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妹と旅する曰く付き異世界  作者: 智慧じゃこ
15/33

温泉回?①

5/27 台詞に「」が付いてなかったのを1ヵ所修正

午後。

休憩の札を取ると近くで待っていたらしい客がスッと並び始め、一瞬で行列が出来る。ちらほら聞こえる声によると姫様が美味しそうに食べていたのを目撃し皆気になって待機していたらしい。

これは午後も忙しくなりそうだ…。


4時間程たっただろうか。一日中こんなに何かを作っていたのは初めてだ。

空は既に赤みを帯びていて、カラスみたいな黒い鳥が飛んでいる。よく見ると逆さまだ。あれが狐っ子が使ってた卵を産むオムヒゥ鳥ってやつかな?

今は月青祭(げっせいさい)1日目の終わりを告げる鐘が辺りに鳴り響いている。皆片付け始めたのでうちらも片付けようとすると、屋台を出してるせいで買えなかった周りの人が購入させてくれと懇願してきたのでもう一仕事した。片付け終わったのは完全に日が暮れた後だ。

もうクタクタだ。【身体強化Ⅹ】のおかげで体はそうでもないが精神的にクタクタだ。こんな日は熱い風呂に入って身体を癒したい所だが、唯一温泉のある宿屋は満室だ。帰り際にその温泉宿を利用する客を恨めしそうに視線を送るがそれで温泉に入れるようになるわけでもないので辞めた。いっそドラム缶風呂でも…と考えた所でふと上を見上げると見覚えのある人物が窓から顔をだしている。


「あ!蒼汰さーん!結衣ちゃーん!シエラちゃーん!」


何年も会っていない友人に偶然再会し喜ぶように声を上げて俺達の名前を呼ぶ。

そんなに声を上げたら通行人が騒ぎ出すんじゃという懸念はどうやら杞憂だったらしい。姫様にもプライベートな時間はあるからと仕事じゃない時は極力騒ぐのはやめようという街の人の総意らしい。街の人に好かれているだけでなくちゃんと想われてるようだ。

少しするとタッタッタと軽快な足音を立てて旅館から出てくる。


「お疲れ様ー今帰りなの?ずいぶん遅いね」


「まぁ色々ありましてね…疲れたので俺らの宿に戻る所だよ」


「そっかぁ…同じ宿だったら面白かったのに。どこの宿なの?」


ハハハと笑いながら門の外を指す。


「外…?の、野宿…?」


「宿取り損ねてしまいましてね…まぁ同じような境遇の人も結構いて兵士さんも見回ってくれてるから危険もあまりないですけどね」


「だめよ!女の子2人も居るのに野宿なんて…」


「結構快適なのよ、ソウタの料理は美味しいし、強いから心配もないし、夜もあた、温かいし…」


「…戦いを見て大判焼きを味わったから良く分かっちゃう…料理も美味しいんだろうなーいいなぁ……じゃなくて!そういう問題じゃないと思うの!…あ、そういえば貴族用の部屋なら空いてた気がする。私が女将さんに取り合ってあげる!」


何を言うまでもなく走って中に戻り、物の数秒で出てくる。


「おっけーだって!」


なるほど、貴方が俺達の女神様か。

中に入ると昨日と同じ光景が広がっていた。当たり前だけど。


「あら?姫様の紹介なんて誰かと思ったら月青祭(げっせいさい)を賑わせた『三羽の野兎(アグニスティア)』の人達じゃない。見てたわよーあの剣捌き!あんなに心躍ったのは何年ぶりかしら?その後1時間並んで貴方の所の大判焼き買わせてもらったわ。おいしーのねアレ!特に餡子が気に入ったわぁ。声をかけようと思ったんだけど凄く忙しそうにしてたから話しかけなかったの。声かけたらサービスしてくれたかしら?それでねえお土産に持ち帰ったらうちのシェフ達も大騒ぎでねえ…あら、歳はとるもんじゃないわねぇ話しが長くなっちゃってしょうがないねえアッハッハッハ」


お、おおうこの人も来てくれてたのか、喜んでくれて良かった。


「あはは、お世話になります。えっと宿に泊まるのは初めてなんですが…」


「はいはい!貴族用の方だから1部屋1泊銀貨2枚よ。何泊だって泊ってもかまわないわ。一応予定宿泊日数は聞くけど延長しても早めに出ても問題ないわ。料金は出る時に支払ってくれればいいわよ。因みに1部屋しか空いてないから3人一緒の部屋になるけどいいわよね?」


