ミミ・ヴォルドインの話し
蒼汰視点ではありません。
5/25 ミミの魔法名が一部間違えていたので修正
話しは遡り、蒼汰達がまだパランルーナに着いたばかりの頃。
オレの名前はミミ・ヴォルドイン。
パランルーナの姫に仕える騎士団、その団長を務めている。騎士団と言ってもここは小さい街で城もない。オレは姫様の護衛がメインの為同じ屋敷で寝泊まりしているが、他の連中は屋敷の隣にある騎士団専用の館に居る。この街は基本平和なのでパトロールで1日終わる事も多い。
今日は久しぶりに姫が屋敷に籠って書類を片付ける為に1日使うと言ってたので暇潰しに本日パトロール予定の隊士3名に後ろから付いて行き、時間が余れば騎士団長自ら鍛えてやるかと考えていた。
街の中を回る隊と外を回る隊があるのだが今回は外だ。街の中を回っても大したことはおきない。夜回れば酔っ払いが暴れるのを取り押さえたりするのが多くなるが…隊士の奴らで大体なんとかなる。なんとかならないのも1部居るけどな。
今日は南の森『ヴァイト大森林』の近くで森から魔物が馬車道に出てきてないかの見回りだ。あそこはデナイアルやトシュが多いからな。盗賊だってそこらじゅうゴロゴロいやがる、あいつらは捕まえても捕まえてもいくらでも沸いてくるからな…今まで何人奴隷送りにした事か。
何体かの魔物を前の張り切ってる3人が倒し、後ろでボーっとしているオレの頭の中はやっぱり鍛錬でもしてれば良かったかと思い始めて来たころ前方に異様な光景が映る。
「なんだあれ…」
人…あの身なりは盗賊か。盗賊が仲良く座って…縛られて助けを求めてる。助けを求めてるのは縛られてるのを解いてほしい訳ではなくデナイアルが3匹今にも襲いかかろうとしていたからだ。
「綺麗に3匹並んでまとめて斬って下さいって言ってるようなもんだな…我が刃に断罪の炎を!【炎を纏う剣】!」
何百回、何千回と唱えた魔法を走りながら発動。普通は詠唱に集中する為動くと発動しない事が多いのだが極めればそれも可能だ。
「うらああ!【炎刃よ舞え】!!」
炎の斬撃が盗賊の塊スレスレを通り、デナイアル3体を一撃で焼き斬る。
流石にこの人数をこのまま連れて行くのは時間がかかるので【砂束縛】で縛られている盗賊達の砂の部分を思い切り殴り解除しようとするが、叶わない。
「か、硬…なんだこれ…」
何度も殴り、キレて炎の斬撃をぶっぱなし、近かった男が気絶したりと色々あったがそれでも【砂束縛】は解除されることがなかった。
「仕方ねえ…お前ら手伝えー」
「「「はい!!!」」」
歩けば1時間程で街に着くが盗賊達は皆向きがバラバラに向いているためかなり歩きにくい。そのため移動も遅く街に着いたのは2時間後だ。もっと遅くなりそうだったがイライラしたミミが後ろで殺気を出しながら歩いていた為盗賊達の心が一つになりスピードが上がった。
街に着き小さいころから世話になっているミレイユの所に盗賊達を連れて行く。
着いた瞬間声を掛けたが接客中だった。見ない顔で変わった服装の黒髪の2人と赤髪の子供。1人は腰に細い剣をぶら下げていたので少し気になったがとっとと自分の要件を済ませようとする。
そうするとどういう事か盗賊達がその黒髪の少年を見て突然発狂し始めた。聞くと盗賊を縛ったのはこいつだという。
正直こいつらを運ぶのに相当ストレスが溜まっていたので原因であるコイツを少しビビらせてやろうと思い剣を振る。…だが
「へえ!寸止めのつもりだったがまさか止められるとわね。よっしゃ久々に燃えてきたぜっ!
