔法。
物理的なもので拘束されてるわけではないので中々自力で解除できるものではない。
「電気の拘束か…くそ、どうすれば解除できる・・・ん?電気…試してみるしかないか」
「これで終わりよ。『我らが友、霹靂神よ。我が血を贄に古き雷の旋律を戒め、その魂を昇華せよ。祖は雷神、子は鬼。汝らの門を開き万雷を齎せ!古の雷!』」
青い閃光が1直線に蒼汰に解き放たれるが蒼汰はというと魔法の詠唱が終わる前に自分で自分を【砂束縛Ⅹ】を重ね掛けガチガチの魔法が通った土で固めていた。
「そんな小細工で…えぇっ!?」
パァン!という音がすると、蒼汰に纏っていた土の塊は全て吹っ飛んだが蒼汰は無事で、バインドも解けている。しかし弾かれた青い閃光は雷の束。ほとんどは霧散したが、一本結衣達が居る方向に流れてしまう。
「―!結衣!!!」
「――ぇ?」