筋肉キャッスル / 皆のお姉ちゃん
現在屋台の前は人による円が出来ている。
その中心に居るのがアンサムと呼ばれていた筋肉男と決闘を申し込まれた蒼汰だ。
「だ、大丈夫かよあいつ…」「相手は 金 ランク城塞堅人のアンサムだろ…」「一体なにしたんだ?」「女の取り合いだろ?」「そういえばミーアちゃんって…」
城塞堅人のアンサムって二つ名ついてんのか…しかも 金 ランクだったとは。
「おいガキ。この前は予め防御魔法を張っていたようだがな?今回はそうはいかないぜ…」
アンサムは懐から丸まった紙を取り出し一言唱える。
「【強化魔法解除】!!…へへっ、こんなこともあろうかと用意しておいてよかったぜ。これでお前にかかっている強化魔法は全て解除された。」
使用したスクロールはゴウッと蒼い炎に包まれ消えていった。使い捨ての魔法のようだ。
自分に強化魔法なんて1つもかけてないのでただ自分の体が光っただけで特に何も起こらなかった…なんていうのは可哀想だから言わないでおこう。
鑑定でアンサムをみてみる。
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アンサム・デロイ
年齢:29歳
種族:人族
ギルド:君の為の城壁
スキル
【身体強化Ⅵ】【気配察知Ⅲ】【拳術Ⅵ】
【踵落としで地震Ⅳ】
┗地面を蹴り直線状に大地裂傷の効果が出る。範囲は狭いが詠唱がない。
【速拳砲撃Ⅳ】
┗素早い正拳突きによりその正拳突きと同等の威力を持った風圧を飛ばす。
【闘気・城主砲《カステルム・テリオスⅦ》】
┗前提条件【身体の城塞化】自分が持つ身体エネルギー全てを消費し闘気砲を放つ。レベルは【身体の城塞化】と連動する
【闘気・城砲《カステルム・フォルテⅦ》】
┗前提条件【身体の城塞化】自分が持つ身体エネルギーを使い細かく闘気弾を撃つ。レベルは【身体の城塞化】と連動する
魔法
【身体の城塞化Ⅶ】
┗城塞の如く攻撃が通りにくくなる。斬耐性・突耐性大UP。魔法耐性小UP
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おお…こいつ特有って感じのスキルだな。
「さらにこれでお前の負けは確定のものとなる。…【身体の城塞化】!!」
アンサムの体に岩が纏わり付き、もともとでかい男がさらにでかくなる。その大きさは2.5Mに及ぶ。城っていうかゴーレムみたいだな・・・あまり格好よくはない。
しかし能力の方は刀しか持ってない蒼汰にとっては厄介だ。弓も持ってるがこの場面で使うべき武器ではないだろう。使えた所で突体制も入ってしまっているが。さて斬耐性…どんなものだろうか。
「準備は終わったのかな?それじゃ…【精神斬】」
刀を抜いて精神にのみダメージが与えられる魔法をかける。
ミミ・ヴォルドインが持っていたスキルの一つだ。自分の力を振るう事に慣れていないのでこの魔法を知れた事は大きい。しかし精神にダメージというのがあまり想像がつかない。死にはしないだろうという感覚しかないのでこの考えがあって無かったらやばいな…
そう思いつつもその時はその時。治癒魔法でも創造して治してやればいいかと考えている。
「おいてめえ…舐めてるのか!!」
アンサムは怒りのまま殴りかかってくる。隙だらけだ、よっぽど硬さに自信があるのだろう。
これの攻撃を受けてもほとんどダメージないだろうし、わざと受けて心を折る事も出来るがガシガシ殴られ続けるのも癪なので一発たりとも当たってあげはしない。
ギルドもあるみたいだしいつもはアンサムが盾となり後衛で畳みかける戦法なんだろう。
怒りのまま顔面を思いっきり殴りに来たと思いきやそれは岩を纏う事で一層巨大化した手で視界を塞ぎ、もう片方が本命の攻撃というフェイントをしかけてきた。【危険察知Ⅹ】【気配察知Ⅹ】を2つともカンストしている俺には丸わかりなので簡単に避けて見せる。
流石 金 ランクは伊達じゃない。躱された後の事もちゃんと考えて居たようで肩側から光の弾が「【闘気・城砲《カステルム・フォルテⅦ》】」と声と共に放たれる。しかしこれも即座にバックステップで距離を取り、飛んできた弾を刀で上方に弾く。弾かれた弾は上で音だけは花火かのような立派な音をたてるが綺麗な花が咲くことはない。
「クソ!ちょこまかと。当たれば終わりなものを…【踵落としで地震】!!」
ズドン!という音と共にこちらに向かってモグラが地面の表面を掘るかのように岩が突き出てくる。
蒼汰は上空にジャンプして躱すと、アンサムはニヤりと顔を歪めた。
