狐っ子
「こんにちは、あ、勝手に食べてごめん…これはなんかの卵だよね?なんか騒いでだけど問題あるのかい?」
卵黄と卵白の色が逆転してるけど味は普通の卵だ。この少しピリっとした味はリミーヤの実と漬けたからする味だろう。あまり辛くない唐辛子って感じかな?良く染みていて中々美味しい。
「ちょ、ちょっと!それ最初に聞いてから食べなさいよ!」
「料理の事でお兄ちゃんは止められないのです!でも落ちている物食べるのは危ないよ?お兄ちゃん」
「お腹壊しちゃうわよ…」
シエラと結衣に怒られたけど仕方ない、食べたいのに全部落ちちゃってるし、落ちてるのしかないのならそれを食べるしかない!
「は、はいオムヒゥ鳥っていう鳥の卵、です。」
「へぇ、鳥の種類は詳しくないけど面白い卵だね」
「は、はいっ黄色いの、と、白いの、が他の、鳥さんと、反対、です。珍しい、です。」
あー卵黄と卵白の事か。この卵が特殊だっただけか。
「黄身が外側だったらゆで卵にした後普通に剥いたら崩れちゃいそうだけど不思議だなぁ」
「あ、こ、これはコツが、あって」
料理って不思議な事が多いんだよね。少し手を加えるだけでガラッと変わる。それが分かるのかこの狐っ子ちゃんも楽しそうに料理の事を話してくれる。さっきまで垂れてた耳も今は元気にピコピコ動いてる。
やっぱり小さい子は笑ってないとな
「よしよし…」
やはりつい撫でてしまう…あ、耳フサフサで気持ちいい。シエラが「いいな、私も触りたい…」とソワソワしている
「ふぁ…あ、だ、だめ、です。汚い、ですよ」
「そんな事ないよ。料理が好きなのか?」
「は、はい!好き、です!お母さんの料理、魔法みたいで、綺麗、でした!私も同じ、なりたいです。」
魔法か、確かにいろんな食材を美味しい料理に変えていったら子供には魔法に見えたりするのかな?
「キミならなれるよ、絶対に。あ、店の人戻ってきそうだな。邪魔してごめんな、それじゃ頑張れよ」
「ぁ…えっと!…はい、です…」
あ、あたしの撫でる番が…とシエラが呟いているが気にしない。
ソウタって小さい子が好きなのかな…とも呟いてるが気にしない。いや好きだけど変な意味で好きってわけじゃないからな・・・?
しかし狐っ子ちゃん、罰とかなければいいけど…心配だな。
チラっと見たら狐族金貨20枚と見えた。人につける値段で高い安いは分からないけど普通の奴隷が銀貨数枚、ここ隷白館の奴隷は金貨1~2枚だったのを見ると大分お高い。
外を出る前にミレイユさんにバッチを返しに行こうとすると、乱暴な女性の声と共に入り口から見覚えのある団体様がやってくる。
「おらとっとと歩け!」
「クソッ!そういうならこの拘束解けってんだ!」
「ああん?知るかよ。魔法が高位すぎてオレじゃ解けねえ。どうなってんだこの【砂束縛】は……よう!ミレイユ!邪魔するぜーいっと接客中だったか、わりぃわりぃ」
「もう…ミミちゃんもっと女の子らしくしないと貰ってくれる男が現れないよ?」
「ミミちゃんって呼ぶな!ヴォルドインだ!もしくはヴォルド!…男なんて弱っちいのばっかでなーこっちから願い下げだぜ」
「流石女性初の騎士団長様。理想が高いのね?」
「うっせ。それよりこいつら外で拾ったんだけどよ…鉱山奴隷送りにすっから登録頼むわー」
「拾ったって…」
「いやまじで拾ったんだよ」
ミミ・ヴォルドイン。赤い軽装の鎧で金髪の髪を後ろに雑に束ねた女性だ。
そのミミちゃんがグッと20人纏めて拘束された盗賊を引っ張り、盗賊達は体勢を崩しながらズサーとこちらまで引きずられてくる。
「あ…?」
1人の男の視線がこちらに向き
「え…?」「ま…」「こ…」
全員の視線が俺に集中する。
「あー…どうも?」
取り敢えず片手を上げて挨拶をしてみる。
「こ、殺されるうううううう」「は、はやく、鉱山!ぼ、ぼく鉱山行きたい!」「鉱山楽しみだぜ!早く!頼む!」
お、怯えなくてもそんなひどい事してないでしょ…
「な、なんだお前ら?一体何にビビってんだ?」