…止められた。内心かなり驚いていた。オレの剣をめ止られる奴なんて少なくとも騎士団にはいない。こいつとなら本気で戦えるかもしれない。オレはうれしくなりついニヤける。本日二度目の【炎を纏う剣】を唱え、先ほどデナイアルにかました技を打とうとするが…
「【絡蔦】!!」
無数の蔦に動きを止められてしまった。この技はミレイユだ。何度か見てる技だがなかなか避けられないんだよな…
いい所で止められたのでミレイユに文句を言うが小さい頃から面倒を見てもらっているミレイユに勝てるはずがなく、恥ずかしい過去を暴露され…る前にソウタという名前の者と戦うのは諦めた。今は。
本来予定していた仕事を済ませる。帰ろうとしている盗賊放置野郎に盗賊は放置するなと文句を言うのを忘れない。
次の日、今日は月青祭だ。そんなものには興味がないが今日は姫様が屋台を食べ歩くのでその護衛をしなければならない。この街程度なら執事のゼルさん1人でも問題ないが外部の人間も結構来るので念のためだ。正直面倒だが前騎士団長、トール様への恩返し…約束を果たすために護衛を続けている。
オレはここに来る前、辺境の村に住んでいた。そのころはまだ普通の家庭に住む普通の女の子だった。父親はいつもニコニコしていて、ほとんど怒らない人。そのせいか母親も優しい人で、結婚指輪と腕にはプロポーズ時に貰ったミサンガをまだ付けている。村での婚約は基本ミサンガで、結婚したら稼ぎに見合った指輪を贈る事になっている。仕事は畑弄りで、兄もたまに手伝っていた。4人家族でほとんど自給自足暮らしてい、お金はほとんど使わずたまに来る行商人に畑で作った物を売りお金を貯めていた。子供達…つまり娘と兄の為に少し大きい街に移動し、やりたいことをやってほしいと両親は願っていたのだ。
そしていよいよお金が貯まり引っ越し。元々予定してたので物はあまり家になく身軽な引っ越しだったのを覚えている。それでも荷物は多少あったので荷車で移動になる。馬車を買うお金はもったいなくて一度きりなら苦労していこうという事になっていた。護衛を連れている行商人が次に街へ向かう時後ろから付いて行く。そういうのは珍しくないので行商人の方も多少お金を渡せば嫌な顔はしない。
その日がやけに暗かったのを今でも覚えている。
行商人に家族4人で付いて行く。まだ幼かったオレは荷車を引くのを免除されていたので荷台で寝そべっていた。今ではそのおかげで生き残れたと思えるが、当時はそのせいで生き残ってしまったと思っていた。
突然の轟音と共にオレは荷車事吹っ飛ぶが荷物がクッションになり多少体を痛めたものを無事だった。自分だけは。
「おいゲイズ何してんだ、とっとと行くぞ」
姿は人だが肌は白く、額からは先端が黒の白い角が。紫に赤が混じる髪は片目を隠していて耳は人よりも長い。背中には髪と同じ色をした翼を生やしているが空中に浮いているにも関わらずその翼は動いていない。
「ギュエスはウルサイナァー。丁度目の前に美味しそうなおやつが歩いてたから焼いて食べヨウトしただけじゃんカァ」
ゲイズと呼ばれた男は身長は5メートルを超すがその分体積も大きい。魔物のトロールに似ているが肌の色は淡い青。トロールは濃い緑なので違う。
「なにも残って無いから言っている。」
「ハッハッハ!強く撃ちぎチッタァ。人族は脆弱スギテ調整がムズカシイナア」
変な化け物が会話をしているがそれどころじゃなかった。
「お父さん!?お母さん!?お兄ちゃん!?どこなの!?」
突然の出来事に訳が分からず、気付けば自分が宙に舞っていた事を思い出し自分の家族の安否を確認してしまう。
「オ?マダおやつ残ってたア。ゴメンヨオ、オマエノ…オトーサン?とやらはマル焦げになッチャったヨハッハッハ!!」
「…ったく先行くぞ。すぐ来いよ」
ギュエスと呼ばれた者は呆れた様子で消えてしまった。あの頃のオレには消えたように見えたが尋常じゃない速度で飛んで行ったのだろう。
「うそ…うそよ…だってさっきまでお父さんとお母さん笑ってたのよ。なのに…うそよ、うそうそうそうそ!」
「アー?メンドクサイなぁーもう食べチャオっと」
何も考えられず、何も考えたくなく、何の抵抗もせず巨大な手に掴まれる。
持ち上げられて視界が高くなったせいで見えてしまった落ちている人の手。ボロボロになったミサンガと指輪が付いている手が。
「(ああ…本当なんだ。そっか…このまま死ねばお母さん達の所に私も行けるのかな…)」
1人の少女が化け物の口に入り噛まれる…はずが浮遊感に襲われる。
「イッダアアアい、ボクの右腕がアアア!!」
音は無かった。化け物の右手が落ちた、斬られたんだ。誰に?
