はじめての
さて…
二人がイチャイチャしてる間に今度は先ほどの店で食べられなかったデザートを用意しよう。今回は地球産ではなくこちらのユニヴァス産だ。
「…これだな。甘いのかな?」
オレンジ色黄色のシマシマ模様の丸い果実。果実専門の露店があったのでコレだと思うものを適当に選んで買ってきた。
「あークチスボ実…ソウタ知らないの?ちょっと酸っぱくてあまり得意じゃないのよね…」
「ん、そうなのか…とりあえず切ってみるか」
包丁で真ん中からザックリ真っ二つにする。
「おお、美味しそうだけどな」
切ると出て来たのは皮の模様と同じ黄色とオレンジのつぶつぶがギッシリ詰まっていた。ミカンを剥いた実のつぶつぶがくっついてない状態で埋まってるといえば想像つくだろうか。
スプーンで掬って1口食べてみると
「確かにスッパイ!でも味はいいな…しかしこの味は…」
見た目ミカンと思っていたが食べてみると案の定ミカンというかグレープフルーツというか足して2で割ったような味だ。スッパイ蜜柑に当たった時は砂糖かけて食べると上手くて、それをしたいが為にスッパイ蜜柑かどうか店員に聞いたりしたことがあった。グレープフルーツでもいいんだけど蜜柑のほうが好きだったな。久しぶりにやってみるか。
クチスボ実を2つ程真っ二つに切り皮をそのままお皿に使う。
砂糖…コーヒーや紅茶によく使う3gmのスティック砂糖を【次元鞄】から4本取り出し、1本シエラに渡す。もう2本はサラサラーと結衣と自分の分とにかける。シエラは…
「こ、これって砂糖…よね。透明でサラサラな砂糖は初めてみた…高級なんだわ…絶対高い…」
砂糖を渡してこちらがサラサラと振り掛けてるのを凝視した後自分の手元の砂糖をじっとみながらブツブツと呟いていた。その後意を決したかのように サラッ…サラッ…と 1/5程かけて「あ、後はとっておこう、うん」と呟きポケットにしま…おうとした所で横からサッと取り上げサーと全部掛けた。
「ヒヤーー!」とムンクの叫びのポーズで叫ぶもんだから思わず笑ってしまった。
もう1つは門番の兵士さんに上げた。果物は結構好きだったらしく、結構喜んで貰えた。因みに兵士さんにも砂糖を上げたらシエラと同じ事をしてたけど何も言わないで置いた。お礼に夜はこちら側も警備してくれるそうだ。
「うん、やっぱりうまいな」
「なんか懐かしいね」
「そうだな、良く砂糖もっと!ってさがまれてたっけ」
「そ、それは小さい時の話だから!」
小さい時って…1年前くらいの話なんだけど。
「酸っぱいのに甘くて、甘いのに酸っぱくて、シャリシャリして美味しい…砂糖すごい…」
俺らの話しは聞いてないのかシエラは自分の世界に入っていた。得意じゃないと言ってたから心配したけど美味しいなら良かった。今回は砂糖ふりかけただけのフルーツだったけど今度はちゃんと用意しよう。ドーナッツ作るという約束も忘れないようにしないと。
デザートを食べた後まったりしているとシエラが本を読んでいた。
「ん?シエラ魔導書読んでるのか」
「うーんそうなんだけど、あたしあまり字読めないのよね…」
「そうなんだ、どれどれ」
「ぁ…こ、ここの詠唱の部分…なんだけど…」
シエラが持ってる魔導書を隣から覗き込み、読んでみる。
「あの幻影魔法か。早速覚えようとしてたんだね。えーと詠唱は…『月の光にて惑わし姿なき幻影を映し出せ』だね。最後に技の名前を言って完成。朝は月の光を日の光に置き換えるそうだよ。」
「ゎ、分かった。やってみる」
詠唱にも昼夜で変わったりするものがあるんだなぁ。
スー…ハー…とシエラが深呼吸して詠唱する
「月の光にぇてっ……」
「ぷふふっ。にぇてー?」
「む~~!」
あ、噛んだ
そして近くで聞いてた結衣がここぞとばかりにシエラをからかいに現れた!パシッパシッと叩かれてるのは俺だけどね。どうしてだろうね?