「こ、こいつだ、こいつにやられたんだ。じゃ、じゃない、こ、このお方に自分達き、気付かされたんす、盗賊は悪いことこととだって。い、一生奴隷とし生き罪を償っていく所存です、ハイ」
「へー…強そうには見えないけどな」
騎士団長様はニヤリと笑った。嫌な予感がする。
「ちょっと、ミミ!!」
ミレイユさんがそう言った時には既に剣は抜かれ、『ガキン』と音がなる。抜いた勢いのまま俺の脇へ剣を振ってきたようだ。
【危険察知Ⅹ】のおかげで攻撃が来る事は分かっていたので帯刀している刀をわずかに鞘から抜き、刃を受け止めた。
「へえ!寸止めのつもりだったがまさか止められるとわね。よっしゃ久々に燃えてきたぜっ!」
ミミちゃんは剣を横にして前を持っていき呪文らしきものを唱える
[我が刃に灼熱の炎を!【炎を纏う剣】」
「お、おい…簡便してくれよ…」
「問答無用!炎刃――」
次の攻撃が来る所でミレイユさんが後ろでぼそぼそと詠唱してたのが終わる。
「【絡蔦】!!」
無数の蔦が地面から生えて来て騎士団長を拘束する。
「くっ、おい!ミレイユ!いい所なのに邪魔すんな!」
「ほんとミミはしょうがないわね…小さい頃は可愛かったのに」
「…おい?小さい頃の事は――」
「9歳の時、夜風の音が怖くてトイレに行けなくあの歳でおね――」
「分かりました!大人しくしてます!」
「…すいませんね、蒼汰さん。強い人を見るとすぐこうなのよ」
「い、いえ。特に怪我とかもしてませんしね」
「…悪かったな、久々に全力で戦える気がしてついな…。オレは強くなりてえんだ。まだ…まだ足りない」
「ミミ…」
シュルシュルと蔦が地面に帰っていった。
穴だらけだけどいいのかな…
「ま、ソウタとか言ったか?今度会ったら試合しようぜー。ミレイユとっとと登録頼むわぁ」
「はいはい…騒がしくてごめんね、では蒼汰さん、また何かあったら寄ってください」
「あ、はい分かりました、ではこれで」
ふう…【危機察知】が早速役にたったな。
別れる前にこっそり二人を鑑定してみた。
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ミレイユ
年齢:28歳
種族:エド族
スキル
【身体強化Ⅲ】【鑑定Ⅶ】【魔力操作Ⅲ】【魔力ブーストⅢ】
魔法
【風の加護Ⅲ】
【大地裂傷Ⅱ】
【風魔乱舞Ⅱ】
【風圧爆散Ⅱ】
【魔力装衣Ⅶ】
【絡蔦Ⅴ】
┗蔦を生やし、相手の動きを止める。レベルによって拘束力が高まる
【幻影付与Ⅴ】
┗対象に幻影を付与する。
【視界を欺く体Ⅲ】
┗自分を透明にする。レベルにより透明に出来るものが増える。
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ミミ・ヴォルドイン
年齢:16歳
種族:人族
スキル
【身体強化Ⅵ】【剣術Ⅵ】【疾走Ⅳ】【危険察知Ⅲ】【気配察知Ⅳ】
【火精霊の誓い】
┗火の精霊と契約し、助け合う関係となった証。
【炎刃よ舞えⅣ】
┗ 一振りで何枚もの火の斬撃が飛ぶ。発動条件【炎を纏う剣】
【炎の波動Ⅲ】
┗ 斬撃を閉じ込めた炎弾を飛ばす。発動条件【炎を纏う剣】
【絶えぬ炎の衝撃Ⅴ】
┗自分が通った場所を SLv ×秒数遡り、火柱を上げる。
魔法
【精神斬】
┗肉体を傷つけず、精神にのみダメージが与えられるようになる魔法を武器や体に宿す。
【炎を纏う剣Ⅴ】
┗剣に炎を纏わせる
【炎を纏う鎧Ⅴ】
┗精霊魔法の1つ。体を炎と化し一定時間物理を無効とする。
【駆ける龍炎Ⅱ】
┗己に関わる炎をSLv×千度まで上げ放つ奥義。発動条件【炎を纏う鎧】
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ミレイユさんは中々に強そうだが、ミミさんの能力が凄まじく霞んでしまう。
16歳で騎士団長…努力か、天才か、両方か。
その実力はスキルを見るだけで分かる。
見ただけでヤバそうだ、敵対したくはないね…。
【精神斬】は今後使えそうなので7000Pで会得した。
