温泉回?②
※4/16 21:50タイトル微修正
シャワーの水圧で押しつぶされるという初体験して倒れた蒼汰だが。
倒れた床は固くなく柔らかかった。柔らかい…?床に手を突き起き上がると…
目が合った。
ずっと気配はしていた。お化けかと思っていた。違った。シエラだった。全裸の。
俺は知っている…例え悪いのは男のほうでなくても女性の裸を見てしまったら悪いのは男の方。知ってる。全力で謝る以外に選択肢はない。
「「ごめんなさい!!」」
「「・・・え?」」
蒼汰は男の性というか定めというか日本人男性としてすぐ様謝る。
シエラは魔法で透明になり覗いてたとしか思えない状況なのでもう謝るしかないと、全部自分が悪いと(実際そうなのだが)思い謝る。
結果二人同時に謝る事になり、お互い何故そっちが謝るのという思いからの「え?」である。
二人とも土下座で頭を下げてるので大事な所はとりあえずお互い隠れてはいるのだが、この状態からどうしようと体勢を変えられずに固まっている。
こ、この状況を打破するには…未だかつてない速さで思考を巡らせるが解決策が見つからない。そんな時
「えっっと…、と、とりあず。あたしは別に何も気にしないのでソウタも許して…ほしいな、なんて…」
「あ、ああ。そうだな、別に俺は見られて困るような事はないし…」
「う、うん。そ、それじゃ、おおお風呂…は、入り方、教えてよ…」
顔を赤くしながらそんな事を言ってくる。
「あ、ああ。そうーだな。折角だしな。入らないと損だな、うん」
しどろもどろな会話は終わり風呂の入り方を教える事になってしまったが…大丈夫だ、妹と変わらない。意識するな、ちょっと前まで妹と入ってたのと変わりない、何も問題ない。と自分に言い聞かせる。
この世界にはシャンプー等の髪の毛や身体を洗う物は無いらしい、垢すり用のタオルはあるがここはサッパリしてほしいのでお風呂セットを創造する。
まず髪の洗い方を説明するが「よ、よく分からないからソ、ソウタが洗ってよ…」と。髪な、これも妹の髪を洗った事あるし問題ない任務遂行可能だ。
シエラは大理石っぽい石で出来たただの四角い椅子に座っていて、俺は後ろから洗う。日本の銭湯に良くあるどでかい鏡が無くて良かった。
髪が終わると「つ、つ、次はか、身体も」というのでこれも妹とのを…ってんなわけあるかい!妹に軽く突っ込むのと同じように脳天に軽くチョップする。
「あ痛ぁ…も、もう意気地なし…」
「後ろは洗ってやるから、他は自分で洗えよ…?」
強すぎず弱すぎず背中を洗ってあげた後俺もシエラの隣に座り頭と体を洗っていく。
「それじゃー浴槽に浸かろうか」
「う、うん!」
カポーン。温泉と言ったらこの音だよね。まぁこんな所に鹿威しなんてないから鳴らないんだけど。辺りはすっかり日が沈み、空には満天の星空が輝いている。この世界にも星座とかあるのだろうか。日本で夜空を見上げてどれが何座だとか観察した記憶が無い為分かるのは有名な夏の大三角形ぐらいだが見当たらない。まぁ星が多すぎてわけわからんくなってるけど。ふぅ…
「極楽だなぁ…」
1人でも温泉でもよくこう独り言を呟いていたのでつい言ってしまう
「?極楽ってどういう意味?」
「んー…意味か、説明すると…なんだろ、ゆったりくつろげるなぁって感じかな」
「な、なるほど、その言葉あってるかもぉ…「「極楽だなぁ」」
まだちょっと気まずい感じはあるけど温泉の癒しの効果は絶大で結構いつも通りの雰囲気に戻って来た。
ロリコンの病を患っている人からしたらイエーイ!ヒャッハー!全裸美少女と温泉だぜイエエエエエエエイと心の中で大はしゃぎだったろうけど…いや、別に嫌いという訳ではない。むしろ好…いや今は何も考えずに星を見上げてよう。隣を振り向いてはいけない。
「そ、そんなに頑なに空を見上げてなくてもいいのに…」