「空中では避けれまい!【速拳砲撃】!!」
拳の形した…風が見えるといえば分かるだろうか。白い筆で線画されたような拳が飛んでくる。
「斬れるか…?」
横に一閃。どうやらうまくいったようで、拳の形した風は霧散して風が俺の髪をなびかせる程度となった。周りに結構風が散ったらしく。先ほどの爆発で出た煙は勢いよく晴れていった。
「なっ…クソが!容赦はしねえ!!【闘気・城主砲】」
アンサムの胸に光が集まる。強い光だ。人の魂に色があるとしたらこんな色をしているかもしれない。確か自分の身体エネルギーを全て闘気に換えて撃つんだったか。
もう通用するものがコレしかないと判断しての行動なのだろう。
「ア、アンサムさん!そんな技ここで使ったらあたり一帯吹っ飛んじまいますぜ!!」
「ハッ知るかよ、もう止めらんねえ!!」
チャージに時間がかかるのか、まだ撃てないようだ。周りもパニックに陥る寸前なのでこれ以上長引かせられない。
「盛り上がっている所申し訳ないけど、終わらせてもらうぞ。」
【疾走Ⅹ】を持つ蒼汰の速度は普通の人には知覚できない。周りの皆にはアンセムの前に瞬間移動したように見えただろう。
右腕に一振り。流石に斬耐性がⅦ分ついてるだけあり、1撃では精神を削り切れない。
左腕に一振り。気絶までは行かないがこいつの腕はもう動かないだろう。
身体に一撃。これで【闘気・城主砲】の光が消える。
両足の付け根を1降りで斬る。もう立ってはいられない。
最後に身体にもう1撃入れる。その軌道は5撃で星の形となる・・・1撃から5撃まで1秒。まだ速くできそうだが、適当に創造した剣では耐えられなそうだ。
「五 芒 星 斬…っつってね。」
そんな技ないけどね。いつか友達に借りてやったゲームにそんな技があったから真似してみた。
叫び声も上げられずに崩れ去り、蒼汰が勝つとは誰も予想してなかったのか、辺りが一拍静まったと思いきや歓声が上がる。
「すげえな兄ちゃん!見えなかったぜ!」「あんな動き、自由闘技杯でも見れないぜ!」「弟子にしてくれねえかな…」「かっこいい…」
歓声の中収集がつかなくなってきた事にどうしたものかと思案していると、喧騒の中でも声がスッと良く通る女性の声が聞こえてくる。
「みなさーん、月青祭楽しんでおいでですかー?年に1回のお祭りですから、心置き無く楽しんで下さいねー!」
「おお!姫様だ!」「姫様!こうしちゃいられない、焼き立てを作っておかないと!」「今年こそは月青賞とってやるんだ!」「姫様ー!今年は自信作ですぜー!」
「はーい、気になったら寄りますね♪」
あの人が民間姫と言われている姫様か。おかげで気が反れて今あった事がなかったかのように元の祭りの様子に戻っていく。因みに道の真ん中で気絶していたアンサムは一緒に居たギルドメンバーらしき人に引きずられていった。
姫か…民間姫と呼ばれるのも分かる気がするな。普通姫という者を想像すると華やかなドレスに優雅に歩き胸の前で淑やかに民に手を振る…まぁ勝手なイメージだけど。実際の服装は白のワンピースで腰に黒く細い帯が巻かれてい、結び目がリボンになっている。麦わら帽子が似合いそうな可愛らしい姿だ。胸には王族の証である青い三日月の隙間に黄色い満月を形どった宝石がハマったブローチが付けられている。髪は肩に届かない程のショートカットで髪はその人の性格がにじみ出たかのような優しいクリーム色をしていて、宝石のオパールの如く輝く色をした眼とマッチしている。
姫様は人に囲まれているが、歩く度に川の水が岩を避けるように人が割れ、姫様の周りに見えない壁があるのかと錯覚する。面白い光景だなと焼け待ちの大判焼きから目を離しボーっと見ている。
「あれ、なんか姫さんこっち向かってきてるような…」
「えっ!お、お兄ちゃんまさかお姫様来るの?ど、どうしよう!お姫様対策なんてしてないよ!」
「お姫様対策って何よ…ソ、ソウタ!一番おいしそうなやつ!綺麗なやつ用意するのよ!」
「あ、ああ、そうだな。まぁ緊張する必要なさそうだと思うよ。あんまり姫様感ないし…」
「それは誉め言葉として受け取っていいのかなー?」
あれ!?結構離れていると思ってたら既に目の前まで来ていた。人混みだからここまで時間かかるだろうと勝手に脳が思い込んでいたのかもしれない。
近くで見るとまだ顔に幼さがある。といっても自分とそこまで変わらない歳だろう。
「あーえーっと…いいお天気で、あーお美しゅうございますね?」
突然話しかけられたものだからちょっとテキトウな言葉になる。
「あんたが一番緊張してるじゃない!も、もう…お姫様こんにちは、ここは 銅 ランクの屋台ですけど…ええっと…」