扉を出て行くときに「あ!後盗賊放置してくんじゃねー!」って叫んでたけど聞こえなかったことにしよう。
「・・・」
シエラがジッとミミさんを見てるけどどうかしたのかな
「シエラ、何か気になることでもあるのか?」
「あ、いや…ミミさんの周りにふよふよしてるのなんだろうなって」
ふよふよ?特に何も見えないけど
「んん…?それよりそろそろ飯にするか!この街の料理も食べてみたいしな」
この街の、というかこの世界の、だけどね。
「うん、でもこのウサちゃんどうしよ?」
「【次元鞄】に生き物は入らないしな…よし、今こそ【幻影付与】の出番だシエラ!」
「ま、まだ使えるわけないでしょ!とりあえずお店の人に聞いてみましょ?」
さっきギルド前で見た地図の南東の方に飲食店が固まって居ることを覚えていたので歩いて向かう。
あたりはすっかり暗くなっていて、既に酔っ払っいながら歩いている人もいる。
2日後に来るブルームーンの影響で結構この街に観光目当ての人が多く来ているようでどこも人が多い。
「どこも人がいっぱいだなー」
「ねぇ、あそこ人全然居なくない?多分お店だと思うんだけど…」
「ん?本当だ、入ってみるか」
「人気じゃないのかな?」
カランカランと扉を開けると子気味のいい音が鳴る。
奥から出てきたのは犬耳のお姉さんだった。
「あ、お、お客様。すいませんこちらは皆店員が獣人なんですが…」
「はい。…あ、人族はダメでしたか?」
「い、いえ、お客様が宜しいのであれば大丈夫でございます、こちらへどうぞ」
「あ、その前にこの動物…店内に入れても大丈夫ですかね?」
結衣がウサギを両手に掲げて「この子です」と見せる
「はい、大丈夫ですよ。見たことない動物ですねえ」
ハハハ…と誤魔化して案内してもらう。
周りを見るとお客は獣人しかおらず、皆気まずそうにしている。あ、そうか。獣人は人族によく思われてないんだったか…獣人は人族の事どう思っているんだろう。よく思ってるはずもないか
外は人族でごった返しているがここは獣人しかおらず、獣人の人には安らぎの場所だったのかもしれない。なんだか申し訳ないな…
そう思っていると追いかけっこでもしてたのか二人の獣人の子供が走って来て、先頭に居たうさ耳の子が足にポスンとぶつかって来た。
「「あ・・・」」
後ろの子と俺の言葉が被る。
狭い所で走ってると危ないぞーと優しく注意しようとしたのだがそれよりも早くその親御さんが顔面蒼白で走ってくる。
「も、申し訳ありません!!うちの子が人族様にぶつかってしまい、本当に申し訳ありません!!ば、罰は私が受けますのでどうか子供だけは…どうかぁ…」
すごい勢いで謝りながらうつ伏せになって謝っている。
土下座みたいなものなのか…?
「い、いえ気にしないで下さい。元気があっていいじゃないですか」
「え…?」
「ほら、キミたちこれ上げるね、気を付けなきゃだめだぞー」
レモン、ぶどう、いちご味の飴玉を2つずつ出して子供に上げる。
「あ、ありがとうです!あとあとごめんなさい。」
「ありがとです!ごめんなさい!」
後ろでシエラが「飴ちゃんいいな…」ってつぶやいてる。なんかシエラ後ろでボソっと呟くこと多いけど全部聞こえてますよ…?後で上げるから。
「ええと、今のは…」
「あ、大丈夫ですよ。ただのお菓子です」
「そ、そんな!お、お金はあまり無く…」
「いやいやいやいや気にしないで下さい。ではこれで失礼しますね」
「え、は、はい!ありがとうございました。」
獣人は本当に扱い悪く生きて来たんだな…差別…か。
今のやり取りで警戒が解けたのか、店内が元の雰囲気に戻っている。
店員に案内され木の椅子に座り、メニュー表を広げる
んー…文字だけのメニューな上どんなものが出てくるのかさっぱり分からない名前ばっかりだ。分かるのはリミーヤ系とチゲエ串っていうものだが…絶対あの魔物だ。っていうか名前違ったよね?正式名使ったげて!
・・・さて何頼もうかな
次回は土日挟んで月曜日です。
もうストックがないので来週からは週2,3回更新になりそう