「ん?ごめん考え事してて聞いてなかった」
「な、なんでもないわ。まさかこんな感じに初めてのお風呂を経験するとは思わなかったなぁ」
「まぁ…今はアレだけど後の笑い話となるさ」
そう、時間が解決してくれる。時間が………待てよ。シエラがここに居るという事は結衣とセーラ姫が一緒だということだ。もう結構時間経つしそろそろ戻ってくるかもしれない。結衣一人なら誤魔化せもするが一人で戻ってこれるはずもなく当然姫さんと一緒だ。シエラが3人で温泉に入らず俺と二人でこうして入浴している所を見られたらどうなるだろうか。それを結衣が知ったらどう反応するだろうか。
――ガチャッ
「ただいまーお兄ちゃんおまたせー」
「いい気持ちだったー!あれ、シエラやっぱり戻ってないかぁ蒼汰さんも居ないけど…あ、こっちで入浴してるのかな?」
あー終わった。俺は明日から変態ロリコンお兄ちゃんの異名を持つ兄として生きていくんだ、ハハッ。
開き直って二人で風呂から上がった所、特に妹に罵られる事は無かった。姫様はそんな耐性は皆無な為、「なななな、おふお風呂、ふたふ、ふた、男、女で、え?一緒…に?…え?」とかなり狼狽していたが結衣は「……そっか、うん。シエラなら…いっか。」と何がいいのか分からないが自分の中で何か納得してたみたいだ。
もちろんどうしてこんな事になったのかその経緯をシエラが説明してくれたが…妹は終始にこにこしてた。ちょっと怖い。
こんな事があったので何も触れることは出来なかったけど、温泉を上がって来てから結衣達は浴衣だ。温泉にあるような浴衣なので結構地味な柄だが着る人間の素材がいいので何も問題は無い。似合ってる、可愛いと言うといつもの結衣に戻った。チョロすぎてお兄ちゃんは色々心配だよ。でも今はその事に感謝する。因みに部屋にも浴衣は用意されてあったので俺もシエラも浴衣を着ている
旅館の料理に舌づつみを打ち、部屋の端にある布団を広げ寝る準備をする。
「あれ?人数分敷いたの?1つでも良かったのにー」と結衣がニヤニヤして言ってくる。3人で寝るのも悪くないけどせっかく広く使えるんだから今日は腕を伸ばして寝たい。
後は寝るだけとなった所でガチャッと扉から姫様が現れ…いや来すぎだろう大丈夫か?
「こんな一般人の所にしょっちゅう来てて大丈夫なのか…?」
「大丈夫大丈夫!…運ばれてきたご飯を一人で食べてたらなんか寂しくて…こっちで寝てもいい…?」
姫さん一人で来てたのか。
そういえば聞いてなかったけどなんでわざわざ宿に泊まってるんだ?何か事情があるのだろうか。
「まぁ…いいんじゃないか…?」
「や、やった!」
「…ところで姫さん、聞いてなかったけどなんで宿屋に?」
「…蒼汰さんが作った大判焼き…餡子味とチョコ味が食べられなかったのが悔しくて、ジイと喧嘩して飛び出して来たの。はーあぁ…ジイは分かってないのよ。甘い物の大切さが!」
な、なんか俺のせい?今頃ジイとやらはあっちこっち探し回ってるんじゃなかろうか。
「お姫様もお兄ちゃんの味の虜に…!」
「美味しいものね…あたしもソウタが作る物、毎回楽しみでしょうがないわ」
「うう…カスタード味のあの甘さを思い出したら涎が…」
「おいおい…姫にあるまじき顔になってるぞ?」
大判焼きの味を思い出しだらしない顔になっている姫様にそう言うと、「いいんですー!」と唇を尖らせた。
「カスタードを思い出したせいか、今もなんか甘い香りがするような気がするなぁ……んん?本当にいい香りが?」
姫様がクンクンと鼻をひくつかせ甘い香りの方向…シエラに詰め寄る。
「え、な、なに?」
適当に創造したら香り付きのシャンプーが出て来たからな…結衣の好きな桃の香りだったはずだ。そこは苺の香りじゃないんかいって感じだが香りと味は別らしい。それでシャンプーといったらコレと無意識に選択されたのかもしれない。その香りの事を姫様は言ってるのだろう。