「こんな所に悪魔族とはな。お嬢ちゃん大丈夫かい?」
金色の髪に赤の鎧を纏った男。細身だが鎧の隙間から見える肌を見れば鍛えられているのが分かる。後ろに数人騎士が付いてきているが手を出さないよう命令されている。
「ア"ア"ア"ア"ア"」
悪魔と言われた化け物が右腕の付け根を抑えて突然大声を上げると腕が再生される。
「悪魔っていうのはなんでもありだな…ったく」
「オ前、人族のクセに生意気ダナ。ユルサンぞ!!」
大気が震える。禍々しい紫のオーラを纏い、その体型には見合わない速度でその助けてくれた金色の髪の男に迫る。当時のオレにはコマ送りのようにしか見えなかったが金髪男が優勢という事は分かった。
「おーう、もう終わりか?」
私の前に守るように立ち魔族に刃毀れの無い剣を向け言うと目の前で片足を付き先程とは逆の左腕を無くした魔族が邪悪な顔に笑みを浮かべる。
「呪体変換!呪イノ風!」
その身に呪印祝福を受けた上位魔族が使える短い詠唱で撃てる呪いの技。これを手放すと撃った魔族は再生能力が著しく弱くなる代わりに相手に強い呪いを掛ける事が出来る。掛けられた者の力によるが、必ず近い未来に訪れる死が決められる。そんな呪いだ。絶対の死の前に何年も理性を保っていられなく、今まで受けた大体の人は発狂し自ら壊れていった。
「そのぐらい避け…クソ!!!」
瞬時にそれに気づけば抱えて一緒に逃げることも出来たかもしれないが判断が遅れた。その身を挺して{私を助ける。そんな、価値ないのに…。
「光炎の刃!!」
呪いを受け刻印が刻まれる。しかし痛み等はないようで振りかえると同時に光る炎の斬撃を飛ばすが蜃気楼のようになった身体をすり抜けるだけに終わった。
「【魔素体化】だ、ヒッヒッヒ、オマえ、あそこの騎士団長だロウ?ハッハァッ!いい報告が出来そうだぜ」
そんな言葉を残し、魔族は消えてしまう。
そこからは簡単だ。生きる目的を復讐とし私は騎士団長に何度も弟子入りを頼み込み、鬼の様な怒涛の訓練の末、現在の騎士団長の座に就いた。呪いを受けてしまった騎士団長の4年という短い寿命では全ての技を受け継ぐ事は出来なかったが、それでもここパランルーナでは一番強くなっていて、かわいい女の仮面を被った鬼だと言われていた。そのせいでトレーニング相手も居なく自主練しか出来ず伸び悩んでいたが。一番の失態は体は子供で毎日ボロボロだった為、休む時は休む!と教わっていたのを実践しぐっすり眠ると何もかも緩んであの歳で何度か粗相をしてしまったのを良く世話をしてくれていたミレイユに見られた事か…
全てを振り返ると長くなってしまうので最後は大分省いたが、何が言いたいかと言うと俺は復讐の為、家族の仇を取るため強くなりたい。だが自分以上の相手が居なく、伸び悩んでいる。そんな時月青祭の護衛時に蒼汰という男を見た。
「あー?なんだ?金ランク帯が騒がしいな…ちょっくら見てくるか」
「あ、ミミってば待ってよ!護衛しろぉ!姫を置いていくなー!」
背景にプンプンと書いてありそうな姫様を置いて走る。基本平和な街なのでちょっと騒がしいと気になってしまう。面白い事がないかと。
…なんだまたアンサムの奴が暴れてんのか。しゃーねぇ、アレはオレしか止められねーしな。
そう思い人を掻き分け進んでいくと、足が止まる。
「(ん…?あれは…)」
つい先日見た少年だ。少年と言っても自分より1つ年上なのだがそんなの知ったこっちゃない。
確か蒼汰と言ったか。オレの剣を受けれたんだ、お手並み拝見と行くか。
当時の予定を変更し傍観する事に決める。
「ちょっとミミ!置いて行かないでよー!」
「あ、悪い悪い、面白そうなもんやってっからよーつい。護衛はゼルが居っから大丈夫だろ?」
「そういう問題じゃないのに…って喧嘩じゃない!早く止めてよ、相手はアンサムさんじゃないの!」
「いいから見とけって。対峙してる男も強いと思うぞ」
「ふーん…危なかったらちゃんと止めてよね。」
姫がこう言うのも仕方がない。アンサムは城モードになると攻撃が派手だからな、下手するとそこら中穴だらけだ。まぁあいつもそこまで馬鹿じゃ…
「さらにこれでお前の負けは確定のものとなる。…【身体の城塞化】!!」
あれ、まじか。あいついきなり本気じゃねえか。蒼汰とか言うやつ一体何したんだ?