「こ、こんにちは、お姫様!え、ええとお兄ちゃんが作ったものを屋台で出してます。凄く美味しいですよ!お、おひとついかがでしょうか!」
「あはは、可愛い売り子さんですね。普通にお姉ちゃんだと思って接してくれていいですよ。では御一つ頂こうかな。甘い物にはうるさいわよー私を満足させられるかしら?ふっふっふ」
「よっしゃお姉ちゃん、味は3種類あるけどどれがいい?あー大人な甘さ(餡子)か、子供の甘さ(チョコ)か、幸せな甘さ(カスタード)があるけど。」
「き、君に言ったわけじゃないんだけどなぁ。私の方が歳下よ、絶対…。うーん、では私は幸せの甘さを貰おうかしら。」
「了解。1つで銅貨2枚ね。」
「えー姫様からお金取るのー?」
「当然! 銅 ランクはヒモジイんだ!」
「うふふ、冗談ですよ。」
ずいぶんと取っ付き易いおね…姫さんだ。街の人から親しまれるのも分かる。シエラはまだ緊張が解けないようで、ぎこちなくお金を受け取っている。出来上がるまでもう少しかかるし何か話しかけたほうがいいのだろうか…
そう思っていると姫さんの方から話しかけてきた。
「貴方がアンサムさんを止めてくれたんでしょ?ありがとうございますね。」
「ああ、いえ、勘違いとはいえ自分が原因だったみたいなので騒がしくして申し訳ない。」
「いえいえ、祭りの出し物みたいな感じで皆さん盛り上がってくれたので逆に良かったです。この街は娯楽が少ないですから…。それにアンサムさんが暴走する事はよくあることです。いつもはミミ…騎士団長がなんとか止めてくれるんだけど…」
「そういえば御一人なんですか?いくらなんでも姫さんなんだから護衛ぐらいは付けたほうがいいんじゃ…」
流石に平和の街と言っても姫を狙う者なんていくらでもいそうだが…物語お読み過ぎかな?
「うん、さっきまで騎士団長が一緒だったんだけどね。貴方の戦いを見た後どっか走ってっちゃった。ジイも居たはずなんだけど…はぐれちゃった?」
ミミ・ヴォルドインか、姫様の護衛もしてるのね。護衛が姫様ほったらかしてどっか行っちゃだめでしょ。
「はぐれちゃったって…どこに危険が潜んでるか分かりませんよ?」
「そうだねー。じゃー騎士団長が戻るまでここでお強い君に守ってもらおうかな。えっと…蒼汰さんでいいのかな?」
「守るって…まぁかまわないけど。何で名前…ああ、騎士団長さんから聞いてましたか。そういえば姫さんの名前聞いてないな。」
民間姫としか知らない。
・・・皆名前分かってるのか?
「私はセーラ・アタナシア・レスペランス…それが私の名前よ。セーラでいいよ?」
「そうか。それじゃセーラ姫、おやつの時間ですよ。」
「待ってました!」
出来立ての大判焼き、カスタード味を渡す。そろそろ昼時なので俺も食べようかな、腹減った。
自分の分は…んー今はチョコな気分。シエラに聞くと「やっと食べれる!もちろん全種類食べるわ!」と言うので全種類上げた。
一応結衣の分で苺クリーム味を作ってみたけど…
「…結衣、苺味作ったけど食べる?合うかはわからないけど」
「食べる食べる!苺味でホットは初めての試みです。緊張の一瞬ですよお兄ちゃん。」
「緊張の一瞬だな!美味しければ午後はそれも並べよう。結衣よ…実験台となれ!それじゃ頂きます。」
「了解です!頂きます。」
セーラ姫も待っててくれたので皆で食べる。屋台に休憩中の札を下げるのを忘れない。
「ん!んんん!?お、美味しい…うちのオヤツに出てくる物以上なんですけど…すごい滑らかなのね。これがカスタード…」
「おいしー!ソウタが作るのってなんでも美味しいね!あー結衣が言ってたドーナッツっていうデザートも早く食べたいなー」
「ドーナッツ?そ、それはなにかな?私でも聞いた事ないデザートなんですけど!?」
なんか姫とシエラがデザートの話しで盛り上がっているが結衣は静かだな…視線を結衣のほうにむけると
「苺…ホット…大判焼き…お兄ちゃん…私は美味しいと思うけど冷静に分析すると売れないかも…」
「そ、そうか…」
試しに一口結衣からもらって食べてみるが…まぁそうだなぁ。でも
「冷たければうまいかもな?」
「…!それだよお兄ちゃん!」
正直大判焼きじゃなくて良くね?って思うけど楽しいからいっか。
セーラ姫がチョコと餡子も下さい!と言った所でジイと呼ばれている執事が迎えに来て姫様を引きずっていってしまった。「ジイ待って!お願い!チョコが!餡子があぁぁぁ…」
そんな悲痛な声と共に去っていった。
・・・一応【次元鞄】に何個か作り立てを保存しておこうか。