「むぅ、いいなーシエラ…お兄ちゃん、明日私もあのシャンプー使いたい!いつものだよね?た、たまには洗ってもらおうかな…?」
「なっ!結衣もか…」
「「も…?」」
結衣とセーラ姫の声が重なる。バッと二人してシエラのほうを見るとみるみる顔が湯上りの頃の状態に戻って戻っていく。「ばか…」と小さくつぶやくが全く持ってその通りだと思います。
その後目線を向けられるのは当然俺な訳で…
「あ、あー1日ツカレタナー、ネルカーオヤスミー」
「変態お兄ちゃん!まだそういうのは早いでしょ!もう…罰として明日私にも同じ事してね!」
「ええぇ…恥じらいながらもう一人で入れるって言ってた結衣はどこに…」
「約束だからね!」
「あ、はい。」
「あ、洗いっこだ…二人で洗いあうんだ…はううう///」
おいエロ姫やめろ!勝手に変な妄想するんじゃない…ああもう、助けてくれる男友達が欲しい…。
その後もまだ寝るにはまだ少し早かったので、姫様の苦労話しを聞き、愚痴を聞き、仕事の話しを聞き。シエラは本当は死ぬしかなかったけどソウタに助けられた事、その時の心情を語り、姫様は泣き、慌ててもう完治したと笑ってみせ。結衣の「お兄ちゃんすごいの!」が始まり。褒め言葉のマシンガンで蒼汰は居心地が悪く布団に潜りいつ終わるんだと籠り、時間はあっという間に深夜になりいつのまにか皆寝静まる。
姫が男が居る部屋で寝るのはどうかとも思うがもう気にしない事にした。こういう姫なんだ。なんかもう心の中では姫を付けるのやめようかな…俺も寝よう、おやすみ。
――――???――――
街のほとんどの人が眠りにつき、街の外の灯りは月光のみとなる。そんな夜の街に一人屋根の上に座り込む影があった。
「いよいよ明日が青い月の日…その日にワタシは…。」
やらなくちゃいけない、殺らなくちゃいけない。
別に恨みがあるわけじゃない、ただ殺らなくてはならない。
人なんて殺したことはない。でも殺らなくちゃいけない。
初めての仕事、命令。
「天使蒼汰と天使結衣…」
この二人は兄妹なんだろう。
見た事もない、ただの他人だ。でも殺さなくちゃいけない。それが命令だから。失敗したら当然ワタシはその兄妹に殺されてしまうだろう。仮に見逃されてもあの忌々しい主に殺されるであろう。そしたら必然的に私の妹も殺されてしまう。
別の兄妹を殺してその後もまた人を殺して、その人達の命の上、屍の上で私達は生き残り続けなくてはいけない。最悪だ。救いなのは妹が姉は何をやらされているのか知らない事か。
「アハハッ…」
乾いた笑みが漏れる。
明日は人生を左右する初仕事。そんな日の前日でも湖面を反射する月光は綺麗で、今のワタシには眩しすぎる。そんな湖をもワタシの手でグチャグチャにすることになるんだ。考えれば考えただけ気持ち悪くなり吐きそうになる。いっそ今死んで楽になってしまいたい。そんな勇気はないのだけれども。
「誰か、助けてよ…」
当然その言葉に返事をする声も無く、虚空に掻き消える。泣きたくもなる。ワタシはまだ84歳、子供だ。でもそれ以前にお姉ちゃんだ。こんな状態じゃいけない。
私達姉妹が生き残るには命令された事を成し遂げ続け、十分仕事をしたら解放してくれるという約束を守らせなければならない。そうすれば、きっとワタシも妹と平和に笑って暮らしていける日々が戻ってくるはずだ。でもその時ワタシの手は血塗られた手になっているだろう…その手ではもう妹を撫でる事は出来なくなってるかもしれない…。姉妹で馬鹿やってた頃のように笑い合えないかもしれない。でももうその道しか残されていない。
元の世界に帰ったら皆の墓を建てよう。そして一からやり直す。同族はもう、私達姉妹以外誰も居ないけど。
いつも読んで下さりありがとうございます。