「(これはすぐ止めに入ることになるかもしれないな…つまらん。)」
アンサムの城化…【身体の城塞化】の硬さは本物だ。こっちは剣だし止める事は出来ても斬る事は出来ないんだよな…。そう思っていると蒼汰は信じられない行動をとる。
「準備は終わったのかな?それじゃ…【精神斬】」
何を血迷ったか、トレーニング用の技を使う。
「(お、おいおい…それは相当格下相手じゃないと全く無意味だぞ…あーほらアンサムもキレてら…)」
アンサムは攻撃をフェイント混じりに次々仕掛けるが、全て躱される。躱された後の【闘気・城砲】というコンボ…あれは厄介だ。しかしそれも周りを考慮し、上空に弾くという余裕を見せながら逃れる。その後も上手い事蒼汰を空中に誘導し、【速拳砲撃】という遠距離打撃を繰り出すがそれも斬られ、ダメージは届かない。
正直ここまでやるとは思わなかったな。しかし避けてるだけじゃ倒せないぞ?さてどう出る。
「なっ…クソが!容赦はしねえ!!【闘気・城主砲】」
あーこれはまずい。ここまでだな。
これは撃たせる訳にはいかない。あれを撃ったらここらの屋台が全て吹っ飛んで月青祭終了だ。一歩踏み出す…が。
「盛り上がっている所申し訳ないけど、終わらせてもらうぞ。」
蒼汰が喋り終わった途端、莫大な気を感じる。殺気ではない、ただ無力化させるためだけの優しく、だが鋭い気。足が震えた。このオレがビビリ、前へ進めなかった。気付けばアンサムは倒れていて歓声が上がっている。
こいつは一体なんなんだ…?
オレは走って居た。昔からの付き合いで姉みたいに思っているミレイユの元へ。
「おい、ミレイユ、あいつは…あいつは何者だ!?」
息が苦しい。こんな距離じゃ疲れるはずないのだが。
「いきなりなに?あいつって誰の事?」
「蒼汰とかいうやつだ、知り合いなんだろ?あいつは…」
そうだ、そうだ。認めよう
「あいつはオレよりも強い、桁違いに。」
強い。お手並み拝見だとか考えていたのが恥ずかしくなるくらい強い。
「…そう…正直そうかもとは思っていたわ。」
「かもってどういう事だ?ミレイユには高レベルの鑑定があるだろ?それで分かっているんじゃ」
そうだ。ミレイユには鑑定Ⅶというそこらへんの鑑定士顔負けのスキルを持っている。それを使えば蒼汰の強さが分かるはずだ。
「…私も試したわよ、初めて会う人には必ずかけるもの。でもね、見えなかったの。何一つね」
「な…」
まじか…少なくとも鑑定レベルⅦを超えるという事だ。でもⅧというレベルではない気はする。そうするとⅨ…もしくはⅩ…ハッ、ありえない。それは流石にあり得ないな。
何かしらのスキルがⅧまで行くのも数年に1人。Ⅸなんて数十年に一人というレベルだ。Ⅹはおとぎ話にしか出てこない。人生全て注ぎ込んでやっと一つⅩになるのだから。それなら色んなスキルレベルを上げた方が全然強い。
直接聞いて教えてくれるか…?
「そういえば、残りの2人も見たわよ」
「残りの2人?子供2人か。そんなもの見てどうす…」
るんだ。という言葉が出てこなかった。その2人にも何かあるのかと感づいてしまったからだ。
「エド族の子はほとんど見えたわ。あの歳であのステータスはかなり上のほうね。そこらへんの人じゃ適わないわ。」
「ほとんど?全部じゃないのか?」
「ええ…1つだけ見えなかった。Ⅶを超えているみたいね」
あんな子供に最高スキルレベルが負けてるのか…もしや蒼汰に弟子入りでもしてるのか?
「そして目の視えない子、蒼汰の妹ね…あの子も何も見えなかったわ」
「――っ!」
そんな馬鹿な事があるのか。
一体あの兄妹は何者なのか。
当然放っておくことは出来ない。
月青祭が終われば時間も出来るだろう、その時に…。