「分かりました。それで大丈夫です。」


渡された鍵付きの6と書かれた黄色い木札を受け取り階段を上がる。

貴族は2階、一般は1階と分けられている。温泉は共同の大きいのが1階にある。流石に山奥にある宿という訳ではないので景色を見渡せながら入れる露天風呂ではない。そんな事したら通行人から丸見えだ。2階は各部屋に温泉給湯されており、小さいが大人数で入るのが苦手な人の為にいつでも入れるようになっている。こちらも景色が見れるわけではないが、頭上を開けられる仕組みになっており夜は星空を見上げながら温泉に入れるみたいだ。

電気が通ってない為、廊下にランタンみたいな物が1部屋置きに置かれていて、足元を照らしている。後で聞いた話によると魔力を継ぎ足して明かりを灯す魔道具らしい。


6番の部屋に辿り着き中を覗くと流石に畳では無かったが、小麦色の絨毯が敷かれていて、そこを歩くと綺麗に揃えられた絨毯の毛並が乱され足跡が付く。そこを毛並に逆らわぬようサッと手で拭えばまた元に戻るのだが…乱して整えるを何回もループしたくなる魔法がかかっているんじゃないかっていうくらい癖になる感触だ。部屋の端には人数分以上の布団が積まれており今からアレを広げて寝るのが待ち遠しい。

窓側は半分がベランダになっており、そこに大柄の人が十分ゆったり座れる椅子が2つ用意されている。何の革かは分からないが、サラサラで手触りが良い。お酒が飲めれば温泉後ここで一杯したりしただろうがまだ未成年。いやこちらの世界ではもう問題のない年齢みたいだけどね。

窓側のもう半分が温泉になっていて四角い浴槽がある。小さいと聞いてたけど家にある風呂の2倍くらいの大きさはある。貴族は大柄の人が多いからどれも大きめに作られているのかと思想しそれは的を射ていた。


「あー…やっと休めるなー。もう絨毯の上でも寝れる…」


「ちゃんとした所で寝た方がいいよ!私たちはお風呂行こうかな。シエラちゃん結衣ちゃん一緒に行こう!」


「行きます!良かった…お風呂の使い方分からないっていう話しを昨日してたんですよね…お姫様が一緒なら大丈夫ですね!」


「だね!あ、お兄ちゃんウサちゃん預かってて~」


「わわっ!結衣ちゃんの頭の上でずっと動かないからそういう帽子なのかと思ってた…可愛いわね…」


「おー行ってらっしゃいー」


―――――シエラ視点―――――


人生初のお風呂の時間!

身体を洗う専用の液体で洗って熱いお湯が張ってある桶に入る・・・そんな感じの知識しかないけどすごく気持ちいいらしい。

1人じゃ不安だけど、結衣とお姫様…セーラさんが居るから大丈夫だよね。

脱衣所に入って自分の荷物…服を入れる籠を選び、そこに入れるみたい。結衣とセーラさんはさっさと脱いで準備完了している。慣れてるのかな?同姓同士でも少し恥ずかしい。でも脱がないわけにはいかないので思い切って脱…ごうとした所でふと思う。

・・・そういえば今はソウタが部屋で一人なのよね。この前うさぎと話せるという嘘をつかれて悔しかったので今度絶対にお返ししようと心に秘めていたんだけど、ずっと結衣が離れないので何をしようにもチャンスがなかったのよね…。

・・・葛藤。

初めてのお風呂…でもソウタをぎゃふんと言わせたい!今が最大の好機!お風呂は朝でも入れる。よし。


「あ、ごめん忘れものしちゃったから先入ってて!」


「あら?そうなの?待ってようか?」「シエラ一人で大丈夫ー?」


「大丈夫、すぐ戻るから気にしないで!」


「分かった、それじゃお先ねー!」「お先ねー!」


二人が温泉の部屋に消えていく。脱衣所には今は誰も居ない。

よし…あのミレイユさんに貰った魔導書に書かれていてソウタに見せなかった魔法。

視界を欺く体(インビジブル)

ふふふ…これでいきなり脅かせば流石のソウタもびっくりするはず!よし…


「月の光よ、纏い惑わし世界に虚偽を、私は影。存在を潜める者なり!【視界を欺く体(インビジブル)】」


発動から5秒。徐々に体が薄くなっていき、完全に姿が消える。

視界を欺く体(インビジブル)】はレベルが1だと消えるのに30秒程かかり、消せる物も自分のみだ。しかしシエラは【魔力ブーストⅧ】があるので消える速度だけは早いが消せる物は自分のみ。よく勘違いされるが【魔力ブースト】は万能ではない。レベルⅧあるからといってレベルⅠの魔法がⅧ足されてⅨの効果になるわけではないのだ。攻撃魔法で説明しよう。レベルによって発射される弾の数…例えばファイアーアローという魔法がある。レベルⅠでは1の威力を1発撃つだけだ。しかしレベルがⅤになると1の威力を5発撃つようになる。【魔力ブーストⅣ】を持ってる人がファイアーアローレベルⅠを唱えると威力は5になるがファイアーアローは1発しか打たない。これだと微妙と考える人も居るかもしれないが自分がファイアーアローレベルⅩを取得していて【魔力ブーストⅣ】を持っているとすると次元が違う魔法になるという事に気づくだろうか。【魔力ブースト】なしだと威力1が10発だが【魔力ブーストⅣ】だと威力5が10発だ。