「こ、今度こそ…月の光にて惑わし姿なき幻影を映し出せ!【幻影付与】」
パーッと耳が黄色い光に包まれた!そして耳が消えた。
「は、発動した!初めて魔法できた!」
「おお、良かったな。…耳はお亡くなりになられたけどな…イメージ力が大切って書いてあるぞ」
「シエラおめにぇとー!」
「ぐう…結衣めえー…ありがと。」
赤面しながらもお礼を言うシエラ。仲が良くてなによりだ。
その後何回か練習してると人族の耳と同じ形を形成できるようになった。
「いい感じだな!しかしほんとに見えないんだなー、お、なにもないのに何かある!」
「っ~~!ちょ、ぞわぞわする!ばかえっち!」
何もないのに何かあるというのが不思議で少しさすってみたら怒られた。
「あっはっはっ!ごめんごめん。そういえば他にはどんな魔法が書かれてるんだ?」
そう思ってもう一度覗き込もうとすると勢いよく隠された。
「だ、だめ!こ、これはソウタにはまだ早いの!次のページなら大丈夫、こっち!」
「俺にはまだ早いってなんだ・・・まぁいいけどさ」
何を隠したのか気になるが、他のを見せてもらう。
後かいてあるのは――
一定のダメージを魔力で肩代わりする【魔力装衣】
蔦を地面から生やして拘束する【絡蔦】
拳に炎を纏わせる魔法【炎を纏う拳】
の3つか。
1つ1つ俺が読んで上げ、シエラが挑戦し、失敗すると結衣がからかう。
3時間程練習すると全部使いこなせるようになった。シエラを鑑定してみる。
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シエラ
年齢:9歳
種族:エド族
ギルド:三羽の野兎
スキル
【身体強化Ⅴ】【魔力ブーストⅧ】【疾走Ⅳ】【魔力操作Ⅰ】
魔法
【絡蔦Ⅰ】
【幻影付与Ⅰ】
【魔力装衣Ⅰ】
【炎を纏う拳Ⅰ】
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おお、魔法がちゃんと増えてる。一気に4つか・・・ミレイユさんは覚えるのに何日もかかるって言ってたけど結構すんなり覚えてしまったな。これも俺の魔力の影響なのだろうか?
シエラは魔法を覚えさえすれば【魔力ブーストⅧ】の力でレベルⅠでもかなりの力になる。慣れるのにもう少しかかるだろうがかなりの力になるだろう。戦ってる間結衣を任せる事も出来るのでシエラが来てくれて本当に良かった。そうでなくても人数が増えることはそれだけ楽しい事も増えるしね。
「よし、大丈夫そうだな。もういい時間だし寝るかー」
「ンーっ!疲れたぁ…ぐっすり眠れそう」
「うん、それじゃ・・・寝る場所決めだね!」
「ん?俺、結衣、シエラでいいんじゃないか?」
結構狭いからな…年頃だしシエラと俺は離したほうがいいんじゃないかと思うんだけど、結衣はそう思ってないのか、そういう所は疎いのかな
「え、お兄ちゃん美少女を両手に抱えて寝たいっていう夢が叶う所だったのに、こんな所でみすみす逃していいの!?」
よし、いつものお調子モードの結衣だった。
「おい結衣さんや、兄をなんだと思っているんだ…シエラもなんか言ってやれ」
「ソ、ソウタがそうしたいのであればま、まぁしょうがないわね…」
「…俺は一言も言ってないからな?」
「決まりだねお兄ちゃん!感謝してね!」
「はぁ…まあいい、眠いしもう寝よう。今日1日でかなり歩いたし、色々あった。」
「うん、いい運動にもなった!」
蒼汰は結衣の作戦?により真ん中に寝る。その際結衣の手を引く事を忘れず横に寝かす。こうやって隣でほとんど密着状態で寝るのは久しぶりだな。一緒に暮らす事になって少しした頃から俺が寝た後こっそり潜りに来てたっけね。最初は寝ぼけて間違えました…とか顔を赤らめて言ってたけどその後からよく潜りこんでくるようになったっけ。
「え、えへへ、隣で寝るの久しぶりだね、お兄ちゃん」
結衣も同じこと考えてたか。
「そうだな、半年ぶり…くらいか。…シエラ大丈夫か?」
テントの入り口で固まって動かないシエラに声を掛けるとビクッとして返事をする
「い、今行くところよ」
「ああ…無理しなくても―」
「だ、だいじおぶ。お、おじゃまします」
「お兄ちゃんの腕を抱き枕にしてもいいんだよー」
「し、しないわよ!…結衣だってしてないじゃない」
「へ?わ、私?私は別に慣れてるので全然普通に抱き枕にします…で、でも今日はちょっと寝る体制が抱き枕体制っていう気分ではないの…で。」
「はいはい寝た寝た。俺の腕は1晩金貨1枚だぞ」
・・・俺の腕、売れ残ってます。
なんてな。明日は朝食取ったらすぐトーリーさんの所に行くかな。その後は…どうするかzzz
―
――
―――
朝。
目が覚めると俺の両腕は完売していた。んー二人が起きて手を離したら俺も起きるか。恥ずかしがるだろうしちょっとした気遣いだ。
1日の疲れか、明日はどうするか考えてたらすぐ眠ってしまったようだ。寝る前に二人の寝息も聞こえていたので二人とも疲れていたんだろう。今は一体何時なのか分からないがまだ外は薄暗いな。テントの隙間から兵士さんが歩いているのが見えたのでどうやら約束は守ってくれているらしい。朝ごはんも用意してあげよう。
まず最初に結衣が起きた。起きたが…何事も無かったかのように二度寝に入りました。起きて?
5分後ぐらいに突然バッとシエラが起きてびっくりしたが特に反応せず済んだ。いやその時起きれば良かったものを少しするとそーっとまた腕を抱き枕にして寝てしまった。いや起きて?
しょうがないのでそーっと二人をはがし外に出て朝食の準備をする。
オニオン(タマツボミ)スープに露店で買った硬パンを3cm程でスライスした物を浸して地球産スライスチーズを乗せ、更に温めたものだ。いい味が出るように鶏肉も少々入っている。
足りなかったら硬パン追加で浸して食べてもらおう。
兵士さんが丁度近くを通ったので土鍋事渡す。
「うめえ!硬パンやわらけえ!チーズ伸びる!硬パンなのにやわらけえ!あ、肉!?」
という声を背に2人を起こしに行く。
・・・寝ぼけてか分からないけど2人で抱き合って寝てる。仲睦まじくてなによりだ。
「起きろーごはんだぞー」
「おにいちゃん!!」
「おわっ!ビックリした!」
「もう食べられないよぅーzzz」
・・・寝言かい
「ンーッふぁ…」
「起きたか、おはようシエラ」
「隣で大声出されたら起きるわよ…おはよう」
「ごはん用意できたから結衣起こして来てくれー」
「ふぁいー」
2人がノソノソテントから出てきて、3人で朝食を取る。
兵士さんも隣に来てこの街の事を色々話してくれた。
1年に1回ある月青祭。月が青くなる前日と当日の2日間でやるらしい。
1日目は屋台がズラッと並ぶそうであらゆる場所から露店商が集まるそうだ。自分の店を持ってない露店メインで活動してる人達らしく、祭りという祭りを追いかけて大陸の端から端へ大移動しているらしい。基本的に露天商の人達は目的の場所が同じなので固まって移動するんだと。祭りの時は食べ物メインの屋台として店を出すそうだ。
パランルーナにも姫という者が居るらしく、皆から民間姫と親しまれている。なぜそう呼ばれているかというと、この街は城をあえて建てておらず普通より少し大きいくらいの家で暮らしているらしい。ちょくちょくそこらへんの露店を見に突然現れるので最初は戸惑いもしたものを、今では気楽に声をかけられるくらいになっているそうだ。その姫様が屋台を回るらしく、姫が選ぶ『月青賞』という特別な賞に選ばれると 月 のバッチが貰えるらしい。そのバッチを付けると、そのギルドの捺す印に小さく月のマークが入るようになり商人にとってそれは名誉な事なんだと。バッチか…屋台はいっぱいあるし出店したとしてもカッパーじゃ食べてももらえなそうだなぁ
2日目は街が綺麗な状態で夜を迎える為皆が一丸となって清掃をするそうだ。1日目で食べて出たゴミをそこらに捨てる奴はどこにでも居るんだな。
夜になり、ブルームーンとなった後その日しか飲めない月青酒が1杯ずつ配られゆっくり飲むんだと。これはアルコールが入ってないらしいので日本で年越しに飲んだりした甘酒みたいなものだと思う。
さて、片付けも済んだしトーリーさんの所に行ってみよう。確か湖沿いの南側と言ってたか。
シエラは【幻影付与】を覚えたが、この街では既にエド族だと知られてしまっているので、この街に居る間は奴隷の首輪(偽)を付けてもらうことにした。
まだ露店は準備中らしく客はいない。さっさとその場を抜けてトーリーさんの店に辿り着く。
道具屋トーリーとでかでかと扉の上に掲げられており、大変分かりやすい。流石 金 ランクなだけあって店は大きく、客もそれなりに多い。レジの所にトーリーさんは居なかったが知り合いだと伝えると裏方のほうを指して奥へどうぞ。と言われたので入っていった。
シエラの台詞でだ、だいじおぶとありますが誤字ではないです。