【魔力ブースト】を大体持ってるエルフに魔法を撃たせたらやっかいな事になるという事が分かるだろう。因みに通常の威力は【身体強化】により上がる。

何が言いたいかと言うとシエラが使う【視界を欺く体(インビジブル)】は消える速度は速いが消せるのは自分のみ。つまり透明になってはいるものの全裸でソウタの部屋まで移動する事になる。そして人に接触した瞬間【視界を欺く体(インビジブル)】は解ける。


ただシエラの頭にはもうソウタを脅かす事しか考えていないでこの行動の危うさに気づくのは全てが終わった後だ。


意気揚々と部屋まで戻り、そっと入って行く。

そしてまたそーっと部屋を除くとソウタはウサギを抱えながら絨毯に寝そべっていた。視線をこちらに向けて。


「―――!」


(あ、危うく声が出そうになった。でもソウタには視えてないはず。なのになんでずっとこっちを見てるの!?)


答はソウタが持つ【気配察知Ⅹ】の効果なんだが、シエラは知らない。


「気のせいか…?」


ソウタの独り言がソウタ以外誰もいない(・・・・・)部屋に響く。


「幽霊も察知すんのかな…こええ…」


幽霊…今のあたしは似たような者かもしれない。

ちらちらこっちを見てくるものの諦めたのかウサギに話しかけ始めた。


「ウサさんや…んー?…ウサさん…お前も名前が欲しいんじゃないか?」

「……」

「だよなぁ。俺名前のセンスないからな…ピョンキチとかかな」

「……」

「駄目かー。んー…わたあめとかか?」

「……」

「それも駄目かー。…後で皆で決めてやるからなぁ」

「……」


(や、やっぱりウサギと喋れるのかな…いやいやいや!騙されないわよ!よし、それじゃ早速ワッと脅かそう…だめ、笑っちゃいそう。)

そーっと近づくとやはり気配を感じているらしいソウタがバッとこっちを振り向く。

(な、なんで?気づかれてるのかな…心臓がうるさいよー!静かにして…!)


「あー、あー風にでも当たるか…」


ソウタが窓の方に向かう。あたしも慌てて追いかけてベランダに出る。ソウタが椅子に座ったのであたしも正面の椅子に座ってみる。


「……」


この時蒼汰は「めっちゃ居る。絶対そこ誰か座ってる。こええ!誰かこの部屋で自殺でもしたんじゃないか?」と冷や汗が止まらなくなっている。そんなことシエラは知る由もないのだが。


(今なら確実に脅かせる!よし…)


いざ!という所でソウタは立ち上がり


「夜はちょっと冷えるな、うん」


とまた独り言をいいながら中に戻る。

あたしも慌てて戻り、今度はベランダの反対側の扉に入ったのでソウタが扉を閉める前に体を滑らせ侵入に成功した。

ふう…流石に部屋の中で扉が勝手に空いたりしたら怪しまれるものね…と思って顔を前に向けるとソウタが服を脱ぎはじめ…

(!?そ、そうだここお風呂だった、どうしようあたしこれじゃただの覗き…ど、どうしよう)

後ろを向いてそんな事を思って頭を抱えているとまたソウタが独り言を。


「んん…?なんだこれ…マーク的にシャワーだと思ったんだがノズルも無いしボタンもない…あ、そういえば電気じゃなくて魔力で色々動いてんだったな。注げばいいのか?」


そんな声が聞こえてきてつい振り返ると腰にタオルだけ巻いたソウタが居た。

蒼汰は今も気配を感じていて誰かに視られてる気がしてならないのでお化けだとしても一応…とタオルを巻いたのである。

ソウタが魔力を注入する所を見ていたが少し様子がおかしい。

【身体強化Ⅹ】の蒼汰は魔力量も膨大だ。加減も分からず大量の魔力を注いでしまった。その結果、バッシャアアアアアンと水が叩きつけられる音と共に天井から滝のようなお湯が10秒間に渡り流れてきてしまう


「のわっ!」

(ふぇっ!?)


急な事で流石の蒼汰もよろめき水圧で倒れてしまう。お化けの…シエラのほうへ。


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